傷物令嬢は襲われる
胸くそ展開です。不愉快に感じられるかたもいるかもしれません。
お読みになる際はご注意ください
考えが甘かった、と思ったのは口を塞がれて部屋に引きずり込まれてからである。
廊下は騎士たちが見回っているが、騎士にも派閥があり、その派閥の一族には配慮することがあるから、決して安全ではなかった、と言うことを私は後から知った。
その派閥の一族ーーつまり、サトゥナー異母兄は口を押さえたまま、私を荷物の様に抱えて、ベッドまで連れて行く。
ばたばたと足を動かして、抵抗するも男の力に敵うはずもなく、ベッドへ荷物でも放る様に投げられる。そのままサトゥナーは私に近づいてくると顎を掴み、自らの方を向かせる。
「へぇ、遠目から見ただけだったけど、近くで見るとますます美しいな。子爵令嬢だったか?正室にはできないが側室として囲ってやってもいいな」
「何言ってるの、お兄様。薄汚い雌猫よ、そんなの家に入れないでよね。散々ひどくして、殿下に嫁げない様にするだけでいいのよ!
そもそもお兄様が手を出さなくても下男にでもさせればよいのよ!」
「何を言ってるイリア、これだけの女を下男などに渡すなんて勿体無いだろうが。俺が存分に可愛がってやる」
いつきたのか、部屋にはイリアもおり、いやらしい笑顔でこちらを蔑むように見ていた。
そして2人のやりとりにぎょっとする。まさか、この兄弟、私が誰だか気づいてないのだろうか。
「クラン公爵令息とお見受けします。私を誰かわかった上でのことですか?
このまま解放してくだされば何もなかったものとしますので、その手をお離しくださいませ」
「はっ、自分は王太子の婚約者だから、とでも言うつもりか?残念だったな、王太子は他の女に夢中の様だぜ?」
私はサトゥナーを見つめる。いや、王太子の婚約者相手にもやばいが異母妹にもとてつもなくやばい。この部屋にサトゥナーだけならまだしも、ほかに何人か側仕えがいるから、異母妹だとも言い出せない。
「あいつは痛い目を見せてやれと言うが、俺は従順な女には優しい男だ。お前ぐらい美しい女に傷を残すのも、勿体ない。手酷く扱われたくないなら、大人しくしているんだな」
そう言ってサトゥナーはこちらに手を伸ばしてくる。冗談ではないと、後ろに下がろうとするもうまく下がれず、そのまま押し倒される。
「顔だけでなく身体付きも良いな。おい、イリア、そろそろ良いだろう。お前出ていけよ」
「いいえ、この身の程知らずが泣き叫ぶ様が見たいんですもの、このままここにいますわ」
逃げなくてはと思い、2人の会話の隙をついて、舌なめずりをするサトゥナーの股間を思い切り蹴り上げると、さっとベッドから降りる。ベッドの隣の文机の上には先ほどまで飲んでいたのか、ワイングラスがあったので、それを仕返しとばかりにイリアに投げつけてーーもちろん牽制の意味もあるーー、出口に向かって走る。
扉を開こうとするも、外から固定されているのか、開かない。扉をどんどん叩きながら、大声で助けを呼ぶが、誰かが駆けつけてくる気配はない。
誰も助けに来ないまま、室内にいた側仕えの男に口を押さえられ、再度ベッドへ引き戻される。今度は猿轡をされた上、両手を頭の上でベッドに固定する様に縛りあげられてしまったので、事態は悪化している。
もちろん急所を蹴り上げられたサトゥナーは怒りに満ちた目をしており、回復するなり、私の頬を思い切り叩いた。あまりの痛みに頭がくらくらする。
ワイングラスを投げつけたイリアも頭にきているようで、「お兄様、もうさっさとやっちゃってよ」とか叫んでいる。
「きさま、よくも!せっかく可愛がってやろうとしたものを!よほど手酷く扱われたいらしいな!」
