第93話 『 No.7 』
「……やっと静かになったな」
……俺は死体の絨毯の上で一息吐いた。
(……とはいえ、少しばかり騒ぎすぎたな)
これだけ大騒ぎになれば、軍部からの増援は免れないであろう。
そして、その中には――……。
――ベルゼブブ小隊。
……クロエさんを殺し、姫を拐った奴等がいる。
「……まっ、素直に待ってはやらんがな」
まだ来ていないのなら、今の内に王宮内を散策した方がいい筈であろう。
「……」
俺は正面から堂々と王宮に入る。
観音開きの扉を開き、俺を迎えたのは――荘厳で広大な広間と大階段であった。
「……誰も居ない」
少しは警備の者が残っているものかと思っていたが、無法者を出迎える者は皆無であった。
明かりも消え、ただただ不気味であった。
「……」
俺は周囲を警戒しながら歩を進める。
(……兵士が戦っている間に皆、裏口から逃げたのか?)
その時間は十分にあった。
(その中に姫もいるのか?)
ならば、この宮殿にいるのは時間の無駄であった。
「……」
しかし、確信はない。故にもう少しだけ姫を捜すことにした。
「……」
階段を登り、長い廊下を歩く。
静寂した宮殿に俺の足音だけ響き渡る。
「……………………来たな」
――俺の真上にあった窓が弾け飛び、窓の欠片が雨のように降り注ぐ。
「……随分と派手な登場だな」
「……」
窓を蹴破り、俺の前に立つ全身鎧の兵士に俺は構える。
「……」
しかし、鎧の兵士は何も喋らない。
静かに身の丈程ある大剣を構える。
「余計な御託はなしで殺ろうってか」
「……」
俺も〝九尾‐槍型〟を構える。
「……」
「……」
……無言で睨み合う俺と鎧の兵士。
――消えた。
……鎧の兵士が消えた。
(――高速移動?)
――しかし、俺の〝耳〟は空気の流れを読み、迫り来る〝何か〟を捉える。
(これは高速移動じゃない!)
俺は背後に〝九尾‐槍型〟を振り抜く。
――金属の衝突音と共に巨大な大剣と金槍が交差した。
「……姿を消す力だろ、それ」
「……」
俺と鎧の兵士は鍔迫り合いをしたまま睨み合う。
「 その程度で受け切れるとでも? 」
……初めて鎧の兵士が口を開く。低い男の声であった。
「――っ」
――床に亀裂が走り、窓にひびが走った。
(――重ッ)
鎧の兵士が力を込めたのか僅かに押される。
――が、
「……押し切れない?」
俺も簡単には退かない。力を込めて、交差する大剣を押し返す。
「……っ」
「……っ」
俺達は微動だにしない。しかし、床や窓や天井が耐えきれず崩壊していく。
「……名を聞こうか、暗殺者よ」
「ハッ、てめェが先に名乗りやがれ」
男の問答に俺は挑発的に返す。
「いいだろう、俺は――バルド=ベルゼブブ」
……人型のベルゼブブ――つまりそれは?
「 序列は第七位だ 」
――〝超越者〟。
……ベルゼブブ小隊が誇る最強の七人の戦士。
「いいぜ、俺も名乗ってやるよ」
崩れ落ちる天井。
弾け飛ぶ窓。
「 伊墨甲平 」
破片が光りの雨のように降り注ぐ。
「姫を取り返しに来た……!」
……俺の足下には閃光弾が転がっていた。
「……っ」
――閃ッッッッッッッッッ……! 夜の宮殿が目映い光に包まれる。
一瞬の隙。
手離される金槍。
刹
――斬ッッッッッッッッッッ……!
那
……一瞬の内に持ち換えた〝鬼紅一文字〟による一閃がバルドに炸裂した。
(……浅いか?)
しかし、バルドは半歩退いていたのか直撃を避けていた。
(流石は〝超越者〟だ。ギャロンのように一撃とは行かねェな)
俺は血塗れの腕に握られた〝鬼紅一文字〟を鞘に納め、改めてバルドの様子を窺う。
――静
……バルドはただ静かに突っ立っているだけであった。
(……無反応、逆に不気味だな)
俺は〝九尾‐槍型〟を構え直して、警戒心を高める。
「……久し振りにいい一撃を食らった」
バルドは静かに血塗れになった自身の身体を見下ろし、静かに呟く。
「だが、今ので仕留めきれなかったのは良くなかったな」
バルドが大剣を構える。
「……っ」
……嫌な予感がした。
「さて、今度はこちらの番だが」
(――ヤバい)
「避けた方がいい」
バルドが大剣を虚空に振るう。
俺は咄嗟に身を屈ませる。
「 死ぬぞ 」
風 刃
――俺の真上に何かが通り抜けた。
(……何が起きた!)
一瞬の静寂。
凍りつく時間。
――宮殿が傾いた。
(――違う! これは宮殿が傾いたんじゃない!)
奴は魔力を斬撃に乗せて飛ばしたのだ。そして――……。
瓦 解
……宮殿が完全に倒壊した。
「……っ」
……たったの一振り。
……たったの一振りで広大な宮殿を一刀両断しやがった!
「いい! 実にいい!」
瓦礫の上でバルドが初めて大きな声を出した。
「貴様の刀、実にいいぞ!」
更地となった宮殿。
対峙する俺とバルド。
……月光に照らされたバルドの大剣が紅く煌めいた。




