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とある騎士団長子息の後悔 2

 しかし、エヴァンジェリン嬢を見ていたら、やはりお姫様には、騎士や王子様の助け必要だと思うようになった。

 なんせ彼女はサラとは違い、殴ってこないし、木にも登らないし、人のおやつを強奪したりもしなかった。いつもにこにこして、大人しくお茶を飲み、庭に花が咲いたことや鳥が来て巣を作っていることなど、小さなことを大発見の様に話していた。外見通りのまるで妖精か天使の様な彼女の話ぶりや話題選びは正直好ましく、殿下がとても羨ましかった。


 エヴァンジェリン嬢の存在は俺とグラムにとって希望であった。

 なぜなら、今まで俺たちの中では『女の子=サラ』だったのだ。けれど、エヴァンジェリン嬢のおかげで、可愛い女の子もいるとわかったのだ。これから先、俺たちは女の子と婚約しなければならないが、その相手は野猿、もしくは恐ろしいモンスターでなく、可憐な妖精の可能性だってあるのだ。


 もう少し歳が進むと俺もグラムも婚約者選びをしなくてはいけなくなった。俺たちは殿下の側近候補だったので、下手な人間を選べないらしい。そこで俺はまた違う種類の女の子を見ることになった。

 香水をかけすぎて匂いのきつい女の子や、白粉をはたきすぎてモンスターの様な顔になっている女の子たちが山ほどいたのだ。


 彼女たちは俺に擦り寄って来るが、正直恐怖しか覚えない。臭い、顔が怖い、勘弁してくれが本音である。

 自分がいかに役立つ家の生まれなのかをアピールするためだろうが、大粒の宝石や目がチカチカするほど派手なドレスを纏って現れ、褒めろ褒めろとうるさい。気持ち悪いから触るな、と言いたいが、女の子は守るべき存在なんだから、手荒に扱ってはいけないらしい。


 しかも、猿山の猿の喧嘩なのかなんなのか、マウントを取ることに必死になっており、見ていないところではキャットファイトまでしていたらしい。いや、本当にサラやこの手の女の子は本当に守るべき存在なのか疑問に思うところである。


 こんな恐ろしいものの中から婚約者など選べるはずがない。エヴァンジェリン嬢はまさに至高の存在だったのだと心の底から思った。

 そして、ついつい思ってしまったのだ。彼女が自分の婚約者であればよかったのに、と。


 けれど、たとえそう思っていたとしても、エヴァンジェリン嬢に手を出すわけにはいかない。同じ貴族と言っても、彼方は雲の上の存在なのだ。しかも、俺の主君となるジェイド殿下の婚約者でもある。側で見れて、話ができるだけで満足しなければならないのだ。

 

 しかし、満足しなければと思いながらも、俺はやや不満であった。仕方のないことと言え、エヴァンジェリン嬢はジェイド殿下とばかり話している。俺やグラムとも話はしてくれるが、専ら話しかけるのは殿下だった。もちろん殿下も彼女のことをとても気に入っているので、2人の世界になることがままあった。


 この時、俺は少し天狗になっていたのだ。婚約者候補などと言って紹介された女の子たちに俺はとてもモテた。剣の稽古をしていたら、女の子たちが応援に来て黄色い悲鳴をあげていた。だから、俺は剣を振るっていれば「かっこいい」のではなかろうか、と自惚れていた。


 だから、エヴァンジェリン嬢の前でも剣を振るえば、少しは彼女も俺を意識してくれるかもしれない、殿下ばかりでなく、俺も見てくれるんじゃないかと思ってしまった。

 少しでも彼女の視界に映りたかった。かっこいい、と意識されたいと思ったのだ。


 彼女が王妃教育で王宮に来たときに、彼女の前で剣を振るつもりが、緊張のあまり失敗して彼女に当たってしまうほど近いところで剣を振ってしまったのだ。あまりの恐ろしさに彼女は両手で頭を抱える様にして座り込んでしまった。寸止めをするつもりが、加減が分からず、彼女の手に剣が当たってしまった。


 ぱっと真っ赤な血の花が咲いた。練習用の剣とは言え、鉄剣である。彼女を傷つけるには十分だった。そのまま彼女は気絶してしまった。彼女の血は止まらず、しかも彼女の侍女も俺もおたおたするだけで、対処が遅れてしまった。


 「なぜこんなことをしたのか」と後ほど親父に聞かれたときに、うまく説明できなかった。

 かっこいいと思われたくて剣の腕を見せたかった、彼女に当てるつもりはなく目の前で剣を振るつもりだったことをなんとか伝えたが、ぼこぼこに殴られた。当然であろう、俺でも殴る。

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