第91話 『 劣勢上等四面楚歌 』
……それは一瞬の出来事であった。
一人の守衛が老婆を対応し、もう一人の守衛がその二人のやり取りを横から見ていた。
隙なんてほぼ無く、あっても一秒・二秒の世界であろう。
――十分だった。
まず、俺は影分身に変化の術を使い、老婆の影分身を門に向かわせた。
守衛は当然、老婆の対応をするであろう。
そこで一人の守衛の意識は老婆へ向くことも自然なことであった。
――更に、
……そこで老婆と守衛が揉めることがあれば?
( もう一人の守衛の意識も二人に向く )
ここまですれば後は簡単だ。
俺には修行で鍛えた高速移動と隠密能力がある。それさえ駆使すれば、二人の意識の隙間を掻い潜って門を通過することなど朝飯前であった。
(……さて、第一関門は突破したな)
俺は今度は青年男子に姿を変え、街中を闊歩する。
(真っ直ぐに姫の所に行きたい所だが、正確な場所がわからないんだよな)
姫が何かしらのアクションを起こしてくれれば、超聴力で位置を割り出せるのかもしれないが、姫とコンタクトが取れない以上、自力で捜し出す他なかった。
俺は駆け足で喧騒を掻き分け、中心部を目指す。
(姫は重要人物だ。ペルシャが言うには軍部か政府か、どちらかが姫を管理している筈だ)
無論、どちらも警備は厳重であろう。
(強襲である以上、一発で当てたいがどうする?)
軍部か?
政府か?
(どっちなんだ……!)
俺は走りながらも模索する。
「……」
走る。
「……」
考える。
「……………………もう、いいや」
……面倒臭くなった。
「元々考えるのは得意じゃねェんだ、だったら自分が得意なやり方でやりゃあいいじゃねェか」
俺が立ち止まり見据える先には巨大な王宮があった。
「――どっちも殺っちまえば良かったんだ」
そもそも先に手を出したのは向こうだ。
容赦なんてしてやる必要なんてなかった。
俺は路地裏から建物の屋根の上まで駆け上がり、改めて巨大な王宮を見据えた。
(……距離は二~三キロって所かな)
脚を屈伸させ、しっかりと膝や脚を伸ばしてやる。
(さてと、まずは政府をぶっ潰して、次は軍部か)
……たく、
「骨が折れるぜ」
――バキッッッッッッ……! 建物の屋根が弾け飛ぶ。
縮 地
「残り――……」
……俺の体は遥か向こうにあった建物の屋根の上にあった。
「 一キロ 」
そして、もう一度屋根を蹴った。
縮 地
――俺は大きな落下音と共に王宮の城門の上に着地した。
「……到着だ」
俺は城門から下を見下ろす。
「何だ! 誰か、門の上にいるぞ!」
「敵襲だ! 他の奴等も集めてこい!」
流石に守衛に気付かれ、沢山の兵士が集まってくる。
「まあ、見つかるよな」
〝縮地〟は速いが隠密性に欠けるからな。
「だが、もう関係ねェよ」
俺は懐から〝ある物〟を取り出す。
「お前らは俺をここまで通した次点でお仕舞いだ」
――鬼
……それは鬼を模した黒い面であった。
「 〝九尾‐槍型〟 」
俺の手には一本の金矛の槍が握られていた。
「悪いが、これより俺は修羅になる」
俺は鬼の面を被る。
「 だから 」
鬼面の修羅。
月光に煌めく金槍。
「 てめェらは命を諦めろ……! 」
……満月を背に俺は一国に宣戦布告した。




