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 第96話  『 怪物は満月に吼える 』



 (……このガキ)


 ……鍔迫り合いの最中、俺はリゼッタを睨み付ける。


 (この体格でバルドよりも力強くねェか?)


 〝鬼神の面〟を被っているのにも拘わらず、押し切ることが出来なかった。


 「ねェ、あんた」


 リゼッタが緊張感のない声で話し掛けてくる。


 「 それ本気? 」


 ――重ッッッッッッッッッ……! のし掛かる力が更に重くなった。


 (まずい! これは受け切れねェ!)


 俺は受け流すように鍔迫り合いを止め、身を翻す。


 「あれ?」


 押し返す力がなくなった戦斧は勢いそのまま建物を一刀両断する。


 「 首 」


 俺は体を回転させ、回転した勢いのまま――リゼッタの首に蹴りを打ち込んだ。


 「折れろっ」


 「――」


 ――が、


 「――軽ぅ」


 リゼッタの首の強度は凄まじく、軽く痣ができる程度であった。


 (どんな強度だ



 ――ゴッッッッッッッ……! 土手っ腹に重い一撃を食らった。



 (……しっ、ぽ?)


 俺はハッキリと太くて大きな尾が俺に打ち込まれたのを見た。


 「ぶっ飛べェ!」



 ――気づけば、俺の身体は宙へ打ち上げられていた。



 (……打ち上げられている? いや、違うな)


 ――大砲。


 ……そう、まさしく大砲から放たれた砲弾のような勢いで俺の身体は飛んでいた。



 ――俺は少し離れた建物の壁に叩きつけられた。



 「――がっ!」


 衝撃で建物の壁に亀裂が走る。

 突然飛来した俺に街の人々がざわめく。


 「なんつー、馬鹿力だよっ」


 頭から流れる血を拭い顔を上げる。



 ……つい、先程までいた場所にリゼッタの姿は見当たらなかった。



 「消え


 ――影が射す。


 俺は視線を動かすよりも先に横へ跳ぶ。


  次  の  瞬  間  。




 ――ゴッッッッッッッッッッ……! 俺が先程までいた場所にリゼッタの跳び蹴りが叩き込まれ、建物は無惨にも瓦解した。




 「街への被害はお構い無しってか」


 「そんな有象無象ザコなんて、リゼッタちゃん、知ぃーらない」


 リゼッタが倒壊した建物の瓦礫に押し潰され、何名もの命が潰えた。


 「……」


 街には混乱が訪れ、人々の悲鳴や怒号が響き渡る。


 「そうかい、だったら俺も好きにさせてもらうぜ」

 「どうぞ勝手にィッ



     縮     地



 ――俺は一瞬でリゼッタとの間合いを制圧し、顔面に膝蹴りを打ち込む。


 「油断禁物だぜ!」

 「めっちゃ速ー……でも」


 しかし、リゼッタは身動ぎ一つしていなかった。


 「悪いけど火力不足だよ。それと――……」



 ――ガシッッッッッッ……! 俺の足首にリゼッタの強靭な尾が巻き付いた。



 「――女の子の顔に蹴り入れるなんてサイテーだよ!」


 「――っ」


 リゼッタの拳が逃げられない俺に突き放たれ、俺は両腕を立ててガードする。



 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 鈍くて、重い音が響き渡る。



 (――重過ぎだろ!)


 「まだまだァ!」

 「――っ」


 連打に次ぐ連打。拳の雨が降り注ぐ。

 俺は辛うじて拳を捌き続ける。


 (重い! 離れてェ! だが、逃げらんねェ!)


 足首に巻き付いた強靭な尾が逃げることを許さなかった。


 「粘りすぎィ! さっさと死んじゃいなさいよォ!」


 「やだね」


 手が使えない今、リゼッタの尾から逃れる手段はない。しかし、その手はリゼッタの猛攻を捌く為に使っている。


 ―― 一瞬の隙が欲しかった。


 それがあれば尾を切断して離脱が出来た。


 (作ってやるさ、隙の一つや二つぐらい)


 俺はリゼッタの猛攻を捌きながら、その顔目掛けて唾を飛ばした。


 「――っ」


 唾はリゼッタの目に当たり、リゼッタの猛攻が止まる。


 (今っ!)


