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王太子は動き出す 6

先日、拙作にレビューを書いてくださった方がいらっしゃいました!こちらのサイトに

登校させていただいて2年目ですが、初めてのレビューです!本当に嬉しかったです。

この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

反応が遅くなってしまい、申し訳ありません。けれど、本当に嬉しかったです(2回目)!

遅筆なうえ、あまり物語が進んでいないので、申し訳なく思っております。

けれど、頑張ってまいりますので、今後も何卒宜しくお願いいたします。


「いやぁ、殿下。この度は見事な手腕でしたね」


 なにが嬉しいのか、キーランは下卑た笑いを顔に浮かべながら近づいて来た。そんなキーランは、やはり不気味な笑みを顔に張り付けた取り巻きども(ルーク家の当主達)を連れている。

 キーランは父よりも少し上のはずだが、妙に若々しい。下手したら十以上は若く見える。こいつもバーバラ・ハルトの美容施術とやらを受けているのだろうか?確かにそこそこ整っている容貌をしているが、良い年をした男が母と同じ施術を受けているのかと想像するだけでおかしい。

 そんな想像のおかげか、労せずして顔に笑みが乗る。にこやかな僕に気を良くしたのか、キーランは笑みを深くして、含み笑いのようなものを漏らしだした。

 はっきり言って不気味だ。一本どころか、十本単位で頭のねじが外れてそうだ。

 そんなキーランに、取り巻きどもも追随するように頷き、笑いさざめいた。よく見る風景だが、人が人を嘲る姿は、とにかく醜い。


「さて、なんのことかな」


 いやらしい笑みを浮かべる奴らを睨みつけたくなるのを我慢して笑う。さてうまく笑えていると良いのだが。


「いやいや、ご謙遜を。……思いあがったあの家の娘を利用して、例の契約を破棄させるなど、誰にでもできることではありませんぞ」


「公爵閣下の仰る通りです。まあ、確かに殿下に夢中の様子だったあの娘は少々気の毒かもしれませんがね。けれどあの家の娘が王太子妃になろうなどとは思い上がりも甚だしいというものですよ」


「へぇ……?彼女が僕に夢中だったように見えたのかな?」


「そりゃあ、そうでしょう。殿下とダンスをしている時のあの恍惚とした表情をご覧になりませんでしたかな?まさに殿下に夢中という感じでしたよ……まあ、賢明な殿下はあの娘のことなんか目に入っていなかったかもしれませんがね」


「何よりも、クラフト伯爵令嬢に対して嫉妬していたそうですね?いやいや、女とは怖いものですな。殿下のお心が自分にないことなんか分かりそうなものを。醜く嫉妬するとは。さすが思いあがった家の娘ですな」


 男たちはイヴを馬鹿にした口ぶりで笑い合った。そんな男たちの顔を目に焼き付ける。覚えていろ、イヴを馬鹿にした報いはいつか必ず、受けてもらう。思わず拳を握りしめたが、誰もそれに気づいてはいないようだ。

 どうやらこいつらは僕がイヴのことを利用して捨てたと思っているようだ。どうしてそんな勘違いをしているのか、正直理解に苦しむ。裁判の後のリザム子爵夫妻との会話を聞いていないのだろうか?どう見てもイヴが、ではなく、僕が、イヴに執着しているようにしか見えないと思うのだが……。


 僕から見たイヴは、少しずつ歩み寄ってくれるようになってはいたが、よそよそしいところがあった。控え目で……どこまでも遠慮がちなイヴは、とても僕に夢中とは思えなかった。あの時、サラに注意したのだって、それが義務と思っているからで、決して嫉妬したからではないと思っていたが……。周りから見たらイヴは僕に心を寄せてくれていたように見えたのだろうか?


 もしかしたら……本当に、もしかしたら、僕が気づかなかっただけで、イヴは僕のことを愛してくれていたのだろうか?

 もし、本当にそうなら、彼女が一番辛い時にそばに居られなかったことが悔やまれる。あの時、被害者がイヴだと気づいたなら、彼女を支えられていたなら……あの男に拐かされずに(イヴを逃がさずに)済んだのだろうか?彼女と僕の関係はもっと違うものになっていたのだろうか?思わず考え込みそうになったのを無理やり中断させる。毒蛇の目の前で自分の世界に籠るのは危険すぎる行為だ。


「毒を持って毒を制す、というやつですかな?まあ、あの娘は出奔したという話ですから、これ以上、殿下が気にかける必要もないでしょう。しかし、さすがは殿下、見事な手際でした。殿下の思惑を見抜けなかった我々は反省すべきでしょうな。これから、我々は仲良くできるとは思いませんか、殿下?」


 キーランはそう言って傲慢に笑った。こいつらの目は節穴に違いない。けれどそんな勘違いをしているのならば、好都合だ。是とも否とも言わず、ただ、どのようにも見えるように微笑んだ。


「しかし、殿下の妃の座が空きましたな……。殿下に相応しい妃が必要でしょう。是非、私に任せていただきたい」


「僕の理想はなかなか高いよ?」


 ニヤニヤしながら、愚かなことを口にするキーランにそう返すと、奴は少しだけ困ったように笑った。どんな娘を用意するつもりかは分からないが、僕はイヴ以外の女性を妻に迎えるつもりはない。「『相応しい娘』というならばイヴをつれてこい」という言葉を飲み込んでワインを飲む。先ほどは血の味がしたワインは、いまや腐肉の匂いがする不快な飲み物となっていた。


