第6話 『 祝福の巫女 』
「お疲れ様です、甲平」
……クリスとの勝負に勝利した俺はペルシャと姫の下へと戻った。
「甲平くんって凄く強いね! わたし、ビックリしちゃったよ!」
「そりゃどーも」
ペルシャが全力で褒めてくれるので少し気恥ずかしかった。
「甲平様、クリス様相手に見事な戦いっぷりでした♪」
セシルさんも俺を誉め殺しにくる。
「いやー、そんなことないってー」
俺は鼻を伸ばしながら、頭を掻いた。
――ブシュッ……! 俺の腕から血飛沫が噴き出した。
「どうしたの、甲平くんっ!」
能天気なペルシャも流石に驚いた。
「あー、これな。これは〝鬼紅一文字〟の副作用みたいなもんだよ」
俺は慣れた手付きで包帯を巻き始めた。
「〝鬼紅一文字〟は何でも斬れる代わりに使用者すら斬っちまうじゃじゃ馬でな。使うと大体こんな風に――って、汚れるぞ」
俺が説明していると、ペルシャは俺の傷口に手を当てた。
「ペルシャ、何を」
「大丈夫、動かないでね」
……そして、驚くべきことが起きた。
「……治っ……た?」
そう、〝鬼紅一文字〟の副作用によってできた傷が完全に塞がったのだ。
「はい、お仕舞い♪」
――治癒の力、か。
「……凄いな。俺の国にもそんな術を使える奴はいなかったぞ」
「はい、これがこの世界でお嬢様のみに許される〝奇跡〟――〝神々の加護〟。あらゆると病と怪我を治癒し、自身への災いを祓う力でございます」
感嘆する俺に、セシルさんが説明してくれた。
「この世界の人間には基本的に一人一つだけ、〝奇跡〟と呼ばれるものが与えられますが、治癒の力はこの広い世界でもお嬢様のみに与えられた完全固有能力なのです」
「そりゃあ、大層なものだ」
「故に」、とセシルさんは言葉を紡いだ。
「各国の王や大臣がお嬢様の力を狙っておられます。治癒の力があれば戦争においてこれ以上の強味はありませんので」
「つまり、俺にそいつ等の魔の手からペルシャを守ってほしいと?」
「話が早くて助かります♪」
「……」
……なるほど、話は大体わかった。
どうやらここでの仕事は思っていたよりも大変そうである。
とはいえ、俺も姫も他に行く宛がなく、やはりここにいる方が得策のような気がした。
「その任務任された! 忍、伊墨甲平の名に誓ってペルシャ=ペルセウスを御守りいたす!」
「やったーっ! 甲平くんと愛紀ちゃんが我が家に来てくれた!」
ペルシャが万歳をして、俺と姫を歓迎してくれた。
「あっ、さっき甲平くんが影武者になるよう賭けていたけど、愛紀ちゃんは友達だし、別に影武者なんてしなくていいからね!」
……流石はペルシャ、俺が言いたかったことを言ってくれる。
「だから、屋敷ではのんびりしててね!」
「そうだな、それがいい」
俺もペルシャに便乗して、賛同した。
「いえ、影武者を務めさせていただきます」
――そう言ったのは他の誰でもない姫自身であった。
「火賀家の姫として、怠惰に浸るつもりはありません」
……そうだ。姫はプライドが高く、尚且つ頑固であった。
「ペルシャさんが良ければ、この火賀愛紀姫に影武者の任を任せていただけないでしょうか」
頑固な姫は一度言ったら退くことはないだろう。
「……じゃあ、友達にはなってくれないの?」
ペルシャが姫に悲しそうな眼差しを向ける。
「……いえ、その、ペッ、ペルシャさんが良ければ、わっ、私と友達になっていただけないでしょうか?」
「うん! 大歓迎だよ!」
姫の言葉にペルシャが満面の笑顔で頷いた。
「おっ、話がまとまったみたいだな」
「うん!」
「ええ」
ペルシャが姫をぎゅーっと抱き締めていた……交ざりたい。
今日は本当に色々なことがあった。
城は燃えるし、井戸には落ちるし、知らない異国に飛ばされるし、びしょびしょになるし、クリスと決闘することになるし、と本当に密度の濃い一日であった。
……まあ、何にしても無事衣食住と職を確保することができたのであった。
――が、しかし。
……事件は真夜中の寝室で起きた。
白いベッド。
薄暗い静寂の中。
「……セッ、セシルさん」
「しぃーーー、です♡」
……俺は下着姿のセシルさんに押し倒されていた。