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  第8話  『 ホモな執事は脱ぎたがりで脱がせたがり 』



 「 ぱんぱかぱーん! 第一回ペルセウス王宮巡り~~~!」



 ……ペルシャが天に拳を突き上げ、セシルさんがパチパチと控えめに拍手をした。

 ちなみに、二人の他には俺と姫がいて、この謎イベントは俺達二人の為に企画されたものであった。


 「王宮巡りってこの前やらなかったっけ?」

 「うん、そーだけど、今回は場所だけじゃなくてこの王宮で働いている人達をメインに紹介しようかなって」

 「なるほどな」


 確かにこれから一緒に働く人と面識を深めることは悪くなかった。

 それに俺の身形のせいではあるが、いまだに王宮で不審な目で見られる為、自己紹介という観点からでも今回の王宮巡りは賛成であった。


 「いいね、早速行こうぜ!」

 「そうですね」

 「それじゃあ出発進行♪」

 「まずは使用人の方へ挨拶に向かいましょうか」


 そんな訳で俺達四人は王宮巡りへ出発したのであった。



 「――という訳で、使用人の皆さんに集まってもらいました!」


 ペルシャは広間にタキシードやメイド服を身に付けた男女、総勢三十名を並べさせた。


 「右からロロコ=ペリチェ、ベン=ロビンソン、ピノ=フランチェスカ、カール=ジェノファ、リノ=シュナイダー、キャンディ=シロップ、パトリック=カートン、ジェン=バック、ゴルチェ=ゾーラ、メイリン=カーネーション、トーマス=ポーラ、サバト=トリス


 「 耳が滑る! 」


 一度に言われても頭に入る筈がなかった。


 「では、序列が上の者から説明いたします」


 有能淫乱メイドであるセシルさんが横から口を挟んだ。


 「その前にわたし達使用人には序列と分野毎による組分けが設けられております」


 いつの間にかセシルさんは巨大な木の板と、その板に貼り付けられた巨大な紙を準備していた。

 そして、巨大な紙には組織図のようなものが書かれていた。


 「ペルセウス王宮の使用人には序列があり、一番上に従事長、その下に執事長とメイド長、更にその下に一番隊から三番隊まであり、各隊には隊長の席が設けられております」


 セシルさんは組織図を下に説明してくれた。


 「従事長は現在席を空けておりますがオルフェウス従事長が務めており、その下にメイド長である私――セシル=アスモデウスと執事長であるファルス=レイヴンハートがおります」


 セシルさんの説明に合わせて、一人の長身の男が姿を見せた。


 「僕がただ今説明に与った、ファルス=レイヴンハートだよ」


 「……」


 ……凄いイケメンであった。


 女のようにきめ細やかでありながらもしっかりと男性とわかる端正な顔立ち、俺よりも頭一つ高い長身に無駄肉のないスラッとしたシルエット、話し方や表情にはどこか気品のようなものを漂わせていた。

 断言しよう、ファルス=レイヴンハートは俺の人生で一番のイケメンで今後もファルスを上回るイケメンとは会うことはないであろう。ファルスはそのくらいにイケメンであった。

 そう、ファルス=レイヴンハートはまごうことなきイケメンだ。


 イケメン、なのに。


 なのに!



 何で俺の尻を撫でているんだーーーーーーーーッ!!!



