第71話 『 順風満帆、迫る影 』
『 こちら〝対特e〟、〝対特e〟。サクラダ地区東南部にてベルゼブブ小隊一名撃破 』
『 こちら〝対特b〟、サクラダ地区南西部にてベルゼブブ小隊一名撃破 』
……ほぼ同時に、ラビさんとファルスさんの声を無線が傍受した。
『〝対特〟、〝対特〟。〝対特a〟より速やかに損耗状態の報告をせよ、送れ』
私は無線機越しに皆の状態を確認する。
『〝対特a〟、異常無し』
『〝対特b〟、二十回程死亡』
『〝対特c〟、軽傷及び武器破損、これより一時補給に戻る』
『〝対特d〟、軽傷、継戦可能』
『〝対特e〟、軽傷、これより止血する』
『〝対特f〟、交戦中』
『〝対特g〟、怪我したけどまだまだやれるぜ』
次々と報告が挙がった。
「……これで六名、ですか」
二名の敵と戦っているロキさんを除き、ベルゼブブ小隊、六名撃破の戦果をあげていた。
「〝対特f〟、増援必要か、送れ」
『こちら〝対特f〟、増援の必要無し、通信終わり』
ロキさんは即答で増援を断った。
(……ロキさんの実力なら二対一でも大丈夫かな)
彼は〝王下十二臣〟の中でもかなりの曲者だ。例え二人相手でも戦果をあげてくれるであろう。
「……ふぅ」
私は安堵の息を溢した。
「いい感じかな」
ベルゼブブ小隊相手に六つの勝ち星をあげたのだ、それも一人の犠牲も出さずに。
(……相手は一個小隊で三国に匹敵するとされる怪物、そんな相手に完勝なんて上手く行き過ぎているね)
――順風満帆
……と言っても良さそうであった。
「……皆、ありがとう」
わたしは静かに感謝の気持ちを呟く。
勝ってくれたこと、
生き残ってくれたこと、
わたしは嬉しくて仕方がなかった。
(……わたしは安全圏で指揮を執るだけ)
それがわたしに出来ることで、最善の選択肢であった。
悔しく思うことも、情けなく思うこともあったし、今でも歯痒くて仕方がなかった。
「〝対特〟! 戦闘を継続し、敵を撃滅せよ!」
それでも私に出来ることは失う覚悟をすることであると理解していた。
『 了解ッ……! 』
そして、彼等は応えてくれる。
……これ以上に力強いことなどそうそう無いであろう。
「勝とうっ、皆で生き残ってっ」
私は静かに自身を鼓舞した。
順風満帆。
勝機は我にあり。
――しかし、これは戦争である。
常に最悪は隣にいる。
命が軽薄な世界。
……故に戦場。
『 〝00〟、〝00〟。こちら〝対特a〟、〝対特a〟 』
……セシルさんの声が無線機から響き渡る。
『 サクラダ地区上空よりベルゼブブ小隊と思われる増援有り 』
……そう、まだ戦争は終わってはいない。
『 戦闘を再開する 』
……何かが壊れる予感がした。