 俺は小太刀を抜き、リゼッタの尾を切断し、そのままリゼッタを蹴飛ばして離脱する。


 「――っ、乙女の顔に唾を飛ばすなんてサイテーの中のサイッテー!」


 「好きに言え、ここは戦場だ」


 「……何これ?」


 ――リゼッタの腕には一本の鋼糸が巻き付いていた……先の一瞬で俺が巻き付けていた物である。


 「ここには戦士以外はいねェんだよ!」


 ……大手裏剣――〝風車輪ふうしゃりん〟。


 俺は巨大な手裏剣をリゼッタ目掛けて投げつける。


 「当たらないわよっ!」


 リゼッタは背中の羽根で飛翔し、〝風車輪〟を回避する。


 「 〝影風車かげふうしゃ〟 」


 糸が張る。


 〝風車輪〟の軌道が上擦る。


 「何で付いてくんのよ!」


 「 糸だ 」


 ……そう、鋼糸は〝風車輪〟の穴を通っており、俺が糸を引くことにより、リゼッタの方へと誘導したのだ。


 「こんな玩具避けるまでもないわよ!」


 リゼッタは腕を振るって〝風車輪〟を凪ぎ払


 (――ここだ!)



 変 化 の 術 、 解 除 !



 ――〝風車輪〟は弾け、俺の姿に戻った。



 「――えっ!」


 ……そう、〝風車輪〟は変化の術で化けていた俺で、投げたのは俺の影分身であった。

 リゼッタの尾から脱出した時点で俺は影分身を一体つくり、変化の術で〝風車輪〟に化けていたのだ。


 「射程範囲内だ!」


 ……俺の手には〝鬼紅一文字〟の柄が握られていた。


 リゼッタが離れようとする。



 ――糸が張る。



 しかし、俺の影分身がリゼッタに巻き付いていた鋼糸を引いて、離脱を邪魔した。


 「一刀必殺!」


 「――っ!」



        刹



 「リゼッタ様ァァァァァァァァァァッッッ……!」



        那



 ――斬ッッッッッッッッッッッ……!



 「――なっ!」


 「レイワンッッッ!」


 そう、斬られたのはリゼッタではなく、リゼッタを突き飛ばして割り込んだレイワンであった。

 レイワンの躯は斜め一線に一刀両断され、崩れ落ちる。

 突然の出来事に俺もリゼッタも凍りつく。


 ……レイワンの巨大な口がこちらを向いた。


 「 〝閃滅〟 」


 「――っ!」



 ――閃ッッッッッッッッッッッッッッッ……! 巨大な光線が俺目掛けて放たれた。



 しかし、俺は後方へ跳び、〝鬼紅一文字〟で光線を一刀両断して難を逃れる。


 「……クソッ、仕留めきれなかったっ」


 俺は出血する両腕を押さえながら毒づく。

 〝鬼紅一文字〟の代償は安くない、何度も使いたくはなかった。


 「……レイ……ワン」


 リゼッタが虚ろな瞳でレイワンの亡骸を見下ろす。


 「……どうして?」

 「……」


 リゼッタの問いにレイワンは何も答えない。当然だ、レイワンは既に死んでいるのだから。


 「……あたしが油断したから……最初から全力を出さなかったから」

 「……」


 リゼッタのプレッシャーが沸々と高まっていく。


 「もう、いいや。全部ぶち壊しちゃえばいいんだ」


 ……そのときだ。



 「 〝狂獣戯画バーサーカー〟 」



 ……変化が起きた。


 リゼッタの身体は歪み、顔も体格も肌の色も何もかも変わっていく。

 顔は人の顔ならざるものとなり、体格は今までの五倍は膨れ上がり、肌の色は赤茶色に染まる。


 「……何だよ、それ」


 俺は目の前の姿に戦慄した。


 「……ゼッタイニ……ブッコロシテアゲル」


 ……そこには化け物がいた。


 「クソカトウシュゾク……!」


 泣く。


 怒る。



 ……怪物は満月に吼える。


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