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 第70話  『 糸しきかな、戦場 』



 ……戦場は落ち着く。


 私は戦場が好きではない。

 しかし、硝煙や血の臭いを嗅ぐと心が落ち着いた。

 人殺しが好きな訳ではない。

 死ぬのが恐くない訳ではない。


 ……ここが私の居場所だった。


 私が沢山殺せば皆が私を褒めてくれた。

 必要だと言ってくれた。


 だから、殺した。


 何千、何万人もの命を殺した。


 正義の為でも、誰かの為でもなく、自分自身の存在証明の為に殺した。



 ……しかし、いつからだろう。



 ――私は恐くなったのだ。



 殺されること?


 違う。


 殺すこと?


 違う。


 そう、私は恐くなったのだ――殺戮兵器になっていく自分自身に。


 私は殺すことに慣れていたのだ。

 顔を洗うように、食事をするように、呼吸をするように、人を殺すことにストレスを感じなくなっていたのだ。

 一度自覚をしてしまえば崩れるのは早かった。

 私は恐怖で眠れなくなり、食事も受け付けなくなっていた。

 戦場に立とうものなら過呼吸でまともに立つことも出来なかった。


 ……クロエ=マリオネットは壊れてしまった。


 しばらくして、私は軍を辞め、貴族の家で使用人兼護衛の任に就くになった。


 嘗て、キャンディ様が引き取った男である。


 メイドになって数年経ち、私の精神は落ち着きを取り戻していた。

 同時に戦場を求め始める自分もいた。

 自分自身驚いたものである、私はてっきり戦場が嫌いになっていたものだと思っていたからだ。

 ペルシャ様がキャンディ様を誘拐し、私もキャンディ様の後を追ってペルセウス王宮で使用人になった後、国王様より徴兵の命が下るも、私は嫌ではなかった。

 徴兵されたときには沢山の敵を殺したのに、辛くはなかった。寧ろ気持ちはとても落ち着いていた。


 ――そこで私は気づいたのだ。


 ……護る者が出来たことに。


 護る者の為に戦えば兵器にはならない。


 護る者の為に戦う人間は兵器なんかにならない。



 ――そう、兵士だ。



 ……護る者がいれば私は兵士になれるのだ。


 だから、私は戦えた。


 だから、私は人でいられた。


 だから――……。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……」


 ……私は瓦礫の山の上で横たわっていた。


 「……ほらね、正義は勝つんですよ」


 ブリッジが横たわる私を見下ろしていた。


 「……」


 笑うブリッジに私は沈黙で返した。


 「……言葉を返す力も残っていないようですね」


 ブリッジは溜め息を吐き、私の前に立つ。


 「弱肉強食、貴女は僕の血肉となってください」


 ブリッジが私の腕を掴み、持ち上げる。


 「嗚呼、これで貴女に殺された人々も報われるでしょう」


 ブリッジの巨大な口が開かれる。



 「 い   だ   まぁ

     た   き    す 」 



 「 その瞬間を待っていました 」



 ――パシッ……。私の空いた手に手榴弾が握られていた。



 「――なっ?」


 ブリッジが困惑する。しかし、私は奴が何かするよりも早く動き出していた。



 ――ズボッッッ……! 奴の開かれた口腔の中に手榴弾をぶち込んだ。



 「 4 」


 ピンッ……。奴の食道の中で手榴弾のピンが外れた。


 ――3


 「 〝伸張セット〟&〝収縮リバース〟 」


 私は後方へ糸を張り、ブリッジの手を振りほどき、離脱する。


 ――2


 「……手榴弾っ……僕の口の中にィッ!」


 ブリッジが焦る。しかし、間に合わない。


 「 爆ぜろ、クソ虫めがっ 」


 ――1


 「嫌だっ、誰か助けてよぉ、死にたく



        0





 ――ボンッッッッッ……! ブリッジの上半身が吹き飛んだ。





 「皮膚を硬くする能力なら体内は死角、私の予測は間違ってはいなかったようですね」


 ブリッジの黒い皮膚や複眼、細かな血肉が雨のように降り注ぐ。


 「予想的中です」


 ……全ては計画通りであった。


 ブリッジが最大火力で衝撃波を放つ直前に投げた照明弾……これこそが逆転劇の起点である。


 (……奴は見落としていたのだ、私の足下にマンホールがあったことに)


 そう、奴の衝撃波は私に直撃していなかった。

 衝撃波が放たれる直前に照明弾による閃光でブリッジの視界を封じ、その隙に地下水路へと身を潜め、衝撃波をやり過ごしたのだ。

 そして、衝撃波が収まるのを見計らい地上へ上がり、衝撃波に呑み込まれたかのように地面に横たわっていたのだ。


 ――同時。


 ……私は〝朧糸〟で繋いでいた手榴弾を地面に投げていた。これも布石である。

 ブリッジには〝悪喰王ベルゼイーター〟があり、私を捕食する為に接近するのは自然であった。

 そして、捕食の直前、私は〝朧糸〟を収縮し、手榴弾を手に引き寄せた。

 その手榴弾をブリッジの体内に突っ込み、爆風に巻き込まれないように離脱すれば作戦終了であった。


 「……………………疲れました、ね」


 私はブリッジの横に座り込み、一息入れる。


 「貴方はとても強かった」


 相性が悪かったとはいえ、かなり苦戦を強いられた。

 しかし、やはり年季が違う。


 「……ペルセウス王国に牙を剥くには早過ぎた。ただそれだけですよ」



 ペルセウス王国、サクラダ地区東部の戦い。


 戦闘時間、7分12秒。


 勝者――……。



 ――クロエ=マリオネット


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