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辺境伯はため息をこぼす

魔法について、私の世界の魔法感がよくわからないと言う感想をいただきました。私の作品中では魔法とはこんなふんわりとした雰囲気で書いております。

 わかりづらかったら申し訳ありません。この説明をしてもらうために辺境伯に出張ってもらいました。

感想をいただいてから時間がかかってしまい、申し訳なかったです

「なんで、あんな男に阿ったんですか?閣下なら今の王国に逆らうこともできるはずでは?」


「そうか、イゴール。お前たちハルペーの民は魔法を使えないから、あの殿下の恐ろしさは分からないのか…」


 わしはため息をつく。そうすると驚いたことにアンディも同じ様に反対してきた。アンディはグレース姉さんの息子だ。性格は母ではなく父に似たのだろう、礼儀正しい青年だ。けれど、腕っぷしは母譲りで下手をしたらグランツよりも魔力は強いかもしれない。


「イゴールの言う通りです。どうして、殿下に力添えする気になったのですか?」


「お前までか…。魔法の使える人間ですら、殿下の恐ろしさがわからんか…グランツ、お前はどうだ?」


 儂の言葉にグランツは力なく頭を左右に振った。素直で良いことだとは思うが、危うかった。今日、殿下に会わずに帰って敵対していたら、スライナト辺境伯家は滅びていただろう。


「魔法とは想像力である、これは知ってるさ。けど人間の想像力には限度があるだろう?魔力量が高いからと言ってなんでもできるということじゃないって俺は習ったけど」


 グランツの言葉に儂は頷いた。間違いではない。けれどそうではないのだ。巨大な質量の前ではどうしようもないことは多々あるのだ。どう言えばいいか、考えながら儂は口を開く。


「魔法とは想像したものを現実に投影することだ。けれども想像に足る魔法を顕現するためには魔力が必要になる。魔力が釣り合っていない想像は実現されない」


 三人は首をかしげる。そして、何かを考える様にしてアンディが口を開く。


「僕は自分の属性を確認してもらった後に魔法の使い方を教えてもらって使ってます。習えば誰でも使えるものじゃないんですか?」

 

「そうだな…、お前たちは魔法を習う時に目の前でその魔法を使ってもらわなかったか?」


 そう聞くとアンディとグランツは頷く。それが一般的な教え方である。けれど、今の教育方法では理論まで教えてくれない様である。いや、あの男が異常だったのかもしれない。


「魔法を見せてもらったことで、お前たちはどの様な魔法を使うのか、想像ができた。そしてお前たちの魔力が足りているから発現できるのだ」


 アンディもグランツも儂の言葉に首を傾げる。本当はあの男に習った言葉など使いたくないが、説明するのには適した言葉であろう。あの男のせいでエティーを失ったが、それでもあの男の教えは自分の役に立っているのだと思うと少し気分が悪いが仕方がない。


「そうだな、魔法というのは料理を作る様なものだと考えれば良い。料理を作るときはどんな料理を作るのか、想像しながら作るだろう?

 料理を作るにはレシピと食材が必要になる。簡単に言うとレシピとは想像力で、食材が魔力だ」


 なるほど、とアンディとグランツは頷くが、イゴールは首を傾げたままである。確かに魔法を使えないハルペーの民にはピンと来ないのかもしれない。けれど、二人は理解している様なので、この際である、教えておこう。


「魔力に関してはもっと詳細に教えておこう。

 騎士レベルであれば50メートル四方の倉庫が必要になると思うと良い。倉庫の中になにが詰まっているかで作れるものが違う。

 例えば、ポテトサラダを作ろうとしても倉庫にじゃがいもがないと作れないだろう。倉庫の中身が属性と思うとわかりやすいのではないか?どれだけレシピを知っていても、食材が揃ってないと作れないものだ」


 つまり、炎属性を持っていない場合、いくら目の前で毎日火の魔法を使われていても、簡単な着火魔法ですら使えないのだ。


「レシピには失伝したものもあるし、新しいものが開発されることもあるだろう。魔導師たちのほとんどは、このレシピを発見したいのだ」


「待ってください、じゃあ魔力さえ足りていれば簡単に誰でも魔法を思いつけるんじゃないんですか?料理なんて簡単に新レシピを思いつけるじゃないですか?」


「いや、そうでもない。料理でも新しいレシピを作ったと言っても、使う調味料や食材はあまり変わらないだろう。新しいレシピと思ってもすでにあるものと、同じもののことはないか?魔法だとてそうだ。

 大きな炎の球を相手に投げつけるのも、複数の小さな炎の球を打ち出すのも結局は同じ魔法だと思わないか?」


「なるほどな。確かに親父の言う通りだと思ったら急に新しい魔法を思いつけと言っても難しいな」

 

 グランツの言葉に儂は頷いてまた口を開く。


「そして倉庫には入り口が必要になるだろう?倉庫によって入り口の大きさは異なるものだ。どのくらい広さがあったとしても、倉庫に小さい入り口しかなかったら、小さい魔法しか使えない。逆に大きな入り口があったとしても、倉庫の容量は決まっているから、考えもなしに使ってしまえば、すぐに食材はなくなるだろう。

 倉庫の中に色々な食材があればあるほど、多彩な料理ができる。けれど、同じ食材で料理を作り続けるほど、料理の腕は上がると思われている。下拵えや下処理などもやり方がわかってくるからな。

