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令嬢の父親は後悔する 1

 そもそも公爵家の直系はわしでなく、妻のサリナだった。気位の高い、貴婦人然とした妻はわしのことを馬鹿にしており、正直一緒にいるのも気詰まりだった。


 公爵家の実子はサリナだけだったので、彼女の伴侶は公爵になれる。しかし、そんな破格の条件にも関わらず、彼女の気位が高すぎたため、クラン一族の公爵家の人間ですら彼女との婚姻を嫌がった。 


 そのため、貧乏な伯爵家の次男であるわしにお鉢が回ってきた。元々気楽な次男であり、成人後は恋人のリンデルと共に、領地で兄の手伝いをして暮らそうと思っていたわしにとっては降って沸いたような災難だった。

 

 わしが伯爵家の次男の割には仕事ができることと、前年の嵐のせいで領地が多大な被害を受けており、このままでは貴族籍を返上するしかない状況のせいでもあった。


 想像通りサリナは扱い辛い妻であり、唯一気を休めることができるのは、元恋人のリンデルの前でだけだった。リンデルには、私が結婚する際に別れ話を切り出したが、彼女はわしを愛しているからと言って誰とも結婚せずわしのことを待っていてくれた。もちろん愛する彼女との間に何もないわけはなく、愛の結晶が2人も生まれた。


 サリナが早すぎる死を迎えた時、リンデルを呼び寄せることができると喜んだ。10年近く我慢したが、サリナが早々に死んでくれたおかげで、公爵家当主になれ、リンデルにも贅沢をさせてやることができるのだ。紆余曲折はあったが、これはこれで良いのではないかと思った。


 そして、わしには4人の子供がいた。サリナの子供である長男のアスランと長女のエヴァンジェリン。愛しいリンデルとの子供である次男のサトゥナーと次女のイリアである。


 もちろん私はアスランもエヴァンジェリンも可愛いと思えなかった。雰囲気といい、外見といい、2人はあまりにもサリナに似ていたからだ。サリナはクライオス王国の至宝と言われるくらい容姿が良かったので、2人はそれぞれ美しかったが、わしにとってはサリナを思い出させるものでしかなく、評価するどころかマイナスにしか思えなかった。


 それに引き換え、サトゥナーもイリアはわしにとってはアスランとエヴァンジェリンよりも美しく、何より愛らしかった。いつまでも見ていたいほど、可愛かった。わしの持てるものは全てこの2人に残してやりたいと思っていた。だから、アスランとエヴァンジェリンを排斥するつもりであったし、王太子妃の座もエヴァンジェリンでなく、イリアに与えたかった。


 エヴァンジェリンは5歳のころから殿下の筆頭婚約者候補だったが、誰の目から見ても殿下はエヴァンジェリンをとても気に入っている様であり、未来の王太子妃はエヴァンジェリンで間違いないだろうと思われていた。


 エヴァンジェリンと殿下の婚約はサリナが生きていた頃に、彼女の命令でわし自身が手配したものだが、サリナ亡き今、排斥したい子供に王太子妃の名誉は不要である。

 

 殿下は他に可愛い娘を知らないせいで、エヴァンジェリンを気に入っているのだろう。わしから見たエヴァンジェリンは子供のくせに、あまり表情を変えない、いかにも貴族の令嬢然とした態度は好ましくなかった。それよりもころころと表情がかわり、感情豊かなイリアの方が可愛いかった。


 王国の至宝といわれたサリアよりも美貌の面では、きっと劣るであろうリンデルの方がわしには美しく見えた様に、真に可愛いものを知れば殿下もエヴァンジェリンよりイリアを気に入るだろう、と思っていた。

 しかし蓋を開けてみるとイリアは殿下のお眼鏡にかなわなかった。


「あのエヴァンジェリンの妹とはとても思えないね。彼女には慎みと言うものがないのかな?

 彼女は王宮のマナーも作法もまだ習得していない様だね。もう少し勉強してから、遊びに来させるといい。今のままでは、公爵の元へ顔を出すだけでも彼女のためにはならないだろう」


 『自分からイリアを望むことはない、王宮にも連れてくるな』という意味の言葉を殿下ははっきりと告げた。


 王太子妃としての名誉をイリアが得られなくなり、外戚としての権力を手に入れられなくなった、二重の意味での手痛い失敗であった。もう少しイリアを厳しく躾けるべきだったかとも思ったが、可愛いイリアがサリナの様になっては元も子もない。あの子はあの子のままで十分に可愛いのだ。

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