傷物令嬢、王太子に心理テストをする 1
1週間もたたないうちに私は王妃教育のために毎日登城することになった。幼い頃、5歳から8歳の間、教育を受けていたが、以降は子爵令嬢として恥ずかしくない程度の教育しか受けていないので、正直緊張した。しかし『雀100まで踊りを忘れず』とでもいう様に困ることはなく、基本ができており、エヴァンジェリンの地頭がいいせいか、王妃教育はこれと言って問題なく滞りなく進んでいる。
王妃様は私に対して、表面上優しく接して下さるが、おそらく私が婚約者であることが不満なのだろう。質問に正しい回答をすると一瞬憎らしげな顔をする。ばれてないつもりだろうが、社交に疎い私でもわかるほど顔色が変わる。この人、社交は大丈夫なのか、と他人事ながら心配になるくらいである。どうやら落第生の烙印をつけたい様だが、うまくいかないことにイライラしている様だ。
それよりも頭を悩ませたのが、ジェイドとの接触回数の多さである。以前の婚約者達同様、彼とも距離を置きたかったのだが、なにせ向こうから関わってくる。
まず、婚約式を締結した翌日には大量のドレスと宝石が届いた。愛を込めて、とカードに、直筆で書かれており、全てオートクチュールの最高品だったが、私にぴったりだった。いつから作られていたのか、なぜ私のサイズを知っているのか、恐ろしくて仕方がないが、王宮に行くためのドレスがなく、困っていたので、細かいことは気にせずありがたく頂戴することにした。
次に、毎日、花と愛している旨のメッセージが届きーー恐ろしいことに毎日文言が違い、彼の直筆であるーー月に1回、婚約を調印した15日には記念と称して、彼からドレスや宝石が贈られてくる。正直何が起こっているかわからない。けれどいただいたからにはお礼の手紙を書かなくてはならない。私からも頻繁に手紙を書くことになった。
そして、王妃教育後に交流のためと言って3日に1度は1時間ほど2人でお茶会をするため、距離を置く?それ何語?的な感じで関わっている。本当になぜ、どうしてこうなった?
お茶会をしなければならないなら仕方ない。仕方ないと思いたくないけども、仕方ないものは諦めよう。
そして、お茶会をしながら私はあるひとつのことを試していた。それは、ジェイドがサイコパスであるかないかの確認である。以前心理学の授業やネットなどでサイコパス診断方法とされたものがあった。全てではないが、その一部を覚えていたので、彼に質問してみることにしたのだ。彼の返事次第では、それが判明するのではなかろうか。
いや、したところで何も変わらないと思うかもしれないが、私の心に平穏が齎されるかもしれないのだ。やってみる価値はある。
「ジェイ様、あのぅ、木の絵を描いていただきたいのですが」
「木の絵?なんの木を描けばいいのかな?」
「なんでも良いのです…思いついた感じで、実の成る木を描いていただけますか?」
そう、これは有名な心理テストのひとつ、バウムテストである。木の大きさや位置、枝や幹、実の様子や成り方、視点や大地など色々な面からどの様な性格か、また精神状態を測れるという代物である。興味のある方はぜひ調べていただきたい。
正確によく覚えてないが、色々と意味があり、ある程度の傾向が見られるはず!と意気込んだ私の前に差し出された絵は、なんと木が幹からぽっきりと折れているものだった。そしてその木の周りにはリスや小鳥など小動物が悲しそうに木を見つめていた。下手に上手いところがなんというか哀愁を感じさせる。
そして思い出す。とある少年殺人鬼に絵を描かせたところ、同じ様に幹からぽっきりと折れた木の絵を描いたそうだ。『これは異常な精神状態を表す』と講義していた大学の先生の言葉を。
「何か、間違えたかな?」
言葉を失った私にジェイドは続けた。私は黙って首を振ることしかできなかった。そして、ジェイドの描いた絵はそのままプレゼントされたが、どう扱って良いか分からず、引き出しにそっとしまうことにした。
形の残ってしまうものはやめようーー物証が残っているのは恐ろしいし、何度も再認識してしまうからーー設問でいこう、と心に決めた。




