第81話 『 奇跡の代価 』
……クロエさんが死んだ。
……他にも沢山の人が死んだ。
(……何でこうも余裕がない時に限って嫌なことが続くんだよ)
――そして、姫がドラコ王国に拐われた。
「……何で姫が?」
姫とドラコ王国は何一つ関係がなかった。
ドラコ王国にとって欲しいのは、世界で唯一治癒能力を持つペルシャであった筈……待てよ。
「……わたしが……悪いの」
ペルシャが弱々しく呟いた。
「愛紀ちゃんはわたしと間違えられてドラコ王国に拐われたの?」
「……」
――影武者。
……それがこの世界での姫の立場であった。
確かにペルシャと姫は瓜二つだ。親しい者ならまだしも、初見の刺客からすれば間違えるのも無理はない。
「……ごめん……本当にごめんなさいっ」
ペルシャは涙を流しながらも謝りだす。
「ペルシャが気に病むことじゃねェよ」
俺は自分を責めるペルシャを宥める。
「姫は自分の意思でお前の影武者になることを選んだんだ。だから、お前が自分を責める必要はないんだ」
別に気休めの為に言っている訳でもなく、これは俺の本心であった。
「 違うの、わたしが悪いの 」
――しかし、ペルシャは自責をやめなかった。
「……愛紀ちゃんが拐われたのはわたしの……異能のせいなの」
「……どういう、ことだよ」
ペルシャの治癒の力と姫が拐われたのに、何の因果あるといのだろうか?
「〝奇跡〟が二つあるの、そうわたしは――〝神の子〟なの……!」
「……シントリ……チュアル?」
――〝神の子〟。
本来一つしか持たない〝奇跡〟を二つ持つ突然変異の存在。
確か、キャンディもその一人であったが、まさかペルシャもとは驚いた。
「一つ目の〝奇跡〟は〝神の癒手〟……傷や病を治せる力だよ」
それは俺も身体で確認した。酷い裂傷も一瞬で治してしまう力であった。
「二つ目の〝奇跡〟は〝神の寵愛〟……何があってもわたしに益を与える力――この二つ力をまとめて〝神々の加護〟と呼んでいたの」
――あらゆると病と怪我を治癒し、自身への災いを祓う力でございます
……セシルさんが説明していた能力は、二つの〝奇跡〟をまとめたものであった。
「……それで、その〝奇跡〟がどうして姫が拐われたことと関係あるんだよ」
俺にはペルシャの話の筋が見えていなかった。
「それは――……」
ペルシャは涙を拭い、言葉を紡ぐ。
「――〝奇跡〟の本質が関わっているの」
「……〝奇跡〟の本質?」
この世界に生きる人々が神に与えられし異能――〝奇跡〟。
(……その〝奇跡〟の本質が、姫誘拐の要点のようだな)
俺は危機逃さないよう、ペルシャの言葉に耳を傾ける。
「ねえ、甲平くん」
「何だよ」
ペルシャが逆に俺に訊ね返す。
「――奇跡はただで手に入ると思う?」
……そう訊ねるペルシャの口調はとても寂しげであった。




