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 第78話  『 犠牲 』



 「 全隊に告ぐ、時1608、敵撤退。残存部隊は速やかに状況を報告せよ。繰り返す――…… 」


 ……無線機からペルシャの声が淡々と発せられる。


 「……クソッ、逃げやがった」


 俺は悪態を吐いて、その場に座り込んだ。

 俺と戦っていたノエルも何処かへ行ってしまい、最後の方は何も出来ずに終戦を迎えることになってしまった。


 (……情けねェ、結局一人しか殺れなかった)


 俺が倒したのはマグネ一人、ノルマの数には足りていなかった。


 「……それにさっきの無線」


 ノエルの相手をしていて救援に行けなかったが、クロエさんは恐らく戦死している可能性があった。


 「こちらからの呼び掛けにも応じねェしよ……クソッ」


 クロエさんとは長い付き合いではないが、それでも何も感じないという程に俺は冷酷になりきれなかった。


 ――これは戦争だ。


 知人だから絶対に死なないなんて生温い場所ではないのだ。

 理解してここに立っていた――筈だった。


 「……簡単に……納得できる訳ねェだろ」


 ……理解はしていても納得は出来なかった。


 クロエさんとはもう二度と会えないし話せないのだ。

 確かにクロエさんとの絆は大したことはなかったのかもしれない。

 それでも俺はこれから仲良くなりたかったのだ。

 これから沢山の時間を共に過ごし、共に笑い、共に戦い、もっと仲良くなれた筈だった。


 ――それも叶わない。


 ……死ぬということはそういうことだからだ。

 クロエさんの未来もクロエさんとの思い出を作る機会も未来永劫に訪れない。



 「…………誰か……いるのか?」



 ――声が聴こえた。


 俺は声のする方向に視線を向ける……そこには瓦礫の山があった。


 「そこか?」


 俺は瓦礫を退かし、声の主を捜す。

 そして、瓦礫を退かして姿を見せたのは――……。


 「……大丈夫かよ、オッサン」


 ……腸を溢し、更には左脚を離断した壮年の兵士であった。


 「……ああ、まだ生きているよ」

 「生きてるってあんた……」


 左脚には止血帯を巻いているものの、腹部への処置はほとんど手が付けられていなかった。


 「すぐにペルシャの所に連れていってやるから、まだ死ぬんじゃねェぞっ」


 俺は満身創痍の兵士を背負い走り出した。

 なるべく揺らさないよう丁寧に、尚且つ迅速に戦場を駆け抜ける。


 「……ありがとう……少年」

 「喋んなっ、傷が開くぞっ」


 俺は戦場を駆け抜ける。


 (……出血が酷い、間に合うか?)


 背中を濡らす鮮血に焦燥感を駆り立てられる。


 「……すまない……頼みたいことがあるんだ」


 兵士は力無く呟く。


 「だから、喋んな! すぐにペルシャに治してもらっからっ!」


 俺は兵士を叱咤し、少しだけ速度を上げる。


 「――頼む」


 「――」


 兵士の静かでありながらも圧のある声に、俺は思わず息を呑んだ。


 「…………明日、娘のカノンの誕生日だから……だから、誕生日プレゼントを届けてやってくれ」


 「……」


 ……心臓の鼓動は最早、感じることが出来なかった。


 「……誕生日プレゼントは……グンバ地区のヘンリー街にある玩具屋に予約しているから」


 「わかった、絶対に届けるから」


 俺は即答する、然れど走る足は止めない。


 「……ありが……とう…………」

 「……ああ」


 作戦本部まで残り三キロ。


 「……」


 俺は足を止めた。


 「……馬鹿野郎」


 「……」


 俺の静かな罵倒に兵士は何も返さない。


 「……死んでんじゃねェよ、クソが」



 ……俺の背中で一つの命が散ってしまったのであった。


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