第95話 『 連戦必至 』
「……チッ、もう来やがるな」
……俺の超聴力がこちらへ向かってくる大量の足音を捉えた。
(……ベルゼブブ小隊との二連戦、少し疲れが来てるな)
勝てはしたものの、ベルゼブブ小隊はやはり手強い。予想していた以上に身体は疲弊していた。
(……それに〝鬼神の面〟の反動もある)
――〝鬼神の面〟。
……肉体と精神を加速度的に疲労させる代わりに、爆発的に〝氣〟と身体能力を高める〝忍の七つ道具〟の一つである。
(バルドがここを容赦なく倒壊したことから見て、姫はここにはいないな)
でなければ、わざわざ生け捕りにした意味がない筈だ。
だったら、ここに残る理由はない。一先ず離脱して、軍部へ向かうべきであろう。
俺は体力の回復も兼ねて、増援が来る方向と反対の方向から再び城下町へと下った。
「……〝超越者〟は七名いると聞いていたから、後は五名か」
……一人でも骨が折れたのに、バルドより強い奴等が五人も残っているのだ。何とも気の遠くなりそうな話であった。
俺は屋根から屋根へと飛び回り、他よりも背の高い建物の屋根で停止する。
「……ここで休むか」
ここなら周りの様子も良く見えたし、逆に下から見えづらい場所であった。
俺は煙突に背中を預けて座り込む。
「……」
少しだけ目を瞑る。あまり長くは休めないのだ、出来るだけ気力と体力を回復させたかった。
(……王宮が全壊した今、軍部が一番安全な場所に違いない)
……故に、姫はそこにいる。
――無論、軍属であるベルゼブブ小隊の最主力も……。
(……気合いを入れろ、ここからが正念場だ)
同時に休めるときに休まなければならなかった。
「……」
街の喧騒。
「……」
風や木々のざわめき。
「……」
喧しい大きな羽音。
「……………………たく」
俺は立ち上がり、空を見上げる。
「少しぐらい眠らせてくれよ」
満月を背に大きな影がこちらに迫っていた。
「 見ぃーつけた♪ 」
それは巨大な蝿――とその背に乗る少女。
そして、巨大な蝿とドレス姿の少女が俺の前に着地した。
「名は?」
「第十位、レイワン=ベルゼブブ」
「第四位、リゼッタちゃんだよん♪」
……第十位と第四位、か。
「容赦ねェな、本当によ」
しかし、どの道殺らなければならない相手だ。
「……やるしかねェよな」
俺は溜め息吐き、〝鬼神の面〟を被る。
「……先に聞くが、何で俺の場所がわかったんだ」
「レイワンちゃんは凄ーく鼻がいいから、バルドちゃんの血の臭いで場所を割り出すくらい訳ないのよね」
……臭いか、それは盲点だった。
「もう一つ確認したい。他に仲間は来ているのか?」
「 無し♪ 手柄独り占めしたいからね♪ 」
……お前ら二人じゃん。
「……そうか、なら良かった」
「「……?」」
俺の言葉に二人が首を傾げる。
「 二人ぐらいなら何とかなる 」
不敵に笑う俺。
沈黙する二人。
「……レイワンちゃん、待機」
「しかしっ」
「 待機 」
――バキッッッ……! リゼッタの足下が弾け飛ぶ。
「コイツはリゼッタちゃんがなぶり殺す」
「やってみな」
……二人の姿が消える。
――キイィィィィィィィィィィィンッッッ……! 金槍と巨大な戦斧が交差した。
衝撃で周囲に暴風が吹き抜ける。
屋根が粉々に吹き飛ぶ。
「ほざけ、糞下等種族がッッッ……!」
「うるせェ、虫けらがっ」
……戦場に安息はない。




