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王太子は動き出す 5

 更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。お待ちくださっている方、いつもありがとうございます。


 さて来たる12月1日に傷物令嬢の2巻が販売予定となっています。

 それに伴い、11月10日~12月30日の間、Kindle様とブックウォーカー様で1巻が無料でお読みいただけます。(お知らせが遅くなってしまい、申し訳ありません)

 書籍化にあたって、色々と加筆をしております。特に書籍版のヒーローになる彼の登場シーンが多くなっております。彼を好ましいと思っている方には楽しんでいただけるのではないかと思っております。

また、特典SSとして下記の2点がお読みいただけます。

 ●『入殿準備』書籍化にあたっての特典

    エヴァンジェリンが入殿する前の、セオドアとリザム子爵夫妻のお話し。

 ●『セオドアの好きなもの』電子書籍のみの特典。

    入殿前のセオドアとエヴァンジェリン、リザム子爵夫妻のお話し。

   ※書店や出版社様のサイトからご購入いただいた方は未読だと思われます。

   ※『ジェイドの手紙』に関してはTOブックス様のサイトからの購入特典となっております。


更に、林先生の美麗な挿絵をご覧いただけますので、林先生のファンの方は必見です。


 などなど、色々と楽しんでいただけるかと思います。

 お時間がある方は、お読みいただけると嬉しいです。

 耳障りな音楽が奏でられ、老獪な狐狸が跋扈し、禿鷹が飛び交う。醜悪な伏魔殿で、すり寄って来る獣に笑顔を振りまく。今日の僕の仕事はそんなつまらない――いや、ある意味刺激的なのか?――ものだ。色んな獣が獲物を携えてはやって来て、阿っては、去っていく。それは思うように嬲れる貴族の情報だったり、胡乱な商売の情報だったりと、面白い情報(ろくでもないもの)ばかりだ。あまりの薄汚さに、哂ってしまいたくなる。

 ルーク公爵家の夜会には、殆ど出席していなかったが、いつからこんな低俗な輩が集まる場所になったのか……いや、もしかしたら、僕への嫌がらせのために、こんな悪趣味な奴らをわざと集めたのかもしれない。できればそうあってほしい。そうでないと、この国の未来は真っ暗だ。そう思ってしまうほど、寄って来る奴らは下衆ばかりだ。


 しかし、自国の王太子が婚約解消したばかりだというのに、こんな悪趣味なまで豪奢な夜会を開くなど、正気の沙汰ではないとは思うが、主催者(ルーク家当主)に常識なんて求めても仕方がない。何よりも、いくら愛する伴侶のためとはいえ、傷心の息子をこんなところに放り込む父親も父親だ。

以前の僕なら、こんな場所には絶対に来なかっただろうが、いまや失うものなどない今の僕には有益な場所になるかもしれない。少なくとも、余計なことを考える暇はなくなる。今はそれが何よりも、ありがたい。


 背の高い、銀髪の男――確かどこぞの男爵家の当主だったはずだ――が視界に入って、思わず舌打ちをしたくなる。恐らく似ているのは色彩と髪型だけで、近くで見たら全く似ていないのだろう。けれども、今はあの色を見たくない。銀色なんてこの世から無くなってしまえばいいものを。


 その男を見たせいで、今日の昼のことが頭によぎり、思わず拳を握る。表情に出さないように顔に笑みを乗せる。けれど、内心ではとても穏やかではいられない。

 思い出すのは、逃げてしまった小鳥のことだ。機を窺うべきだとは、分かっている。今だけは外の世界を見せてやろうとも思っていた。けれど、昼間のことを思い出すだけで、そんな気持ちは脆くも崩れ去ってしまいそうだ

 気を静めるために、ワインに口をつける。モノは良いのだろうが、立っている場所のせいか、周りの獣たちのせいか、それとも僕の精神状態のせいか、血生臭く感じられて仕方が無い。

 

 今日の昼間、リザム子爵夫妻に返された邸に、女官を連れて赴いた。邸内を色々と見てまわったが、リザム子爵夫妻の清廉さを証明するように屋敷の中は、僕が贈ったままで、何ひとつ欠けていなかった。感心半分、苛立ち半分の奇妙な心持ちでイヴが使っていた部屋へ足を踏み入れた。

 ……イヴの部屋には、僕の贈ったものが全て残されていた。アクセサリーのひとつどころか、宝石のひとつ、ハンカチの一枚ですら無くなっていなかった。僕からの贈り物は何も持って行かなかったのか……呆然とした後に、ふつふつと怒りが湧いて来た。つまり、イヴは僕の色の宝石ではなく、あの男の色の宝石を選んだのだ!


 それだけでも、腹に据えかねるのに、執務室の金庫にはとんでもない爆弾があった。この邸をイヴに贈るにあたって、信用できる人材を選りすぐった――ザインを通じて雇ったので、貴族ではないが、有能で信用ができる人間ばかりだ――執事が僕に一本の鍵を差し出した。彼曰く『殿下()に渡すよう、リザム子爵から預かっていた』らしい。

 受け取った、その小さな鍵は、執務室にある金庫の鍵だった。首を傾げながら開けた先には、金貨と思しき袋があった。『邸の賃貸料と消費してしまった菓子や花の代金』だと手紙があった。装飾品やドレスどころか、花や菓子まで受け取る気はないという徹底ぶりに、力が抜け、その場にへたり込みそうになるのをなんとか堪えた。震える手で袋に手を伸ばす。これが全部金貨ならば、僕がイヴに贈ったものの数倍どころか、数十倍以上の金額になるだろう。

