第66話 『 剣撃乱舞 』
……凄まじく強い。
――刃と刃がぶつかり合い、火花が散る。
……それがギル=ベルゼブブへの評価であった。
私がフェイクを加えながら攻めるも、容易くそれに対応してくる。
「ロイス流剣術、壱の型――……」
私は居合い斬りをギルへ繰り出す。
「――」
ギルは私の斬撃線を見切って、身を低くする。
蛇 払
――私は斬撃を回避したギルを追うように斬撃線を曲げる。
……それは獲物に食らい付く蛇のような軌道であった。
「――やるでござるな」
しかし、ギルの反応も速い。刃を立てて、私の斬撃を受け止め
「 〝柳流舞〟 」
たと見せ掛けて、受け流し、私の空いた懐へ斬り掛かる。
「――っ!」
私は地面強く蹴り、身体を横転させながら跳躍することによりギルの斬撃を回避する。
「ロイス流剣術、弐の型――……」
私は回転する勢いのままにギルに刃を振り下ろす。
風 摩
「 〝受太刀〟 」
ギルもそれに反応して、私の刃を自身の刃で迎え撃つ。
――キィンッッッッッッッッッ……! 私の刃とギルの刃が交差する。
「「 〝風刃〟ッッッ……! 」」
――轟ッッッッッッッッッッッッ……! 互いの刃に纏っていた魔力の刃が衝突して、弾け飛んだ。
「――チッ」
私は爆風に押し出され、後ろへ飛ばされる。
「これも互角でござるか」
ギルも爆風に押し出され、後ろへ後ずさる。
私は着地し、地面を削りながら速度を落として静止した。
「……」
……やはり強い。
剣術の腕もさることながら、読み合い、戦闘反射といった実戦能力もまったくの互角であった。
(だが、互いに〝奇跡〟を見せていない。それに奴等には〝血継術〟がある)
今の戦闘力からおよそ二倍、いや三倍は跳ね上がる可能性がある。
(……勝てるのか、私が?)
つい弱気な感情が脳裏を過る。
私はずっと剣術と魔力操作しかやってこなかった。
〝奇跡〟だって、セシルさんやクロエさんのような強力なものではなかった。
――私は凡人だ。
今では騎士団長を名乗っているが、それも前団長が近衛騎士団を辞め、繰り上がりで成り上がったに過ぎなかった。
寝る時間も食事の時間も趣味の時間も切り詰めて、毎日剣を振り続けて、やっとペルシャ様を守れるようになったのだ。
……その剣術もギルとは互角であった。
私には剣術しかないのに、
剣術でペルシャ様を守ってきたのに
「 考え事とは余裕でござるな 」
――トンッ……。ギルが私の目の前まで迫っており、既に抜刀の構えをしていた。
「――っ!」
「 〝抜脚〟 」
……私が反応に遅れるとは、凄まじい練度の抜き足である。
キィンッッッッッッ……! 私は辛うじて、奴の居合いを刃で受け止める。
が――……。
「 〝風刃〟 」
……ギルの刃から魔力の斬撃が放たれる。
……私の足が地面から離れる。
「 吹き飛ぶでござる 」
――私は堪らず吹っ飛ばされ、レンガの家に叩きつけられた。
「――ッ!」
レンガの家は衝撃に耐えきれず瓦解し、私は瓦礫の雨に呑み込まれる。
「……」
私は〝魔装脈〟を纏っていたお陰で大したダメージを負っていなかった。
(何をやっているんだ、私は!)
私は自分自身に叱咤した。
(ギルは私より格上なんだぞ! それなのに集中力を切らすとは何事だ!)
不覚。
まったくもって不覚であった。
(……集中しろ、クリス=ロイス)
「ロイス流剣術、参の型」
私は刃に魔力を纏わせた。
葬 刀 九 連
――私は計八つの〝風刃〟をギルへと放った。
「この程度で殺られる筈はないと思っていたでござるよ」
しかし、ギルの反応も速い。迫り来る魔力の刃を斬り落としていく。
「まだ足りぬ! まだ足りぬでござ
ギルが言葉を切った。
……時間差で最後の〝風刃〟が迫っていたからだ。
「小癪な」
ギルは最後の〝風刃〟を叩き落とそうと刃を構える。
「ロイス流剣術、肆の型――……」
――最後の〝風刃〟はギルの間合いの出前に落ち、礫と土煙を巻き上げた。
後 殺 刃
……その一瞬の隙に私はギルの背後に回り込み、刃を振るう。
「――っ」
ギルの反応も速い。私の振り抜いた刃を刃で受け止めた。
が
「仕返しだッッッ……!」
「――っ!」
風 刃
――轟ッッッッッッッッッ……! 零距離での〝風刃〟がギルに叩き込まれ、奴は先程の私のようにレンガの家に叩きつけられた。
「よしっ、これでおあいこだっ」
……私は馬鹿だった。
何を迷っていた?
何を弱気になっていた?
確かにギルは格上で強敵である。
だが、私が勝たねばペルシャ様に危険が及ぶのだ。
――クリスちゃん
……あの笑顔を護る為に私は今まで刃を研いてきたのではないのか?
「ならば、戦って勝つしかない」
色々考えたって戦いは避けられない。それならば今は目の前の戦いに集中する他なかった。
格上?
強敵?
「――上等だ♪」
私は刃先を瓦解したレンガの家に向けた。
「立て、ギル=ベルゼブブ! 貴様はこの程度ではくたばらない筈だ!」
「……」
私の挑発にギルは無言で瓦礫の山から立ち上がる。
「全力で来い! そして、私の全力の剣を以て貴様の全力の剣を斬り伏せてやる……!」
「……」
ギルは言い返さない。しかし、プレッシャーだけが鋭さを増す。
「 〝奇跡〟 」
刃 喰
解き放たれる力。
始まる真剣勝負。
……騎士と侍の戦いに決着の時が迫る。




