表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/204

王太子は傷物令嬢と結婚したい 12

 王太子宮における、ルーク家の手駒の排斥とクラン家の馬鹿兄妹の調査に追われたことで、イヴには10日ほど会えなかった。ひと段落して久々に会ったイヴはどこかよそよそしい雰囲気を醸し出していたが、10日も会わずにいたからだろう、と深く考えなかった。

 彼女はいつも通り、僕の勧めた詩集や小説の話をして、帰っていった。


 その後も何度かお茶会をしたが、彼女の態度は変わらず、なんとなくよそよそしさを感じた。けれど僕のことを「ジェイ様」と自然に呼ぶ様になってくれていたし、僕からのスキンシップを嫌がる素振りも見せなかったので、気にしすぎかな、とも思うがなんとなく気にかかる。


「え?馬鹿じゃないの?本当にわかんないの?私とジェイドについての噂を聞いたせいなんじゃないの?ちゃんと話してる?私とジェイドの関係のこと」


 イヴの態度についてアスランと話していたら、サラが呆れたように口を挟んできた。


「いや、話してはないが…」


「話してないなら、そりゃあ気になるでしょうよ。自分の婚約者が他の女といちゃいちゃしてるんだから!なんで言ってないのよ、私の評判を下げるためのお芝居だから気にするなって一言言うだけじゃない」


「うん、まぁ、そうなんだが…。正直イヴにそこまで好かれている自信がない。誤解なんだ、サラとのことはお芝居なんだって言っても、『そうですか』って言われそうと言うか…」


 そう、彼女はようやく僕のことを名前呼びしてくれるようになったが、依然義務的な態度を崩してくれない。僕の趣味を聞いて会話を増やそうとしたりしてくれるが、『お仕置き』がないと、彼女と僕はただの読書友達くらいの距離感になってしまう。いや、世の中にはそう言う夫婦も婚約者もいるだろうが、僕が望んでいる彼女との関係はもっと深いものなのだ。


 正直に言って目の前にイヴがいたら触れたいし、キスもしたい。けれど前回のことで気づいたのだが、僕は彼女から『好き』の一言も貰えてないのだ。だからなんとなくだが、彼女にあと一歩を踏み出せなくなってしまった。

 キスは受け入れてくれているが、快感を与えられ慣れてない彼女はただ快楽を享受しているだけではないのだろうか?つまり、それをもたらす相手が僕以外の誰かでもいいのではないかと思っている。

 

 もちろん今後も彼女に男を近づけるつもりはないので、彼女にキスをするのも、快感を与えるのも、この先一生僕だけだ。他の男には触れさせないし、許さないが。

 

 恐らく今はまだ彼女は僕のことを愛していない。僕が彼女の額にキスをすることを許してくれるので、親愛の情はあるだろう。

 けれども彼女は僕に対しては、いつでも身を引ける程度の感情しかきっと抱いていない。『誰にも渡したくない、愛する婚約者』だと思われてないのだ。

 今の状況で、下手に『サラが婚約者として望ましいと名前が上がってるから、その話を払拭するために彼女と一芝居うってくるから』などと言おうものなら、『私のことはお気になさらず、どうぞ相応しい方をお迎えください』ぐらい言いそうなのだ。


 彼女のことを諦める気はないし、絶対に結婚してやる!と思っているが、僕とて普通に思春期の男性なのだ。好きな子から何度も他の人間を勧められるような言葉は聞きたくない。


「あぁ、エヴァはお前に惚れてなさそうだもんな。『相応しい方がいらっしゃるならその方をお迎えください』とか言い出すだろうな、多分」

 

 僕が口に出せなかった懸念を、あっさりと口にしたアスランをじろりと睨む。


「え?なに、相思相愛の恋人同士とかじゃないの?ジェイドの片想いなの?まさか、前回のがファーストキスとか言う?」


 血相を変えたサラが勢いこんで聞いてくる。重々しく頷くアスランを尻目に、僕は首を振る。


「うち内とはいえ、きちんと式を上げた婚約者同士だし、キスだって何度かしてる!」


「つまり恋人じゃなくて、婚約者として縛ってるだけってこと?

 うぇ、やだ、まじ引く。犯罪者じゃん。

 いい?ジェイド、一途な恋心とやらはある程度報われてから使われるもので、そうでないのに付き纏うのはストーカーという犯罪だよ?」


「その意見には俺もすげぇ賛成けどな、もしそうならどうする、サラ」


 渋い顔をしたアスランの問いにサラはけろりと答える。


「どうもしない。このままお芝居続けるよ。他の人を好きな人と結婚なんて絶対にする気はないし、そもそも私が王妃になんてなれると思う?」


「国が滅ぶな」


「なんだかさ。ジェイドといい、アスランといい、グラムといい、私のことなんだと思ってるの?ちょっと活発なだけじゃない」


 その件については頷けない何かがあったので僕もアスランも黙る。その沈黙を答えとしてほしいものだ。


「ま、ともかく。ジェイドは生理的に無理。エヴァちゃんには悪いけど、引き取ってもらう。本当に申し訳ないとは思うけど、私は私が1番可愛いもん。

 まぁ、権力も金も地位もある変質者だから、目をつけられたのは不運だろうけど、なんとか幸せに生きていってほしいと思ってるよ。…と言うか、多分逃げられないだろうし。

 ともかく、計画を変更するつもりはないから、ジェイドはちゃんとエヴァちゃんにフォローしておく様に。じゃないと捨てられても知らないよ」


「この件については話すつもりがないけど、ちゃんと僕がイヴを想っているってわかる様に行動することにするよ。

 まぁ、もしイヴがこの噂のせいで、僕と婚約解消したいと言っても絶対に認めないだけだから、逃げられることはないと思うんだ」


「うっわ、きっも!」


「最近サラは僕に対して不敬がすぎないか?」


「よくよく思い返してみ?今の自分を客観的に見て?気持ち悪くない?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] サラ嬢の漢ぶり。 [一言] 令嬢教育の跡がない令嬢の双極ですね、サラ嬢とイリヤ嬢。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