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公爵家の内情と令嬢の怒り

 多くの貴族はこのスキャンダルを興味津々に見守っている。クラン家を追い落とす絶好のチャンスだからだ。

 もともとクラン公爵は4つある公爵のうち、筆頭公爵と呼ばれたほど力のある家だったが、今は、東のルーク家が力をつけてきており、斜陽傾向にある。


 そもそも本来の直系は、アスラン兄様と私の亡母のサリナであり、実父のファウストは傍系のサイテル伯爵家から婿養子の形でクラン家に入り、爵位についたにすぎない。それにも関わらず、サリナの死後、厚顔無恥にも、愛人のリンデルを第二夫人として屋敷に招き入れたあげく、血統であるアスラン兄様を他国に留学と言う名目で追い出し、私は死亡という形で養子に出した。


 あまりの暴挙に、一族の人間ですら眉を顰めた。しかも、直系の息子と娘をさしおき、愛人との間にできた息子のサトゥナーを次期後継者、娘のイリアを王太子妃として擁立しようとしたのだ。


 リンデルは男爵家の出で、ファウストは傍系とは言え、伯爵家の次男である。つまるところ、公爵家が伯爵家に乗っ取られた形になってしまった為、内部争いに発展したのだ。まだアスラン兄様を次期後継者と定めていれば、そこまで熾烈な争いにならなかったかもしれないが、その点については実父は譲らなかった。


 実父が内部争いに勝てたのは単に力を持っていたからである。それは己の力ではなく、私をリオネル家に売り渡した代償としていつでも騎士団を一度だけ私的に使えると言う権利のことである。下手に逆らうと騎士団を出動させる、それが実父の切り札だった。


 なんとか内部争いに勝利した実父は自らの地盤固めを必要とした。そのためにイリアをジェイドの婚約者にしようとしたのだ。

 実際にゲームではイリアはジェイドの婚約者となっている。しかし、今考えると実質伯爵令嬢でしかないイリアとサラは何も変わらないと思うのだが、ゲームと現世ではやはり設定が違うのだろうか。


 しかし、今は実父は自らが公爵家を手に入れたと思っているかもしれないが、クラン家がまだ公爵家であることを保っているのは、アスラン兄様がいるからである。もし、次代が父の予定通りサトゥナー異母兄が継いだ場合、王家も馬鹿ではないので、まず間違いなく伯爵家に降格されるだろう。

 実父は狡猾な人だと思っていたが、どうも私の思った通りの人物ではないらしい。どちらかと言うと浅はかな人物である様だ。


 この様な場に引き出されてもイリアはこちらを憎々しげに睨んでいる。全くもって反省の色が見られない。さすがあの父の娘、異母妹とは思えないほどの危機管理能力の無さ。まさに絵に描いたような悪役令嬢である。


「さて、私と私の婚約者に対する不敬と傷害の疑いについて、何か申し開きがあれば口にせよ」


 さすが王子と言うべきか、ジェイドは堂々としている。前世で『悪役令嬢もの』を、とあるネット上でよく読んだが、断罪する側に立つ場合、逆に返り討ちにされることもあるので、断罪劇は緊張する。

 しかし、ジェイドであれば問題なかろう。あの腹黒サイコパスがつけ入れられる隙を作るはずがない。


「たかが、子爵令嬢がわたくしの前にデビューするなんて間違っているから身の程を教えて差し上げたまでですわ」


「ほう、まだそれを言うか。

 彼女がそなたの兄の子を孕んだ場合、それは王家を乗っ取ることになるな。つまり、王家簒奪の罪を犯しかけた言い訳がそれか?」

 

 ジェイドがイリアを睨みながら、低い声を出す。ジェイドの言葉に私が決めた覚悟は間違いではなかったと思った。そう、彼は私が傷物になったと今貴族たちの前で発言したのだ。つまり、私と婚約を継続するつもりがないという意思表示である。

 冷たく言い放つジェイドの背中をサラがそっと支える。どう見ても仲睦まじい婚約者同士の様な2人を見ても私の心は痛まなかった。


「殿下がその様な女を婚約者に選ぶからです。

そもそも王家の婚約者は侯爵家以上の人間しか許されておりません。それを破ろうとなさる殿下の責任かと思います。子爵令嬢である上、処女でなければ、流石に殿下に嫁げませんでしょう?」

 

 それにもめげずに言い返すイリア。ここまでアホの子だったとは!実父は何をしていたんだ。

 ジェイドから静かな怒りのオーラが溢れる。正直に言ってここまで怒ったジェイドは見たことがない。馬鹿にされて余程頭にきたのだろう。


「この婚約は陛下も認めた上、王家から打診したもの。陛下についても思うところがあると。  

 つまり私だけでなく、陛下にも不満があると言うのだな、クラン公爵令嬢」


「ひぃ、そう言うわけでは……」


 ようやくジェイドの怒り具合がわかったのか、震えながら涙を溢すイリア。だがすでにもう手遅れである。クラン公爵家は終わったな、私も実父や異母兄妹を訴える準備をしていたが無駄になったかな、と思ったところで、急に実父が笑い出す。とうとう気が触れたかと思ったが、そうではない様だ。弾かれた様に話し出す。


「ははは、まさか、サトゥナーがエヴァンジェリンを襲うはずがありますまい。なんせ2人は兄妹ですぞ、殿下。サトゥナーもイリアもわかってて少しふざけただけでございます。

 家族の中のちょっとした諍い、いたずらでございましたが、少し度が過ぎた様でございますな。王宮を騒がせた罪で、サトゥナーとイリアはひと月謹慎させます」


「ほう、兄妹と?」


「えぇ、そうですとも、殿下。エヴァンジェリンは幼少のみぎり、殿下の期待を裏切る様な過ちを犯しましたので、子爵家へ反省を込めて養子へ出したのです」


「それでは、今お前の娘が愚かにも『子爵令嬢が』と言ったのはなぜだ」


「子爵家に養子に行った以上は子爵家の令嬢と考えたのでしょう。エヴァンジェリンが養子に行ったことを知っているものは数えるほどしかおりません。つまり対外的にはエヴァンジェリンは子爵令嬢なので、この様な目に遭う危険性があると教えたかったのでしょうなぁ」


「ほぅ、そうか。では、公爵は私の婚約者がお前の娘であるエヴァンジェリンと認めるのか?」


「えぇ、もちろんでございます。殿下がお望みならば我が家へ復籍させ、殿下と娘の後ろ盾となりましょう」


 実父はつまらない話を続ける。どう考えてもイリアもサトゥナーも私を兄妹と気づいていない。苦しい言い訳である。しかもこの期に及んで、家族内の諍いなどと言うなど。ぎゅっと口の中を噛み締める。あまり強く噛みすぎたのか、血の味がした。

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