言うなり、サトゥナーは私のドレスを上から引き下ろす様な形で力任せに引き裂いた。そして手慣れた様子でコルセットや下着を次々と外していく。このままではと思うが、手を縛られており、体は震え、思うように動かない。
サトゥナーはあらわになった私の胸を思い切り掴む。力任せに掴まれたので生理的な涙が目に浮かぶ。私の涙が嬉しかったのか、サトゥナーは狂気的な笑い声を上げると、私の涙を舐めた。そのまま、身体を良い様に撫でられ、思いついたように噛みつかれたりする。
私の太ももには、グラムハルトがつけた傷跡が結構派手に残っているのだが、それに気づいているのかいないのかわからないが、サトゥナーの手は止まらない。
気持ちが悪い気持ちが悪い、こんなことになるなら、異母妹だと言えばよかったかもしれない。イリアの楽しむような目つきも耐えられない。身体がカタカタ震えて仕方がない。私が抵抗できないことを悟ったのか、サトゥナーが泣き叫ぶ声が聞きたいと言って猿轡を外した。大声を出すなら今だが、喉が詰まった様に声が出なかった。
これ以上辱めを受けるくらいなら舌を噛もうかと思った時に、扉が静かに開かれた。
「静かに取り押さえろ」
部屋に入ってきたのはジェイドと少数の騎士たちだった。
まずい、逃げるぞ、とサトゥナーたちが服を抱えて窓から外に出るより、ジェイドと騎士が部屋に雪崩れ込んでくる方が早かった。瞬く間に部屋に入ってきた騎士たちにサトゥナーとイリア、そして側仕え達は捕縛されていく。
幸か不幸かベッドは奥まった位置にあり、天蓋もついていたので、すぐには私の状況はわからないだろう。
「無事か?」
そう言ってジェイドが私の方へ向かって来ようとした時に、「あら、イリア様もここにいるの?どうして?」とサラの声も聞こえた。
「いや、来ないで!」
こんな惨めな姿を、しかもこんな醜い傷跡がある身体をジェイドとサラに見られるのはごめんである。なぜ、こんな場所に、サラを連れてきたのだろうか、悔しさで目が眩みそうになる。
「いや、痛ーい!なにか刺さった!」
サラはイリアに近づこうとして、運が悪く、私がイリアに向かって投げつけたせいで、割れたワイングラスのかけらを踏んだようだ。
少し離れた場所にいる私まで血の匂いがしたので、割と深く切ったのかもしれない。
「サラ!誰かサラを治癒術師の元へ!」
「いや、ジェイドが連れていって!」
騒ぐ2人を尻目に誰かが近づいてくる。
「やだ、見ないで!」
そう叫ぶ私にぱさりとシーツがかけられる。
「落ち着いて、エヴァちゃん。セオだよ。
もう、見えてないから大丈夫。
まず、その手の縄を外すから、安心して。大丈夫だからね」
そう言ってセオドアはそっとベッドに座るとナイフでさっと縄を切ってくれた。そして私を起こしてくれると、自らの着ていた衣服を肩にそっとかけてくれた。
「もう、大丈夫。頑張ったね」
よしよしと頭を撫でてくれる手が暖かくて涙が滲む。セオ、と呼ぶと「どうしたの?」と顔を覗き込んでくる。
「私は、大丈夫だから。サラ様の怪我を…」
「大丈夫じゃない、大丈夫じゃないだろう。こんなエヴァちゃんを差し置いて彼女を治す必要なんて感じられないし、それにサラちゃんならもう殿下が連れて行ったよ」
そう言ってセオドアは私の肩を緩く、抱く。
「大丈夫だよ、見てないから」
そう言ってセオドアはハンカチを差し出して来た。そこで初めて私はぼろぼろと泣いていたことに気づいたのだ。
セオドアは優しく肩を抱いてくれて私が落ち着くまで待ってくれた。そんなに優しくしてくれるセオドアに申し訳ないことだが、この手がジェイドであれば良かったのに、とつい思ってしまう。しかし、彼の両手は私のためにはなかった。彼の手はサラのためのものなのだ。
「セオ、ごめんなさい」
「何を謝ってるのかよくわからないけど、大丈夫。私は君の味方だから。助けに来るのが遅れてごめんね」