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傷物令嬢は推しに弱い

「申し遅れたね、私はセオドア・ハルト」


「まあ、はじめまして。ハルト様。私はエヴァンジェリン・クラン・デリア・ノースウェル・リザムと申します」


 そんな世界情勢のため、治癒術師は実に高い地位を誇っており、下手な貴族より重く扱われることがある。

 そしてハルト、というのは教会に所属する治癒術師であることを示す名前である。


「王宮ではあまり見ない顔だね、お嬢さん。今日は魔道書を見ていたのかな?」


「えぇ、3ヶ月ほど前から登城しておりますが、図書室に来たのは今日が初めてです。

 魔法に興味があって本を開いたのは良いのですが、自らの属性がわからず落胆していたところでしたの。子爵家の出ですので、どなたかにお願いすることもできませんし、神殿に通うのも難しいので、何か他に方法がないか、考えておりました。

 お見苦しいところをお見せした様で申し訳ありません」


 推しキャラ尊いと思いつつ話していたので、ついつい喋りすぎてしまった。王太子の婚約者が、神殿の治癒術師とは言え、あまり異性と仲良くすべきではない。例え、彼と私が間違いを犯す可能性がなかったとしても落ちかけた足を引っ張るのは貴族の伝統である。


「そう、それじゃ一つ提案なんだけど…」


 カーテシーをして去ろうとした私にセオドアが話しかける。無視して去れば良いのだが、推しキャラが目の前にいると思うとなかなか去れないファン心理が働いてしまい、つい立ち止まってしまう。


「君さ、とんでもない魔力の持ち主でしょう?良かったら神殿に所属しないかい?だったら私が君の教師役を無償でしてあげるよ」


「あの、実にありがたいお申し出ですが、それをなさると、制約違反になりませんか?」


 ゲームでの彼は無償でサラを助けたことにより刻印が暴れて大変ひどい目に遭うのだ。


「へぇ、そんなことまで知ってるなんて、神殿のことを調べたことがあるのかな?」


「えぇ、まぁ。興味があって。

 そんな強い制約がある方に私のわがままで無理を言えませんわ」


「ふふふ、大丈夫だよ。なぜ私たち、神殿職員が王宮にいるかわかるかい?」


 楽しげにセオドアは首を傾げる。そう、彼は知的な子が好みでたびたびヒロインを試す様な物言いをすることがあるのだ。


 本来治癒術師は神殿の所属なので神殿で過ごすことになる。しかし、王城の敷地内には神殿が立てられており、そこに例外的に部屋を賜っている職員がいる。だいたい、治癒術師が1人から2人。それ以外の魔導師が10人前後、お世話役として派遣されてきている職員が20人前後の約30人が神殿で暮らしている。王城の中にある神殿は特別に王宮神殿と呼ばれている。


 もちろん王家が頼んで在駐してもらっているだけなので、彼らの所属はあくまで神殿である。そのため、王城内にありながら、王家が手出しをすることはできない、一種の治外法権の場所にもなっている。確かゲームのセオドアも最初は王宮神殿で暮らしていた。


「いざと言うときの王族の備え以外に、ですか?

 あ、わかりました。王宮の出世コースに乗れなかったけれども、高い魔力保持者を確保するためにここにいらっしゃるのですね?」


「そういうこと。やはり貴族の方が平民より高い魔力を持つからね。貴族籍は捨てることになるけど窓際の閑職にいるよりも神殿に所属した方がいい生活ができることが往々にしてあるんだ。もちろん、実力次第だけど。

 そういう見込みのありそうな子なら、本人たちのーーつまり、私と君の同意が有り、君が神殿に所属すると言う誓いをしてくれるので有れば、無償で教えても制約に反しない」


 そう言って彼は流し目でこちらを見る。無条件で頷きたくなるファン心理を抑えて言葉を紡ぐ。


「申し訳ありませんが、今の私は神殿に所属することができない身でございます。お心遣いありがとうございます」


「今の君の身では…か。意味深長な言葉だね。よかったらもう少し話をしたいな。それに君に見せたいものもある。よければもう少し時間をもらえないかな?」


 正直、セオドアの提案はとても魅力的である。婚約破棄をされた傷物令嬢でも問題なく、生計を立てていけそうである上、貴族籍を抜くことになるので、子爵家にも迷惑がかからない。

 何より、もし私が神殿職員になれば、神殿へ忠誠を誓い、下された命令に忠実に従えば、身体にある醜い傷跡を消してもらえる可能性だってある。あちこちに傷跡があるのはやはり女としては気になる。将来結婚する可能性はとても低いが、それでもやはり綺麗な身体でいたいと思ってしまうのだ。


 とは言え、先ほども言った様に表向き私はジェイドの婚約者なので、密室に男性と2人になるわけには行かないと告げたところ、向かうところは一般公開ーーと言っても平民が入れるわけではない。あくまで登城した貴族が自由に入れるということであるーーされている南向きの中庭なので、問題ないと返答された。


 セオドアは当たり前のように私に手を差し出し、エスコートしてくれた。流石、ある程度の貴族以上のステータスを持つ治癒術師である。贔屓目を除いても、実にスマートなエスコートだった。

文節の区切りでどうしても短い章と長い章ができてしまい、申し訳ないです。

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