令嬢は悟る
手を強く握りしめているとふわりと温かいものが私の手に触れた。気がつくとセオの手が私の手を両手で優しく包む様に握っており、右手で私の甲をぽんぽんと宥める様に2回叩いた。なんとなくほっとした気分になり、強張っていた体から力が抜ける。
セオにもう大丈夫だと笑いかけた後に、前を見ると、実父の答えにジェイドが満足そうに笑っていた。
「そうか。娘と認めるのであれば、公爵が8年前にした、リオネル家との約束も反故になるな。なぜなら、『娘が傷ついた賠償』でなく『娘が王太子に嫁げなくなった賠償』だからな」
「……左様でございますね。殿下がエヴァンジェリンをお望みならば、反故になりますな」
「もちろん、望んでいるから彼女を見つけ、婚約者に据えたのだ。
それでは王家の名の下に8年前のリオネル家との約束は解消したものとする。良いな?」
「御意」
そう言って契約を解消する証書にサインする様にジェイドは迫り、それにリオネル騎士団長と実父がサインする。
その光景を嬉しそうに見つめる国王夫妻とジェイドを見て、ようやく、私がジェイドの婚約者になった理由がわかった。このためだったのだ。
『騎士団をいつでも好きな時に1度だけ出動させる権利を公爵家から取り上げる』ことが王家の狙いであり、私はそのための手駒でしかなかったのだ。
とは言え、本来ならもう少し穏便に婚約を解消してくれるつもりだったと思いたい。今回は愚兄妹のせいで大事になったが、彼らが私を襲うところまで計画だったと思いたくない。
結局王家の思惑よりやや過激になったが、サトゥナーとイリアの暴走のせいーーつまり、公爵家の過失ーーで私とジェイドの婚約は解消になるだろう。
実父は兄妹同士だったから、と言っていたが、それが嘘であることはすぐに証明されるだろう。なぜなら、私はデビュタントの日に事情聴取を受けているし、身体の傷も全て記録に残されているのだから。
今回の件にリオネル家は関係ないので、この約束が復活する謂れはない。無事、クラン家とリオネル家の約束は破棄される。このために、ジェイドはサラという想い人がいたのにも関わらず私と婚約したのだろう。やっと、王家の意向に気付いた。
気づかなかった方が幸せだったかもしれないが、それでも今まで不明瞭だった理由が理解できたのだ。なんだかスッキリした気分になる。