乙女ゲームの世界だと思うのですが 攻略対象者2
先ほどまでわたしの婚約者だった、グラムハルト・フォン・ルーク・ベネディはこの国の宰相をしているベネディ侯爵の嫡男である。年齢はわたしの1つ上の16歳。彼は黒髪黒目の怜悧な印象の青年である。ジャンルとしては秀才キャラであるが、彼は自分の能力の高さを過信しすぎて、周りが馬鹿に見えるという、良く言えばナルシスト、悪く言えば客観的な視点を持たない、只の阿保という名の、井の中の蛙だ。
暴力を嫌うという設定があったにもかかわらず、12歳の頃、王妃様開催のお茶会で偶然会ったわたしを階段から突き落としてくれやがった紳士である。結果、わたしの右足の大腿部に傷痕を作り、その責任を取るために先日まで私の婚約者だった。
彼はプリキスでは、ナルシストなところがやや鼻につくものの、細やかな気遣いとヒロインに対する粘着質な程の愛でジェイドと人気を二分していた。
なんと彼はヒロインが自分以外の男と話をしたりするだけで嫉妬してくると言う鬱陶しさを保持していた。そこが胸キュンらしい。よくわからない、鬱陶しいだけではなかろうか。
そんな鬱陶しさを保持する彼だが、私の婚約者だったときは手紙の一通、花の一輪も寄越さない男であったので、私に興味は一切無かったのだろう。
驚くのは、彼がヒロインを好きになった理由で、なんと幼馴染の王太子が好きな人だからである。正直拗らせてるとしか思えない。なんだ、お前は王太子に何か含むところがあるのか、と聞きたいところである。
ちなみに彼とも12歳以降会っておらず、ーーなんと人に怪我をさせて見舞いにも来やがらなかったのでーー彼がわたしを突き飛ばした理由は今以て不明である。
転がり落ちる途中の階段で切ったのか、右足の大腿部がすっぱり切れており、大量出血をしてしまったので、私の右足の大腿部にはひきつれた様な醜い傷跡が大きく残っている。
幸いにも神経にまで損傷がなかった様なので、動きに制限はないが、寒い夜などは時々痛む。
この様な醜い傷跡を誰にも見せたくないので、グラムハルトが私に興味がないのは良いことだった。もし婚約したままだったとしても、ゲームが始まれば、彼はサラに夢中になるだろうから、婚約破棄されただろう。
もしサラがジェイドを選び、彼が私と結婚する様な事態になったとしても、おそらく彼は私に手を出してこなかっただろう。
彼のルートの悪役令嬢は、伯爵令嬢であるアリアナ嬢である。彼との婚約は解消されたので、これからアリアナ嬢と婚約するのかもしれない。