 「……一つ聞いていいか?」

 「構わないよ。僕には君の質問に答える義務があるからね」

 「……っ」


 依然としてファルスは俺の尻を撫で続ける。心なしかさっきより撫で方がねっとりとしている気がする。


 「何故、俺の尻を撫でている?」

 「ふふっ、君は素朴な質問をするね」

 「ァーーーーーーーッ!」


 ――グイッ、ファルスの指が俺の尻の穴を押し上げた。


 「知っているかい、この世には二種類の人間がいるのさ。それは男と女だ」

 「あっ、あっ、やめっ」


 グリグリとファルスの指は俺の尻の穴を浸食する。


 「しかし、それら二つに大きな違いはない。僕からすれば些細な違いに過ぎないのさ」

 「……らっ……らめぇ」


 ファルスの指使いは繊細かつ淫妖に動き回り、的確に俺の弱所を狙い打つ。


 「だから、僕は君を抱く」

 「ィクーーーーーーーーーッ!」



 「感じてんじゃねーーーーーッ!」



 ――ドガッッッッッ……! 姫の跳び蹴りによって俺は吹っ飛ばされた。


 「ぐぼァッ!」


 俺は堪らず床の上を転がった。


 「男同士だなんて不潔です! 見損ないましたよ、甲平!」


 姫が顔を真っ赤にしながら剣幕を撒き散らした。


 「大丈夫かい、伊墨くん」

 「あっ、ああ」


 憤る姫を無視して、床の上を横たわる俺にファルスが手を差し出した。



 ……ファルスは全裸であった。



 何で!


 何で!?


 「何で脱いでんだよーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」


 ……俺の渾身の叫びが広間にこだました。


 「君を抱き締める為に衣服という障害を省いただけさ」

 「お前恐いッ!」


 ファルス=レイヴンハート、ヤバすぎる男であった。

 何でこんな変態が執事長に抜擢されているのか、まるで理解が追い付かなかった。


 「 少々失礼いたします 」



 ――セシルさんがファルスの背後を通り抜けた。



 「はしゃぎ過ぎですよ、レイヴンハート執事長」


 ……その一瞬でファルスは再び服を着せられ、身体を縄で拘束されていた。


 (――出た、セシルさんの高速強制早着替え!)


 まさに目にも止まらぬ速さ。戦慄せずにはいられなかった。


 「申し訳御座いません、甲平様。レイヴンハート執事長は仕事は極めて優秀ですが性格と性癖に難がありまして」

 「……まあ、そのようですね」


 ……お蔭様で童貞を通り越して処女を奪われかけた。


 「邪魔をしないでくれないか、アスモデウスメイド長」


 ミシミシッ……。ファルスを拘束した筈の縄が悲鳴をあげた。


 「僕はただ伊墨くんに用があっただけなんだけど、ねっ!」



 ――パンッッッッッッッッッッッッ……! 縄とファルスのタキシードが弾け飛んだ。



 「また脱いだァッ!」


 隙あらば脱ぐ男――ファルス=レイヴンハート。


 「この程度の拘束じゃ僕の愛は止められないよ」


 そう言ってファルスは俺の前に立ち、肩に手を当てた。


 「この服は邪魔だね」

 「えっ?」



 ――ビリビリーッ! ファルスの豪腕によって俺の忍者装束がビリビリに引き裂かれた。



 「なっ、何やってんだーーーーーッ!」


 「脱衣」


 「知ってるよ!」


 俺が聞きたいのは誰の許しがあって、勝手に人の服を引き裂いたのかであった。


 「あのー、そろそろいい加減にしてもらえます」


 ……気づけば、セシルさんが果物ナイフをファルスの喉元に当てていた。


 「これ以上お嬢様にけがわらしい姿を見せるようでしたら容赦はしませんよ」

 「言うじゃないか、淫女のくせに」

 「淫女ですって(ビキビキッ」


 とんでもなく険悪な空気が二人の間に漂う。


 「あの二人昔から仲が悪いんだよね」

 「そうなのか、ペルシャ」


 睨み合う二人に向かってペルシャが溜め息をついた。


 「何だか長くなりそうだから二人を置いていって次に行こうか」

 「……意外にサバサバしてんなー」


 とはいえ、俺もこの場所にいるのは危険な気がした為、ペルシャの提案に従うことにした。



 ……そんな訳で、俺と姫とペルシャは喧嘩をする二人を放置して、バラ園に向かうことにした。


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