「ふむ、殿下のお気持ちは理解しますが、残念ながら、クラフト伯爵令嬢では地位も魔力も足りません。殿下がお望みならば側女として、おそばにお置き下さってもかまいませんが……正式な妃は必要でしょう?」


「側女、ね。この国は一夫一妻制だよ。こんな誰が聞いているか分からない場所でそんな話をするのはいただけないね」


「ははは、確かに。しかし、ここにいる人間は信頼の置けるものばかりです。万一、後から問題になったとしても『酒の上での戯れ』と言ってしまえばそれだけですよ。それに、表向きは一夫一妻制とはいえ、それを守っている人間はそういませんよ。愛人を持つのは、貴族のステータスですよ、殿下。かくいう私も三人ほど抱えていますからね」


 ペラペラと聞いてもいないことを得意げに話すキーランに『お前、大丈夫か?』と問いかけたくなる。こんな話を今までろくに話もしなかった――むしろ、距離を置いていた僕に話しても良いと思っているのだろうか?それとも、他に女を囲っているというのは当然のことで隠すことでもないのだろうか?単純に酔っているだけなら少しは可愛げがあるのだが……。

 僕はイヴ以外の女性を欲するつもりはないし、他の男にはイヴに指一本触れさせるつもりもない。彼女が足りないというのなら、僕がいくらでも彼女に付き合うし、満足させる自信だってある。だから、伴侶以外の女性を欲する、こいつらの気持ちは正直理解ができない。

 まあ、貴族の婚姻など自由にできるものではないから、本当に愛している人を囲っているというなら気持ちは分からないでもない。けれど、三人も囲っているのであればただ気が多いだけなのだろう。グリシャのことを見下しているようだが、自分も同じ穴の貉ではないか。血の繋がりとは恐ろしいものだ。

 不貞を働いていることを自慢げに話す馬鹿を、内心軽蔑しながらも、僕は笑い続ける。このまま、微笑みが顔に張り付けば良い。

 それにしても、この助平親父は、いったいどこの誰を僕に宛がうつもりなのか。口を割るつもりはないだろうが、反応を見てみたい。


「へぇ……?確かルーク家にはご子息が二人しかいないと思っていたけれど、他にもご息女がいるのかな?」


「えぇ、居りますことは居りますが、さすがに殿下にそのような娘(庶子)を宛がうわけには参りません。……実は養女を迎えようかと思っておりましてね。殿下のお眼鏡に叶うような娘を考えております。あぁ、養女と言ってもご安心ください。どこの血か分からない人間を王家に入れるわけにはいきませんからね。きちんとした家の、十分な魔力を持つ娘を用意しております」


「そうかい?(どんな娘が僕に相応しいと思っているのか)楽しみにしているよ」


 僕の言葉にキーランは何度も頷いた。僕が含んだ内容は理解していないに違いない。幼馴染の彼(アスラン)なら気づいただろうに……。こんなので僕の側近が務まると思っているのか。

 しかし、油断しすぎだろう。僕が母の密輸を知っているということは『母の共犯者であるキーランの罪も知っている』ということだ。奴らにとって僕は敵以外の何ものでもないと思うのだが……。

 イヴに対する勘違いといい、僕への油断といい、もしかしたら、リザム子爵夫妻との謁見の内容を知らないのか?それとも、全てを知った上で僕を味方に引き入れるつもりなのか……それならば、僕も舐められたものだ。以前なら悔しいと思っただろうが、今は好都合だと思う。

 このまま、僕が無力で愚かな王子のままだと油断していてほしい。いつか喉笛をかき切られる日まで。


 とはいえ、キーランが僕を取り込もうとしている理由はよく分かる。今の権勢を維持したいなら、ルーク家は王家から離れられないのだ。確かに、ルーク家は祖母と母、二代に渡って王妃を輩出してきた家で、かくいう僕もルーク系の王子と呼ばれているほど、血が近い。

 反面、ルーク公爵家は王家の血が薄い。ルーク家に王家の血が入ったのは、何代前になるか……正確には覚えていないが、ここ百年以上、王家の血は入っていない。そうなってしまったのは、イヴの曾祖母であるエリゼ姫のせいだ。


 クラン公爵家に降嫁したエリゼ姫は本来なら、四公爵家の均衡を保つために、ルーク家に降嫁するはずだったのだ。しかし、彼女は良くも悪くも、クライオス王家の一員だった――そう、彼女は自分の伴侶を見つけてしまったのだ。それは婚約者であったルーク家の子息でなく、クラン家の子息だった。

 結果、彼女はゴネにゴネてクラン公爵家に降嫁した。気持ちは分からないでもないが――僕だって、イヴが他の男の婚約者だったら奪い取っていただろう。見つける前ならまだしも、伴侶を見つけてしまったら、相手以外は目に入らなくなる。伴侶とはまさしく、魂の片割れなのだから。伴侶以外と子作りするなんて絶対に無理だ。考えただけでゾッとする。何よりも、運命の伴侶が他の人間の手を取るなどと耐えられない。それを目のまえで見せられるなんて地獄だ。そんなことになったら、伴侶を攫った相手を殺してしまうに違いない。

 けれど、それは伴侶を見つけた人間の理屈だ。自らの伴侶が分からない人間には理解できないものだろう。

 エリゼ姫を奪われたルーク家は馬鹿にされたと、クラン家を目の敵にするようになったのだ。つまり、エリゼ姫のせいで僕の恋路は邪魔されているのだ。

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