第92話 『 鬼神が通る 』
「――消えたっ」
……城門の上を見上げていた守衛が声を漏らす。
「何処に行ったんだ! 逃げたのか!」
「 逃げねェよ 」
――トンッ……。俺は集まった兵士の真ん中に立っていた。
「 廻刀乱摩 」
「――えっ?」
――斬ッッッッッッッッッ……! 数メートル伸びた金矛が十数名の兵士の身体を真っ二つにした。
『――な
っ!?』
兵士らが血飛沫と共に崩れ落ちた。
「敵だァァァァァァッッッ……!」
「撃てェェェェェェェッッッ……!」
誰かが叫び、何処かから銃声が鳴り響く。
「……」
しかし、俺は意図も容易く弾丸を金矛で弾く。
「撃て! 撃て! 撃てェェェッ!」
「二班、三班支援しろ!」
無数の弾丸が俺に襲い掛かる。
「――当たるかよ」
俺は全ての弾丸を見切り、全ての弾丸を〝九尾‐槍型〟で弾いた。
「撃て! 撃て! 撃ち続けろ!」
次から次へと弾丸の雨が降り注ぐ。
地面や城壁に無数の弾痕が刻まれる。
しかし――……。
「……なっ、有り得ないっ」
「ばっ、化け物かっ」
―― 一発も当たらない。
「終わりか?」
「――ひぃっ」
俺は金矛の槍を構える。
「だったら、今度はこっちの番だ」
「逃げろォォォォォォォォォォォォォォォォォ
刃が空を切る。
同時に刃が何十倍にも伸びる。
――斬ッッッッッッッッッッッッ……! 無数の兵士の上半身が宙を舞った。
「――伸刀滅却、万里両断」
血飛沫が舞う。
辺り一面に屍が広がる。
「……」
雑兵は片づけた。次は前に進む他なかった。
が、相手だってこちらの好き勝手を許す程甘くはない。
「…………予想外に早いな」
俺は立ち止まり、夜空を見上げる。
〝何か〟がもの凄い勢いで落ちてくる。
――ドンッッッッッッッッッ……! 俺の前に巨大な体躯の何者かが落ちた。
「……随分と好き勝手に暴れてくれたようだな」
――蝿
……それは巨大な蝿、ベルゼブブの血族。
「あんたは?」
「ベルゼブブ小隊第十五位、ギャロン=ベルゼブブだ」
ギャロンは静かに名乗りを上げた。
「見張っていたのか? 随分と早い到着じゃねェか」
「偶々、王宮警備の任に就いていただけさ」
「……」
……行けるか?
コイツが単独行動なら、まだ他の奴等には気付かれていない可能性もある。
流石にベルゼブブ小隊全戦力で掛かられたら俺も堪ったものではない、ならば仲間を呼ぶ前にギャロンを殺した方が良いのでは?
「 俺を前に考え事とは余裕だな 」
「――」
――無数の触手が俺に襲い掛かる。
「 〝針〟 」
触手の先端はまるで刃のように鋭かった。
「油断なんかするかよ!」
俺は全ての触手を〝九尾‐槍型〟で弾いていく。
「 〝粘〟 」
――触手がネバネバした液状になり、金槍に絡み付く。
「――っ」
「悪いが俺の〝如意千手〟は変幻自在だ」
――引ッッッッッッ……! 触手に引っ張られ、俺は金槍諸とも宙へ吊り上げられる。
「 〝雷々招来〟 」
「――ッッッッッッ……!」
――触手から電撃が伝わり、俺に炸裂した。
「ほう、この電撃を堪えるか。だったら――……」
ギャロンが口を開いた。
炎 弾
――轟ッッッッッッッッッ……! 巨大な炎の固まりがギャロンの口から放たれる。
「――火遁」
俺も〝氣〟を練り上げ、一挙に解放する。
火 龍 弾
――轟ッッッッッッッッッ……! 俺も巨大な炎弾を吐き出し、ギャロンの炎弾を相殺する。
「やるな、だが俺の〝奇跡〟はまだあるぞ」
――ドッッッッッッッ……! 地面から巨大な岩の腕が飛び出し、〝俺〟に襲い掛かる。
「――」
「空中では避けられまい!」
――直撃。
……岩の拳骨が〝俺〟に叩き込まれた。
「どうだ!」
ガ ン
ッ
キ
……殴られた〝俺〟からまるで金属と岩がぶつかったような音がした。
「――なっ」
「はい、射程範囲内」
――トンッ……。俺はギャロンの背後にいた。
「何故、お前がここに!」
先程殴られた〝俺〟は未だに触手によって吊り上げられていた。
「 一刀必殺 」
俺は刃を抜く。
「 〝鉄化〟 」
ギャロンが腕を交差させ、肉体を硬化させる。
刹 那
――斬ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! ギャロンが一刀両断された。
「……馬鹿……な…………」
「〝鬼紅一文字〟は万物を切り裂く、鉄を斬るぐらい訳ないさ」
ギャロンは崩れ落ち、俺は赤い刀身を鞘に納める。
「……っ」
……俺の腕からは鮮血が流れていた。
(……〝鬼紅一文字〟の代償は安くねェな)
だが、まずは一人だ。
ベルゼブブ小隊の一人を倒したのだ
「返してもらうぜ」
俺は〝金槍を握った俺の姿〟に形を変えた〝九尾‐槍型〟を元の形に戻して回収した。
――ギャロンが岩の拳で殴ったのは、〝俺〟に化けた〝九尾‐槍型〟だったのだ。
〝九尾‐槍型〟は形状や質量・素材を自在に変えられるのだ、ならば俺の形に変えることぐらい訳なかった。
そう、俺は〝九尾‐槍型〟と入れ替わっていたのだ、炎弾と炎弾の衝突で奴の視界から消えた一瞬で……。
入れ替わりさえバレなければ後は、気配を消して奴に接近するだけ、〝鬼紅一文字〟で切り伏せて終了……こうして、俺はギャロンに勝利したのだ。
「……さてと、行くか」
俺は腕に血止め薬を塗り、包帯を巻き、王宮に向かうべく歩き出す。
「…………って、そう簡単には行かないか」
溜め息一つ溢れる。
俺は視線を上げる。
……そこには数え切れない程の兵士が集まっていた。
「そういえば、さっき増援を呼んでいたな」
俺は金槍を握り直す。
「まっ、いいか」
俺を囲い刃や銃口を向ける兵士と金槍一本で対峙する俺。
「取り敢えず、全滅させるか」
「撃てェ!」
銃声が鳴り響く。
俺は走り出す。
……長く、激しい夜は続く。




