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令嬢は神官と出かける 1

 食事が終わったので、割り当てられた二階の部屋で少しひと息ついていたら、ノックされた。返事をしたら、にこやかにセオが入ってきた。


「食事は大丈夫だった?次からはクライオス風にしてもらおうか?」


「ううん、すごく美味しかったし、次からもサリンジャ風でお願いしたいかな」


「無理はしなくて良いけど…、まぁお口にあったなら何よりだよ。君の準備ができたら、約束通り俺に付き合って欲しいんだけど、いいかな?」


「うん、わかった。30分くらい待ってもらえる?急いで支度するから」


「ゆっくりで良いよ、下で待ってるから」


 そう言ってセオは部屋から出て行った。急いで身支度をして下に向かうとセオが女将さんと話していた。


「女将さん、今からシェリーちゃんを連れていつものところ行ってくるから。わかってると思うけど三日は帰らないよ」


 セオの言葉に驚いたので、階段を降りて、問いかける。セオの格好を見たけれど、特にこれと言って大きな荷物を持っていない様に見える。


「三日は帰らないってどうして?ちょっと待って」


「うん、だからいつも言ってるでしょう?君は迂闊すぎるって。どこにでもついて来てくれるんだろう?」


 何故か少し意地悪そうに笑うセオに私は焦ってしまう。だって泊まりがけならば色々と用意がいるのだ。身の回りの品や着替えなど用意するものはたくさんある。


「えぇ、ついて行くけど、お泊りなら荷物がいるじゃない。三日はかかるのよね?二泊分で良いの?」


 私が部屋に戻ろうとしたら、セオは引き止めてきた。先ほどまでは私を揶揄う様な顔をしていたのに、打って変わって今はどこか疲れた顔をしている。


「何も準備はいらないよ、ある程度は用意してあるし、それに必要なものは彼方にあるからね。それよりシェリーちゃんは本当に自分の身を守ることを考えなよ…、俺が悪いところに連れ込んだらどうするつもりだい?」


「セオに関しては信頼してるもの。それにセオにだって選ぶ権利があるじゃない。私なんかを相手にしなくたって、引く手数多でしょう?」


 私がそう答えると、セオは深々とため息をついて、手を差し伸べてきた。馬車に乗るからエスコートしてくれるつもりなのだろう。その手を取ると、セオには珍しく私の手を強めに引いた。私を引き寄せると、そのまま私の頬にセオはキスをした。


「え?今、何をしたの?」


 びっくりして言葉が出ない。女将さんも驚いた顔でこちらを見ている。確かにいきなりキスをするなんてバカップルよろしくいちゃついている様に見えるだろう。恥ずかしくて顔から火が出そうである。


「朝言っただろう?次その悪癖を出したら、お仕置きってね」


「それは、考えに没頭してたらって話だったじゃない。今とは状況が違うと思うのだけれど?」


「朝食の時、また考えに没頭してただろう。それに…」


 なんだか後半は小さく、もごもご言っていたが、よく聞こえなかった。聞き返したけれど「何でもないさ」と返される。なんだか少し機嫌が悪そうに見えた。先ほどからころころと表情が変わるが、私が何か対応を間違えてしまったのだろうか?

 それにしてもどうしていきなり仕掛けてきたセオが気分を害するのかよくわからない。


「なに?急にどうしたの?」


「大丈夫。ちょっと嫌なことを思い出しただけだよ。それより行こうか」


 ちらりとセオの顔色を仰ぎ見る。声は平静だが、やはりなんだか憮然とした表情をしている。なんだかよくわからないけど、私にキスしてから機嫌が急に悪くなった気がする。

 恐らくだが、セオも私と同じで異性に触れるのが嫌いなのかもしれない。きっとひどい目に遭ってきたのだろう。それなのにセオは身を削ってまでも私の悪癖を治そうとしてくれるつもりらしい。


 これはあまりセオの前で考えに没頭しない様にしなければならない。せっかくセオの防波堤になって、女性から彼を守ろうにも私の悪癖のせいで彼の心の安寧を奪ってしまっては意味がない。恩を返すどころか仇で返すことになってしまっては申し訳なさすぎる。


「ごめんね、セオ。今後は私、もっと気をつけることにするね」


 そう言うと、セオだけでなく女将さんまで呆れた様な目を向けてきた。解せぬ。女将さんはひとつため息をつくと、私に向き直って笑う。


「あいよ、とりあえず二人の部屋はキープしておくからね。二人とも気をつけていってらっしゃい。

 あと、お嬢さん、朝はすまなかったね。色々と勘違いしていたみたいだ。だけども、ひとつだけ忠告させておくれね。男には気をつけな、隙だらけに見えて仕方ないよ」


「ありがとうございます。肝に銘じます」

 

 せっかく女将さんが譲歩してくれたのに、『私非モテなんで問題ないですよ』なんて言ってしまうと空気が悪くなる気がしたのだ。

 生返事なのがわかったのか、女将さんはもうひとつため息をつくとセオに向かって言った。


「なんでこのお嬢さんは自分の価値をわかってないのかねぇ…。セオドア様、しっかり守ってあげな。あと、あんたも変な手出しするんじゃないよ」


「我慢してるの見てわからない?俺ものすごく頑張ってると思うんだけど?」


「まぁ、決壊しない様にくれぐれも頑張りな」

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