 つまり、多彩な料理を作れる人は器用であるが、決まった食材を使って料理を作り続けた人の方がその料理を極めることができる可能性が高いと言われている。現在の魔導師の中では豪炎のエルザと呼ばれる神殿の二位がその筆頭だろうな。

 まぁ、料理は天性の才能もあるから、複数属性を持っている人間の方が料理下手というわけではないだろうが」


「豪炎のエルザ、ですか?スライナト辺境伯領に来たことはないと思いますが、そんなにすごいんですか?魔法を使えない我々にとっては、使える人間はどなたも凄いとしか思えないのですが…」


 イゴールが問うてくる。彼らにとっては魔道士は皆一様に人間以上の生き物なのかもしれない。


「豪炎のエルザは息を吸う様に炎の魔法を操る。一人で百人単位の野盗を瞬く間に倒してしまう。騎士であれば百人単位必要な竜の討伐だとてエルザの手にかかれば、赤子の手をひねる様なものだろう。彼女の魔法は広範囲で高火力だ。わしが今まで見てきた人間の中で、彼女ほど強い魔導師は見たことがない」


「とんでもない使い手なんですね。次元が違うとしか言いようがありません。僕も結構魔力が高いとは言われますが、一気に巻き込める人間は五人くらいですよ。

 しかし、クライド様の仰る理論は初耳です、そんなことを聞いたことありません」


「うむ、まぁそれが一般的だろう。料理とは言っても、レシピ通りに作る人間もいれば、感覚で作る人間もいるだろう。お前が習った相手は感覚で魔法を使う人間だったのかもしれんな。いや、わしが教わった人間が規格外だったのかもしれん」


 驚いた顔をしながらも「でも、わかりやすいです」と答えるアンディを見て苦く笑う。やはり分かりやすいのだろう。わしも分かりやすいと思ったし、未だに思い出せる。忽然と姿を消してしまったあの男の顔はよく思い出せないのに、奴の授業は忘れられない。


「うむ、それで王宮魔導師は200メートル四方、神殿の二位であれば王城レベル、一位に至っては王城を含めた首都レベルの大きさと思うと良い。

 とは言え、倉庫も王城も街も大きさはピンからキリまであるから、あくまで目安だと思って欲しい。恐らく先ほど言ったエルザは一位レベルの広さの倉庫を持っているだろう」


「想像もつきませんね。それでは殿下はどうなんですか?」


「お前は地平線の先がどこまで続いているか、想像できるか?」


「まさか……」


「そのレベルで広いと思われる。計り知れない。そんなに途轍もなく広い倉庫の入り口が狭いはずはないだろう。そんな素質を持っている人間がおかしなレシピを思いついたらどうなる?とんでもない味の料理が大量にできる。つまり、国は焦土と化し、数多の人間が死ぬことになるだろう。

 けれど、昨日までの殿下ならば、そんなレシピを考え付きもしなかっただろう。もし、思いついたとしてもそれを実行できる精神的な強さもなかっただろう」


 そう、昨日までは。今日見た殿下は常軌を逸した瞳をしていた。絶対にあの男が関わっている。生きていたのか、と思うとなんとも言えない感情が湧き出てきた。この手で殺してやりたいと思うが『南の雄』と呼ばれる今になってもあの男に敵う気がしない。


「クライド様、流石にそこまではないのではないでしょうか?そんな恐ろしい人間なんて存在するのですか?」


 恐る恐るイゴールは尋ねてくるから、答える。


「殿下はオーガスト・クライオスと遜色ない素質の持ち主と言われている。知っているか?初代国王、始まりの魔法使いのオーガストは我が国を作るために、この辺りを蹂躙したと言われている。その期間はなんと二日にも満たなかったという。オーガストがこの国を建設した頃には、ここは焼け野原で草一本生えてなかったそうだ。この国を再生させたのは、オーガストの娘の『ヤヨイ』だったと言われている。ヤヨイは焼け野原だったこの国を一週間で青々とした緑なす国に戻したと言う。さらに亡くなった人間を生き返らせたという話すらある。この辺りまで来ると神話レベルの話だな。失伝したレシピの代表的な例だろう」


「それはもう人間ではないだろう!我が国の土地全てが焦土なんて!」


「そう、オーガストは表向きはハーヴェーが人間を救うために生まれてきたものと言われておるからな」


 辺境伯という地位に就く儂は、テンペス公爵家の編纂した記録を読ませてもらっている。記録を読めるのはテンペス家の直系たる人間だけで、現在ではハインデル侯爵家と我が辺境伯家の当主のみである。


 この三人にはいつか教えなければならないと思っていた。王家の闇を。オーガストの嘘を。それは今なのだろうか。いや、まだ早いだろう。けれどこれだけは知っておいてもらわねばなるまい。


「知っておけ、オーガストはハーヴェー教や王家が言う様な英雄ではない。あれは醜悪な欲を秘めた、ただの邪神だ」


なお、魔力量を測る水晶や小切手帳などは、缶詰や冷凍食品の様なものと思っております。すでに調理済みで、人間がひと手間かければーー魔力を込めればーー直ぐに食べられる感じです。


 次回からようやくイヴの視点に戻ります!ようやくです

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[良い点] 続き、楽しみに待ってる。
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