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【12月1日 2巻発売】婚約破棄した傷物令嬢は治癒術師に弟子入りします!  作者: 三角 あきせ
一部

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王太子は傷物令嬢と結婚したい 3

 エヴァンジェリンは僕の伴侶だ。絶対に逃さないし、誰にもあげるつもりはない。僕が彼女を取り戻すまでの間、一時的にルアードに預けるだけだ。彼女の髪1本にですら、ルアードに触れさせる気はない。もちろん他の男にもだ。彼女の身を守らなければならない。


 まず、手駒が必要だ。彼女を守るための者と、情報を手に入れるための者。計画を実行するために動いてもらう者だって必要だろう。それに将来王妃となる彼女に教育を施す者も。


 色々と考えた末、僕はクラン一族の人間と手を組むことにした。そう、愚かなファウストは直系血族を追い出し、それに不満を持つ者たちを力で無理矢理抑えているのだ。その不満を持つ人間たちを利用するーーもとい手を組もう。


 まずは旗頭となるアスラン・フォン・クランを手に入れるべきだろう。本来なら乳人や乳兄弟であるサラは僕の手駒となるべき存在だが、母の息がかかっているため、頼れない。

 秘密裏にアスランに接触するためには、人を雇う必要がある。僕が王太子でしかない以上王家の影は使えない。

 クラン家の影の中にもこの事態を不快に思っているものもいるだろう。離反者を掌握できればいいが、傍系の伯爵家から婿入りしたとは言え、一応ファウストは当主だ。彼に従っているものも多いだろうから、見分けがつかない。


 仕方があるまい、まずは僕自らが動くことにしよう。僕は稀にお忍びで城下に降りることがある。その時の服を引っ張り出すと、夜中にこっそり城を抜け出した。

 そして、王都の中でも治安の悪い裏路地に入る。お忍びの服とは言え、王太子が着るものである。見る人が見れば、平民が着る物ではなく、貴族が着るものであることはすぐにわかる。

 獲物はすぐに餌に引っかかった。僕を誘拐しようとしたのか、身ぐるみを剥ぐつもりだったのか知らないが、男たちが絡んできた。


 幸い僕は火と風という攻撃力の高い魔法を自在に操れた。もちろん剣だってそこらの騎士よりよっぽど上手に扱える自信がある。

 彼女が結婚するまで8年以上時間はあるが、かと言って長い間、彼女を他の男の手に預けたままにしておくつもりはない。出来るだけ早く迎えに行くためには手加減や妥協などするつもりは一切ない。


 風を操り、襲ってきた男たちを片っ端から切り刻んでやった。そして血まみれで倒れているやつに、情報ギルドの居場所を訊ねる。

 それを何度か繰り返したところで、ようやく欲しい情報が手に入った。その足ですぐギルドへ向かい、自分の部下になる様に誠心誠意、説得した。

 もちろん、僕が王になった時に色々と便宜も図ってやることも仄かした。もし彼らが役に立たないのであれば、さっさと処分すればいいのだから、何も問題ない。

 こうしてまずは頭を手に入れる。次は足が必要だ。アサシンギルドの位置をギルド長に聞き、次はアサシンギルドに説得に向かった。


 彼らの伝を辿り、説得を繰り返し、僕は『僕に服従する部下』を次々と手に入れた。

 裏切られてはかなわないし、新しく良い手駒を手に入れるためには、けちくさいことや理不尽なことはしてはいけないので、働きに見合った報酬はきちんと出す様にした。


 もちろん僕の部下が住むあたりの下町が潤う様に利益を流すことも忘れなかった。王太子の名の下に慈善事業の一環として、下町を整備したし、孤児院や病院の建設もした。彼らのある程度の違法な行為も目を瞑った。と言っても賭博や盗品の売買くらいまでで、人身売買や麻薬などは絶対に許さなかった。

 そしてその被害に僕の部下やその家族が被害に遭ったら、救出し、その上で相手に手酷い報復をした。僕の部下ならば僕が庇護すべきなので、当然のことであろう。もちろん見舞金を出し渋る様な真似もしなかった。


 そのように手を打っているとだんだん僕についた方が良いと考える組織が増えてきた。きちんと見極めながら、僕は着々と手駒を増やしていた。そのうちに下町のNo.2と呼ばれる男が僕に近づいてきた。ザインと名乗ったその男は僕と同じく人身売買や麻薬に嫌悪に近い感情を抱いていた。


 この町の首領と呼ばれる男は麻薬も人身売買もなんでもござれの根っからの悪人で、ザインの家族や恋人が以前被害に遭ったらしい。

 首領に対抗するうちに彼を慕う人間が集まり、気づくとNo.2と言われる様になっていた、と彼は話した。40近い年の一見見窄らしい男だが、話してみると正義感が強く、頭も切れた。これは掘り出し物である。僕は彼にトップを僕が葬るから、代わりにこの町を仕切って欲しいと伝えた。最初こそ彼は自分はその器ではないと断っていたが、同じ被害者を出さない様にするためだと根気強く説得したら彼は頷いてくれた。


 話が決まれば、後は簡単だ。僕は単身でこの町の首領だと言われる男の屋敷に押し入り、さっさと処分した。その後のトラブルの処理の仕方や残された人間の選別や対処の仕方を見て、ますますザインが気に入った。


 とうとう下町の首領がザインに変わった頃、彼は跪いてこう言った。

「表向き下町の首領を引き受けますが、本来の首領はあなたです、私はあなたに忠誠を誓いましょう、殿下」

 

