幼馴染の日記から 1
6月12日
私の未来の旦那さまだと、デュラン様を紹介された。なんだか私を値踏みする様な目で見ていたのが印象的だった。なんだか怖い。
6月15日
デュラン様のお姉様と妹君に会った。妹君のグレースは私と同じ年で、気が合って友達になった。なんだかこの家に来て始めて息が吐けた気がした。彼女がいてくれるなら、この家でも生きていけると思う。
6月17日
弟君もいるらしいのに会わせて貰えない。私はデュラン様の婚約者として失格だから会わせて貰えないのかしら?よくわからないわね。けれど、グレース以外のこの家の人は皆冷たい気がする。私がデュラン様にふさわしくないと判断されたなら、それはそれで構わない。お家に帰りたい。
6月20日
デュラン様の弟君のクライド様とお会いした。紹介して貰えないのは私のせいかも?と思ってたけど違うみたい。クライド様はグレース以外のご家族から何故か疎まれているみたい。何故かしら?主家に当たる家のことだからあまり調べられないから、よくわからないけど……。
なんだか、クライド様は私と同じみたい。
7月1日
クライド様とお話しした。この間はずっと黙ったままだったから、よくわからなかったけど、話してみると素直な方なことが分かった。グレースとも仲が良いみたい。それなら私も仲良くできるかも!
7月15日
クライド様はすごく魅力的な方だった。他愛無い揶揄いですぐに怒るくせに、謝ったらあっさりと許してくれた。なんというか、可愛い方だと思う。
手を見たら、マメだらけだった。すごく努力される方なんだろう。それなのに結果に結びつかないなんて、きっとお辛いだろう。お可哀想にも思えた。
7月25日
大切な組皿を割ってしまった。デュラン様が急に私の腕を引っ張ったから起きた事故なのに、デュラン様は知らない顔をした。私はきちんと慎重に運んでいたのに…酷い。
奥様にすごく叱られて罰に、と夕食を抜かれた。夜にこっそりクライド様が来て私に小さな砂糖菓子をくださった。
オレもよく食事を抜かれるから、非常食を持っているんだ、と笑った。デュラン様と違って爽やかな笑顔だった。
8月1日
砂糖菓子を下さった後からは、クライド様と色々お話したくて仕方がなくて、暇を見つけてはクライド様を探した。
今日は一段と仲良くなれた気がする!彼は私にラディーと呼んでいいと言ってくれた!彼も私をエティーと呼んでくれることになった。すごく嬉しい!
8月31日
ラディーと秘密の暗号を考えることになった。二人だけの秘密だと、ラディーは言った。グレースにも内緒だ。なんだか楽しい。
デュラン様はいつも私を蔑む様に見るだけだ。気味が悪い。ラディーが婚約者だったら良かったのに…。
最初は幼さが目立つ拙い文字で、日を追うごとに流麗な筆記体で、日記は綴られていく。エティーの気持ちが儂に向いていたことがわかり、嬉しい反面守りきれなかった悔しさが胸に積もった。エティーも辛かったのに、儂を守ろうとしてくれていたのか。今思うとエティーは八歳だった。親元から離されて、急に主家に仕えろと言われたら不安で仕方がなかっただろう。本当に守れなくて申し訳ないと思った。
エティーは毎日、日記をつけていた。あぁ、こんなこともあったなと日記を読んで思い出したこともたくさんあった。儂の目からとめどなく涙が流れていた。妻がどんな想いでそんな儂を見ていたのだろうかと、今では、思う。けれどその時の儂は妻に気をつかう事はできなかった。昔も今も変わらず儂は愚かである。




