第68話 『 集中、その先へ 』
――〝深心神威〟。
……それはあらゆる感覚を研ぎ澄まし、肉体に呼応させる〝奇跡〟である。
極限の知覚と極限の反応。今の私には敵を倒す為の全てを掌握することができた。
――しかし、この能力には欠点があった。
一つは発動時間。発動と同時に常人の何百倍もの情報を処理する為、脳に大きい負担が掛かっていた。
……一分。
それが〝深心神威〟の発動限界である。
もう一つは魔力の欠乏。この〝奇跡〟を十分に発動させるには、魔力を使い切る必要があった。
魔力を持つ人間は無意識の内に魔力の薄膜を張っている。しかし、魔力の薄膜は自身の身を守ると同時に皮膚感覚や聴覚・嗅覚の妨げになる欠点もあった。
だから、私は先の戦闘で魔力を存分に使い、魔力の薄膜すら張れないレベルに魔力を枯渇させたのだ。
しかし、魔力が無いということは魔力で剣を強化することも、〝魔装脈〟で防御することも、〝飛脚〟によって加速することもできないということ。
――つまり、今の私は火力・防御力・機動力において、格段に劣化していた。
「……問題ない」
……それを含めても今の私は先の私より格段に強い。
――ドッッッ……! 私は真正面からギルに向かって飛び出した。
「真正面からとは強気でござるな」
ギルが抜刀の構えで迎え撃つ。
「 〝朧月〟+〝鎌鼬〟 」
―― 一瞬の静寂。
「 〝三日月〟 」
「――」
見えない斬撃が私に襲い掛かる――否、私には見えている攻撃であった。
(――感じる。奴の腕の振り、空気の流れ)
私は最低限の動きでギルの抜刀を回避し、そのまま距離を詰める。
「まさか見えているのでござるか?」
「――」
「……無視でござるか?」
三 日 月 × 16
――放たれる神速の刃。
――私は止まらない。
十 六 夜
「――」
……しかし、当たらない。
……掠りもしない。
不可視の高速斬撃、しかし、私の五感は奴の剣を見切っていた。
「何故、当たらぬっ」
「……」
「答えるでござるっ、クリス=ロイス……!」
ギルが再び抜刀の構えをする。
「 〝三日月〟 」
そして、ギルが刃を開放した。
――ギャリッ……。その刃先が地面を掠めた。
「――っ」
……ギルは嘘を吐いた。
魔力の流れ。
息遣い。
地面を走る〝何か〟。
(――それらが教えてくれた)
〝何か〟が地面を走る。
私は正面の斬撃を無視して走り続ける。
――〝何か〟の音は地面から隣の瓦礫に移る。
「 そこか 」
――私は身を屈ませ、その頭上に刃が駆け抜けた。
「――っ! 馬鹿なっ、初見の能力を見破ったでござるかっ!」
そう、ギルの使った〝奇跡〟は〝朧月〟と〝鎌鼬〟ではなかったのだ。
(そう、奴の使った〝奇跡〟は――……)
――地面や壁に斬撃を走らせる〝奇跡〟だったのだ。
「 捉えたぞ 」
遂に私はギルの目の前まで迫っていた。
「ロイス流剣術、弐の型――……」
私はギルに刃を振り抜く。
「そのような刀で勝てると思うなでござるよ……!」
ギルは真正面から私の斬撃を自身の刃で受けた。
――奴の刀が私の剣に僅かに食い込んだ。
……奴の刃は鉄を切り裂く程に切れ味が高まっていたのだ。
「拙者の勝ちでござるっ!」
だ が 。
――私は静かに笑んだ。
私は刀を握ったまま、勢いよく腕を下に降ろした。
――バキッッッッッ……! テコの原理により強烈な力を受けた互いの刃がへし折れた。
「――っ!」
「――」
宙を舞う折れた二つの刃にギルは戸惑う。
私は刃を振るった勢いそのままに一回転して、刃折れの剣を振り抜く。
風 摩
――斬ッッッッッッッッッッッ……!
……ギルの頭が宙を舞う。
……二つの折れた刃が地面に落ちては小さく跳ねる。
「……勝ったぞ、第六位」
……私は刃折れの刃を鞘に納めた。
ペルセウス王国、サクラダ地区北西部の戦い。
戦闘時間、16分34秒。
勝者――……。
――クリス=ロイス