 こうして僕は王都の下町を手に入れることになった。彼らには陰ながらのエヴァンジェリンの護衛を依頼した。


 ザインを始め、彼らはなかなかいい働きをしてくれた。14歳の頃、ようやくアスランを連れ戻すことに成功した。アスランは放逐されたかたちで留学しており、辛うじて屋敷はあるが、使用人はおらず、着る物はおろか、食べることすら事欠く生活をしていた。それにも関わらず、いつかクラン家を取り戻す、エヴァンジェリンも迎えに行くと勉学に励んでいた。

 エヴァンジェリンを大切に思うならば彼は同志である。もちろん血の繋がった実の兄でなければ粛正の対象であるが。


 アスランを連れ戻し、アッシュとして僕の護衛騎士として側においた。なかなかに彼は優秀で、ーーさすがエヴァンジェリンの兄だーー僕の執務に関しても手助けをしてくれていた。鳶が鷹を生む、というがよくあのファウストから、アスランとエヴァンジェリンが生まれたものである。


 エヴァンジェリンが子爵家へ養子に行かされた後、ファウストが彼女の義妹を連れてやってきたが、ひどい有様だった。

 王太子の部屋に許可なく勝手に部屋に入ってきて、べたべた抱きつく。お茶を用意させたがマナーがなってなく、喋り方も立居振る舞いも下品だった。美しくも愛らしくもなく、魔力も低い。よくもまあ恥ずかしげもなく公爵令嬢を名乗れるものである。


 しかし、これはなかなか有益な情報でもある。こんな下品な、愚かな娘をクラン家の使用人たちは是としているだろうか。もちろん答えは否であろう。このためにアスランを手元に置いているのだ。こうして僕はクラン家の使用人と公爵家の影も手に入れた。そうして、ゆっくりとファウストの力を削いでいく様にした。

 使用人に見捨てられた主人ほど困ることはない。かの家の執事も家政婦長もメイド頭もアスランの味方だったので、ファウストは気づかぬうちに社交界から居場所を少しずつ奪われていっていた。気づいた時にはもう手遅れであろう。



 さて、ここまで準備が整えばそろそろ彼女を返してもらって良いだろう。グラムハルトに、王妃主催の茶会に出席した彼女を僕のところへエスコートする様に命令した。この時まで彼は実に忠実な僕の側近の1人だったーーもちろん、表面的には、である。アスランのことも、僕の影の手下のことも一切伝えてなかった。奴は生真面目すぎるので、一悶着起きそうだったし、何よりグラムハルトは母の甥にあたるので、信用しすぎるのは危険だったからだ。


 しかし、ここで「ブルータス、お前もか」と言いたくなる様なことをやつは仕出かした。エスコート途中のエヴァンジェリンを階段から突き落としたのだ。その上で、彼女を傷物にした責任を取ると言って、今度はグラムハルトがエヴァンジェリンの婚約者に収まった。


 こいつも粛正対象かと処分することを決めたが、今奴を処分すると、母に何か勘付かれるかもしれない。表面上はいつも通りに振る舞い、奴を側近から外す様なことをしなかった。もちろん振る仕事は精査をしたが。


 僕と彼女の婚約が反対された様に、グラムハルトとエヴァンジェリンの婚約も反対するものが多かったのだ。だからそこに漬け込んで何も知らない顔をして邪魔をしていこうと計画を立てる。

 後日、僕は彼女と連絡をとれる様にとベネディ家の息のかかっていない者として、僕の意図通りに動く侍従を1人紹介した。


 ルアードの真似をしてエヴァンジェリンを手に入れたはいいものの、彼女に対して罪悪感があったのか、最初のうちは控えめに、だが次第に高頻度で、エヴァンジェリンに手紙や贈り物を渡す様、侍従に命じた。

 もちろん、その侍従には、グラムハルトの手紙や贈り物は決して彼女に渡さない様に事前に命令していたので、グラムハルトが彼女に接触することは一切なかった。手紙は燃やさせ、贈り物は受け取ってもらえなかったと突き返す様に命令しており、彼は実に忠実に従ってくれた。

 もし、グラムハルトがアポも取らずに単身で子爵家に向かったなら会えたかもしれないが、なにせ相手は生真面目の化身である。その様な不調法な真似はしまいと思っていたが、まさにその通りだった。

 

 そうしてエヴァンジェリンとグラムハルトが仲良くならない様に手を回していたが、そろそろ彼女がデビュタントを迎える時期になってきた。デビュタントを終えると成人とみなされる。接触がないことに焦れていたグラムハルトは彼女がデビュー次第、結婚しようとしている、と彼につけていた侍従から報告があった。


 冗談ではない、あくまで彼女を一時的に預けているだけで、グラムハルトが彼女に手をつけることなど看過できるはずがない。身の程知らずにも程がある。殺すか、とも思うがエヴァンジェリンにうっかり知られた場合怖がられるかもしれない。


 だからと言ってこのまま放置することは絶対にできないので、彼女がデビュタントを迎える前に、返してもらわなくてはならないだろう。

 彼女が素晴らしい女性なのは分かっていたが、その香りに当てられて身の程知らずが湧いてくるのは正直堪え難い。結婚したら、他の誰の目にも映らぬ様に、部屋に閉じ込めてしまうべきかもしれない。


 さて、取り返し方だが、とてもシンプルだ。とても心が痛む方法だが、前例がある。新たに彼女に僕が傷をつけて責任を取ると言って婚約すれば良いのだ。

 何故愛する彼女にいたらぬ傷を作らねばならないのか……考えるだけで吐き気がする。それに彼女の身体に他の男が作った傷があるのも気に食わない。けれども時間があまりないのだ。気は進まないが有益な方法であるのなら実行すべきであろう。

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