令嬢は告発する
「よし、じゃあエヴァンジェリン、帰るぞ。陛下、殿下もサトゥナーとイリアは冤罪だったので、連れ帰っても宜しいですな?
さあ、エヴァンジェリン、今後はイリアの姉として支えてくれるな?」
調子の良いことを言う実父に私は優雅にカーテシーをして、告げる。
「昨日はご挨拶もご紹介もしていただけませんでしたので、私から話しかけるのは失礼かもしれませんが…。
はじめまして。エヴァンジェリン・クラン・デリア・ノースウェル・リザムと申します」
「何を馬鹿なことを言っている、さっさと帰るぞ!」
いらいらする口調の父ににっこりと私は微笑む。『何を馬鹿なことを言っている』はこちらが言いたいことである。今更家族になれるはずなどない。
「まぁ、公爵閣下ともあろう方が初対面のものにご挨拶もくださいませんの?子爵家の出ですものね、仕方がないかもしれませんが…」
私は悲しい顔をしてみせる。
「親子なのに初対面のはずがあるか!」
「まぁ、親子ですか?私はリザム子爵家の娘でございます。申し訳ありませんが、公爵とは初対面でございますわね。
公爵には8年前に私と同じ名前のお嬢様がいらしたけど、病で亡くされたと伺っておりますが。それを認識してらっしゃらないなんて、どこかお身体をお壊しですの?」
「何を馬鹿な!親が娘を間違えるはずがないだろう!お前はわしの娘のエヴァンジェリンだ」
「そうですか。では私を、貴方の娘と認めるのですね?」
今まで娘とすら思ってなかっただろうに。8年前に捨てたくせに、都合のいい時にだけ父親面をする男に吐き気がする。
「当たり前だ!」
「その上で今回のことは家族なら行う当然のことだと仰るのですね?」
「少し注意しただけだろう。家族なら当然行うことをしただけだ。愚かなことを言って騒ぎ立てるな」
実父の言葉に私は微笑う。実に愉快な気分だ。そう、実父もイリアもサトゥナーも逃がさない。決して無罪になどさせない。
「愚かなこと。せっかく逃げ道を作ってあげたのに…、地獄の淵に自分から足を踏み入れようとは」
そして私は隣で私を支えてくれているセオを仰ぎ見る。この時のために、私は彼に同席を頼んだのだ。
「セオドア・ハルト様、クラン家は家族同士で姦淫を行う、罪深い一族の様でございます。
私が、どの様な状況にあったかは保護してくださった貴方様ならよくご存知でしょう。クラン家の方々は『兄妹ならあの様な行為をするのは当然』だそうです。あの様に平然と言うなどと、兄妹で当然なら恐らく親子でも行っていたに違いありません。とてもではありませんが、私には理解できかねますわ。
ハーヴェー様の教義にも反した考えでございます」
「えぇ、そうですねリザム嬢。貴女の告発をしかと聞きました。
さて、国王陛下、この様な訴えがあった以上、これは国王と貴族の不敬罪云々の話でなく、宗教裁判にかけるべき案件となりました。
ファウスト・フォン・クラン並びにサトゥナー・フォン・クラン、イリア・フォン・クランを背教者として神殿預かりといたします」
セオの晴れやかな笑顔に安堵する。きっと彼は私の意を汲んでくれて、彼らを正当に処罰してくれるだろう。
「馬鹿な!クラン家はどうなる!わしがいなくなったら、おしまいだぞ!」
神殿の職員に取り押さえられながら騒ぐ父にセオはやはり晴れやかに笑う。
「さあ?貴族ではないので私にはよくわかりませんが、あなたには、実にまともな考えをお持ちの娘さんがいらっしゃるでしょう?先ほどまであなたが大声で認めていらしたお嬢様が。
それなら、その方が後を継がれるのでは?そうそう、確かご令嬢には兄上もおいででしたね。まあ、もうあなたにはなんの関係もないことですよ」
連れて行け、とセオは神殿職員に命令をすると、引きずられながら、3人は神殿に連行された。恐らく、もう2度と彼らに会うことはないだろう。そして最後に残った義母もクラン家に関係ないので、叩き出してしまえばいいのだ。
セオは私のエスコートを続けてくれるつもりなのだろう、私の隣から動かないでいてくれた。




