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王太子は傷物令嬢と結婚したい 13

 サラの忠告が気にはなるものの、どう関係を修復して良いかわからずに過ごすうちに、夏が終わりかけていた。つまり、デビュタントの時期になってきたのだ。

 待ちに待ったデビュタント、彼女が成人を迎えたらできるだけ早く結婚するつもりである。


「そろそろデビュタントだね?」


 できるだけ何気ない様に装って彼女に話題を振ると彼女は少し不安げな顔で頷いた。


 王太子である僕がエスコートするから注目の的になるだろう。それが心配なのかもしれないが、彼女の立居振る舞いは完璧なので何も心配することはないよ、と口に出そうとした時に、彼女は少し照れながら、爆弾発言をした。


「えぇ、お義父様がエスコートしてくださると張り切っておりますわ」


 なぜ、ここで子爵が出てくるかわからない。婚約者がいる令嬢は、余程のことがない限り、婚約者がエスコートするものなのだ。そして僕は彼女のデビューの際のエスコートを幼い頃から夢見ていたのだ。デビューに夢を見るのは女性ばかりではない。

 悪いが、いくら彼女をここまで育ててくれた父親だとしてもこれだけは譲れない。


「子爵には残念なことだろうけど、君のエスコート役は僕が務めるからね、イヴ。もちろん、ドレスも贈らせてほしい」


「ジェイ様、できれば義父の長年の夢を奪わないで差し上げてくださいませ。これからは、ジェイ様はいつでも私をエスコートできますでしょう?」


 断言できる、リザム子爵よりも僕の方が君のエスコートを待ち望んでいたと。10年以上前から僕がすると決めていたのだから。確かにこれから先は僕以外に彼女のエスコートをさせるつもりはないが、それでもデビュタントのエスコートは特別なものである。


 ちらりと僕の顔を見ると彼女は何かを思い悩む様に、下を向いてしまう。そして一瞬どこか遠い瞳をした。その瞳に何となく、不快感を覚え、彼女の意識をこちらに向けるべく、声をかける。


「僕とのお茶会の時間に他のことを考えるなんて、余裕があるね、イヴ?」


 彼女は、はっとこちらを向くと「考えていたのはリザム子爵のことだ」と言うが僕の直感が、違うと訴えかけている。けれど、それがなんなのか掴めない。とりあえずエスコートすることとドレスを贈ることだけを約束させて、それ以外のことは後からゆっくり調べよう。


「悪いけど、僕も譲るつもりはないよ。デビュタントは結婚できる年になったというお披露目だ。だから、婚約者がいるのであれば、婚約者がエスコートして、売約済みであることを示す必要があるからね。

 このデビュタントで正式にイヴとの婚約を発表する予定なんだから、絶対にこればかりは譲らない」


 そう、彼女との婚約に関しては母が横槍をずっと入れていたので、何とか婚約はしたものの、式は身内だけでひっそり行ったお陰で彼女の認知度は王宮以外では低い。このデビュタントで彼女は僕のものだとしっかり喧伝しておく必要があるのだ。そして、他の愚者が手を出せない様に、国中の主要貴族が集まるデビュタントの会場で婚約を発表する様に父に依頼してある。

 イヴは少し困った顔をすると、僕に聞いてきた。


「ジェイ様、私は義父が張り切っておりますので、エスコート役に困ることはありませんが、ジェイ様の身近の方でお困りの方はいらっしゃいませんか?

 それに、婚約の発表ももう少し日をおいても良いかと…」


 やはり、サラのことは彼女の耳にも入っていて、珍しくサラの予想通りに不安にさせてしまったのだろう。申し訳ないとは思いつつも、彼女のどことなく寂しそうな顔を見て嬉しくもなる。僕に他に女性ができて悲しそうにするのは、彼女にとって僕はいなくなったら寂しいと思えるほどの相手になったのではないかと、そう思ったからである。


「僕の身近?婚約者たる君を放ってまでエスコートしないといけない相手はいないね。婚約の発表も譲る気はないよ。変な虫が湧いても困るしね」


 僕は彼女の手を優しく握りながら、君以外に大事な人はいないし、婚約のお披露目を延期するつもりはないと伝える。それでも気乗りしなさそうな彼女に「僕の言うことはなんでもきく」のではなかったのか、と仄めかすとようやく彼女は頷いてくれた。僕を尊重してくれているのか、彼女は僕に対していつも遠慮がちである。もう少し僕に慣れてくれたら、もっと我儘を言ってくれたり、不安を吐露してくれたりするだろうか?

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