傷物令嬢は絡まれる
壁際に下がってちびりちびりとワインを舐める様に飲んでいるとーーワインを手に持っていると、疲れたのサインなので、ダンスの申し込みをされないで済むのだーー、ぱしゃりと音がした。
顔を上げるとそこにはイリアが嫌らしい顔でにたにたしており、目の前で空のグラスをこちらに向けている。
こう言うと意味がわからないだろうが、簡単に言うと、ワインをかけられたのだ。よりによって赤ワインを、青いドレスに!
「あぁら、ごめんなさい。手が滑った様だわ。身の程知らずの子爵令嬢さま」
イリアの周りには3人ほどの少女がおり、イリアと同じ様な表情でこちらを笑っている。
「なーにが『ダンスを続けて踊ってはなりません、愛称で呼んではなりません』よ。それなら、自分だってデビュタントに白以外着てくるべきじゃないし、入場の順番だって守るべきじゃないのかしら。
どちらも殿下がお許しになってることなんだから」
「そうですわね、ご意見ごもっともですわ。今後は控えさせていただきます。ご指摘ありがとうございました」
そう言ってカーテシーをしてさっさとその場を後にする。あの子たちの言う通り正直お前が言うなってとこは確かにある。
一応言っておかなきゃいけないと思ったから言っておいたけど、もう2度と言うつもりはない。馬耳東風、馬の耳に念仏、言っても響かない相手に何を言っても無駄であるし、こちらのメンタルが削れるだけである。
むしろ婚約解消してくれないだろうか。あれで婚約者とか言われても、何これ罰ゲーム?としか思えようがない。
夜会に出るたびに、あのサラのお遊戯会の様な話と周りからの嘲笑、イリアの嫌がらせに付き合わないといけないなどごめんである。
青いドレスに赤いワインはとても目立つ。見苦しく思われないうちにさっさと帰るべきであろう。入口近くの給仕に、『ワインを溢したので帰る』旨、殿下と義父母に伝言を依頼して会場を後にする。
本来であれば馬車乗り場まで誰かにエスコートしてもらうべきなのだろうが、私に知り合いは少なく、義父母を探す間ぼんやりと待っているのも見苦しい。
馬車乗り場まで、騎士たちが廊下を見回っているので、まあ大丈夫だろうと歩を進めた。