 なんとか袋を開き、中を覗き込んで、絶句した。袋の中にはわが国の金貨がいくらかと、サリンジャの金貨が入っていた。サリンジャの金貨は金の含有率が高く、この大陸では一番価値がある。そんな金貨が人の頭ほどの袋にぎっしりと詰まっていた。正確には数えてはいないが、恐らく、この邸よりも高いだろう。


 リザム子爵家は裕福な家ではない。こんなに大量の金貨を用立てることなんかできないだろう。それならば、この金貨の提供者は誰か……考えるまでもなく、あの男に違いない。

 手切れ金とでも言いたいのか……それとも、これっぽっちの金でイヴを買ったつもりなのか……。

そもそも、あの気障野郎ならば、いくらでもわが国の金貨を用意できたはずだ。それなのに、わざわざ、サリンジャの金貨を用意したのは、自分の痕跡を残すためだろう。そしてリザム子爵夫妻がそれを許した、ということを僕に知らしめたかったに違いない。舐めた真似をしてくれる……!


 ずっしりと重たい金貨の袋を壁に向かって投げつけたくなるのをグッと我慢し、気を落ち着けるためにため息をこぼした。隣に立つ執事が僕のため息に身をすくませたが、構ってやれる余裕は僕にはなかった。

 なんとか、袋を金庫に戻すように伝え――あの男からの金なんか、銅貨一枚たりとも受け取るつもりなんかない――気を落ち着けるために邸から出て、息を大きく吐いた。


 何もかもが気に食わない。嫌になる。全てを壊してやりたい。そんな凶暴な欲求が身体中を駆け巡る。怒りのあまり、目眩がしそうな僕の目に、獣たちが映る。気持ちが悪い。どうにも不愉快だ。このまま、目に映るモノをなにもかも壊してやったらどれほどすっきりするだろう。こんな醜い奴らを……こんな愚者どもが住む、醜悪な世界を僕が守ってやる必要がどこにあるのだろうか?イヴを失ってまで、こんな世界を守る必要なんか、あるのだろうか。


「おぉ、殿下ではありませんか!我が家の夜会へようこそお越しくださいました」


 どこか弾んだ声に振り返れば、そこにはこの夜会の主催者たるルーク家の当主、キーランが立っていた。どれだけ飲んだのか、近くによると、酒の臭いが鼻についた。しかし、さすがに公爵家の当主というべきか、顔には全く出ていない。けれども、奴が纏う酒の臭いと、上機嫌な様子はどう見ても深酒をしたようにしか見えない。そんなキーランの隣には次男のディーンが付き添っている。

 少々軽佻浮薄なきらいがある長男のグリシャとキーランの不仲は社交界では有名な話だ。次期当主はグリシャではなく、真面目なディーンを指名するのではないかと噂されている。こんな場でもディーンを伴っているということは、その噂は根も葉も無いものではないのかもしれない。


 機嫌が良さげな男を前に思わず出かけたため息を飲み込む。父が僕をこのくだらない夜会に放り込んだのは、僕とこの男を接触させるためだ。だから、彼らが僕に接触してくるのは当然のことなのだろう。しかし、正直今の僕にはにこやかに奴らの相手をする自信はあまりない。それでもなんとか笑みを作ってキーランとディーンに向き直る。

 今まで極力ルーク家に関わらないようにしていた僕が、いくら父に命令されたからと言って歩み寄る様を見せたのが珍しいのか、軽く目を瞠った。確かに今までの僕なら父の命令でも従わなかっただろう。けれど、今は目的がある。そのためなら、悪魔にだって笑いかけてやろうではないか。


 そう、この場は貴族達に王家とルーク家の強い繋がりを貴族達に見せつけるために用意された場なのだ。要するに、茶番だ。

 宰相が出奔したせいで生家がなくなり、『王国の盾』と名高いスライナト辺境伯家とは決裂をし、更に密輸をしていると囁かれる。そんな母の窮状を救いたかった父はこの場を設けた。いくら自分と母が動けないからと言って僕を送り込むなんて愚策の極みだ。僕が母の窮状を救うとでも思っているのだろうか。考えが足りないにも程がある。我が父母ながら、どうしようもない。

~~2巻についてのお知らせ~~

 2巻は書き下ろしである『セオドアとエヴァンジェリンが入殿前に巻き込まれた事件』の話がメインとなっており、1巻よりもさらに大きく加筆をしています。

 セオドアとエヴァンジェリンにもう少し、深く付き合っても良いと思ってくださる方、お手に取っていただけると本当に嬉しいです。


また、2巻も特典SSをご用意しております。

●書籍化特典

 『セオドアという男』

   バーバラの目から見たセオドアとはどんな男性なのか……?

 『お膝の上って本気ですか?』

   神殿に辿り着くまでのセオドアとエヴァンジェリンのおはなし。

   周りからは、どんな風に見えていたのか?

 『真っ暗い夜と灯り』

   セオドアとエヴァンジェリン、王都を発った日の夜のおはなし。


●電子書籍専用特典

 『アスランと側近』

   公爵家に帰ったアスランとその側近たちのおはなし。

 『王子と狐と片吟』

   ジェイドがエヴァンジェリンのために求めたものとは……?


●TOブックス様のHPからの購入特典

 『妖精界の救い手と妖精王』

   セオドアとエヴァンジェリンが巻き込まれた事件で知り合ったものから見た事件の一部。


 また、2巻も林マキ先生の美麗なイラストがご覧いただけます!

 どうぞよろしくお願いいたします。

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