第67話 『 深心神威 』
――キィンッッッッッッ……。
……戦場に鍔競り合いの音が響き渡る。
「 〝嵐斬り〟 」
「 〝百連〟 」
互いが互いに連続斬りを繰りだし、技で技を打ち消し合う。
「これも互角かっ」
私は一度間合いを取り、攻撃を組み立て直す。
「 〝血継術〟 」
私と奴の間合いは十メートル。
「 〝朧月〟 」
――ギルが居合いの構えをした。
「 〝鎌鼬〟 」
「――」
ギルは虚空に抜刀する。
私は虚空に刃を立てる。
――キィンッッッッッッ……! ギルの見えない斬撃と私の立てた刃が交差した。
(――やはり、刃を見えなくする〝奇跡〟と刃を伸ばす〝奇跡〟か!)
――トンッ……。私は伸びた刃の上に着地した。
「ロイス流剣術、陸の型――……」
……それは稲妻の閃き。
……私の姿が消える。
「――っ」
雷 閃
――私は神速の斬撃をギルに打ち込み、ギルの背後に身を投げ出す。
(――これも凌ぐか)
……しかし、ギルも咄嗟に刃でガードしたのか、ダメージを負っていなかった。
「ロイス流剣術、漆の型――……」
ならば畳み掛けるまでだ!
私は空中に身を投げ出したまま虚空に刃を振るった。
「――っ」
嵐 摩
――斬ッッッッッッッッッ……! 〝風刃〟より数段魔力を乗せた斬撃がギルへ飛来する。
「――この威力っ」
ギルは飛ぶ斬撃を刃で受けるも、あまりの威力に僅かに後退する。
「だが、拙者も負けられぬ……!」
ギルは力業で飛ぶ斬撃を切り裂いた。
……舞い上がる粉塵。
……紫電の一閃。
「嵐来たれば――……」
雷 閃
――斬ッッッッッッ……。粉塵に紛れて身を隠していた私の斬撃がギルの肩を浅く切り裂いた。
「……雷光閃く」
「――っ」
……しかし、ギルも達人だ。身を捻り、直撃を避けていた。
(……これだけやって少し肩を切っただけか)
溜め息が出るくらいに手強かった。
「……中々やるでござるな、ロイス殿」
ギルは切られた肩を撫で、不敵に笑んだ。
「……」
その視線は私の剣に注がれる。私もその視線を追いかける。
……私の剣は既に刃こぼれだらけであった。
(……いつの間に?)
確かに何度も刃を斬り結んでいて、刃こぼれの一つや二つあってもおかしくはなかった。
しかし、あまりにも酷すぎた。
(……これが奴の〝奇跡〟だと言うのか?)
「 お主の考えている通りでござるよ 」
私の考えを読んでか、ギルが胸の内の疑問に答えた。
「拙者の〝刃喰〟は刃を斬り結ぶ度に他者の刃を崩壊させ、逆に此方の刃の切れ味を高める〝奇跡〟でござるよ」
……切れ味を奪い、吸収する力。それこそが奴の〝奇跡〟のようであった。
「果たして、その刃では拙者と互角に戦えないのではござらんか?」
「……」
ギルの言葉はもっともなものであった。
私とギルの剣技は互角であり、ギルにはまだ他の〝奇跡〟が残されている可能性もあった。
そんな中、奴の刃は最初よりも切れ味を増しており、私の刃は寂れた武器屋の粗品以下の程度である。
不利。圧倒的に不利であった。
「……敵の心配とは余裕だな、ギル=ベルゼブブ」
しかし、私は折れない。弱音なんて一言も出さない。
「確かに私の剣は既にボロボロだ」
わざわざ言ったりはしないが、元々魔力の少ない私の魔力は底を尽き掛けていた。
「だが、私の背中には傷つけてはならない人がいる、護らなければならない人がいる」
――ペルシャ=ペルセウス
……私の護るべき者。
……私にとって欠け代えのない存在。
「ならば戦わない理由は無いだろう?」
……それに魔力を消費をしていたのには訳があった。
(……魔力があると巧く使えなかったからな)
そう、私は未だに〝奇跡〟を使っていなかった。
(――沈め)
私は静かに瞼を閉じる。
……ここは深い深い海の中。
……精神と身体は深くて暗い闇の中へと沈んでいく。
(……もっとだ、もっと沈め)
落ちる。
墜ちる。
……深海の底へ。
深 心 神 威
――潜水しろ……!




