第65話 『 格の違い 』
――サクラダ地区、中央エリア
「ベルゼブブ小隊第九位、ソフィー=ベルゼブブ、参る」
……ソフィーと名乗る巨大な蝿が飛翔する。
「ならば、こちらも名乗らせて戴きます」
私は深々と頭を垂れる。
「ペルセウス王宮、メイド長――セシル=アスモデウスで御座います」
面を上げた私はソフィーさんに微笑み掛けた。
「……メイド? 場違いにも程があるのでは?」
「そちらこそ、淑女が滞在されるのに不適な場所では御座いませんか?」
互いに殺意は剥き出しにせず、冷静に間合いを測っていた。
「……すまない、あたしが間違っていた。戦場にメイドも女も無かったよ」
「……」
……ソフィーさんの姿が消えた。
「戦場に立った瞬間、皆が平等に戦士になるのだからな」
――私の背後に回り込んだソフィーさんが、私に鋭利な爪を振り下ろす。
「 届きませんよ、それ 」
「――」
……しかし、その爪は後数センチという所で静止した。
「……進めない?」
ソフィーさんは鋭い爪を何度も何度も切り付ける……それでも私に届かなかった。
「ならば、これならっ!」
彼女は後ろへ飛びながら、手足を銃や大砲に変化させ、私に連射する。
「 〝百銃の輪舞曲〟 」
……地面や建物を粉々に破壊する程の火器の嵐が私に襲い掛かる。
「まだまだァ……!」
巨 神 の 大 槌
――重ッッッッッッッッッッッッ……! 地面を陥没させる程の重力が私を押し潰す。
「 ♪ 」
……しかし、私には欠片も届いていなかった。
「……何故、だ」
「これが貴女と私の格の違いです」
私は人差し指を立て、彼女に見せた。
「そして、この指先にあるものが一〇〇㌧の空気です」
「……?」
私の言葉にソフィーさんは戸惑う。
「少々遠いですね、私の前まで来て戴いてもよろしいでしょうか」
「……だから、何を言――っ!?」
彼女は絶句した。
「これで私の声がちゃんと聞こえますよね?」
……何故なら、彼女の意思とは裏腹に、躯は私のすぐ手前に移動していたからだ。
「……一体、どんな力を?」
ソフィーさんは激しく動揺する。無理もない、全力の攻撃を軽くあしらわれただけでなく、自分の意思と無関係に移動させられていたのだ、動揺や困惑は当然のことであろう。
「見えませんか? 私の指先にある一〇〇㌧の空気が♪」
無論、ただの空気なので見える筈もなかった。
「それでは質問です。私がもし、圧縮された空気を解放したら貴女はどうなるのでしょうか?」
「――っ!」
彼女は顔色を変えて逃げ出そうとする、が。
――逃げられない。
……彼女と私の距離は変わらない。近付くことも、遠ざかることもできない。
「それでは解答の時間です♪」
「――やっ、やめっ」
「 不正解者のソフィーさんには安らかな死を♡ 」
「お願いします許してくださいっ! 許し
……そして、周囲一帯は更地となった。
――〝七凶の血族〟同士においても格の差が存在する。
「……まずは一人目、ですかね」
それは戦闘力の合計値の差であり、組織としての強さである。
無論、個人単位の戦闘力にはバラつきがあり、最強であるルシファー家の者と最弱であるベルフェゴール家の者が一対一で戦った場合、必ずしもルシファー家の者が勝つ訳ではない。
それでも、〝七凶の血族〟内には格の差というものをがあり、そこには大きな力の差があった。
……ベルゼブブ家の順位は血族内において第五位。
アスモデウス家の順位は――……。
――第三位
……そこには数字として刻まれた力の差が確かに存在していた。
「……さて、次は何方を狩りましょうか?」
更地となった中央エリア。
一〇〇㌧の空気に押し潰され、絶命したソフィアさん。
……私は南の方角を見つめた。
ペルセウス王国、サクラダ地区中央エリアの戦い。
戦闘時間、1分38秒。
勝者――……。
――セシル=アスモデウス




