第64話 『 九尾・槍型 』
……俺の生まれた里には化け狐が時々姿を見せた。
それは俺が生まれるよりもずっと前から最近まであった話で、村ではずっと問題になっていた。
その妖狐は信じられないぐらいに巨大な体躯を持ち、何より凶暴だった。
……俺には忍の師匠がいた。
師匠はスパルタで腹黒で酒・女好きなろくでなしであった。
そんな師匠の下で三年間修行し、遂に卒業試験の日が訪れた。
――妖狐を討ち取れ。
……それが卒業試験の内容であった。今思い出しても腹立たしい限りである。
俺は化かしたり化かされたりと三日三晩戦い、何とかして妖狐を討伐することができたのであった……あのときは死ぬかと思った。
その妖狐の骨を溶かして鉄と混ぜ合わせて叩き上げた槍こそが――この〝九尾・槍型〟であった。
……………………。
…………。
……。
「……」
「……」
……俺は金矛の槍を構え、マグネと対峙した。
「……何度やろうが、我に金属は効かぬ」
「やってみなきゃわかんねェこともあるんだ、ぜっ!」
俺は〝九尾・槍型〟をその場で突き出した。
――伸ッッッッッッ……! 金矛の槍は凄まじい速度で伸長し、マグネに襲い掛かる。
……変幻自在。これこそが〝九尾・槍型〟の能力である。
「奇っ怪な武器だ――だが、当たらぬ」
磁 界
マグネが〝奇跡〟を発動した。
「 曲がらねェよ 」
「――っ!」
……槍の軌道は曲がらず、マグネに打ち込まれた。
が
「かってェなっ」
マグネの皮膚は鋼のように硬く、槍は容易く弾かれた。
「……どうやら我の〝磁界〟が効かないようだが、如何せん火力が足りぬな」
「いや、十分だよ。ヘンテコな力さえ攻略できればな」
変 化
――弾かれた槍が鎖の形になり、円軌道を描き、マグネの身体を拘束した。
「俺の〝九尾・槍型〟は形状・性質・質量を変化することができる」
鎖はまるで吸い付くようにマグネの体躯を締め付けていた。
「だから、また鉄に戻した。お前は自分のヘンテコな力によって拘束されるんだ」
「……」
俺の言葉にマグネは沈黙した。
(……さて、どう出る?)
俺も無言で奴の動向を窺う。
「……戦争を舐めているのか? 小僧」
……マグネが静かに激怒した。
声は静かであるが、その言葉の節々から怒りの感情が覗き見えた。
「わざわざご丁寧に能力を開示するとは、少し驕りが過ぎるぞ」
「……」
マグネの威圧感が高まる。
「……鉄に戻しただと、ならば〝磁界〟を解除すればいいだけの話だ」
マグネが能力を解除したのか、弛んだ鎖が地面に落ちた。
「 それを待ってた 」
――トンッ……。マグネの背後に俺がいた。
「〝九尾・槍型〟の性能を開示したのは、お前のヘンテコな力を解除させる為の罠だったんだ」
「――っ」
……俺の手には〝鬼紅一文字〟が握られていた。
「思い通りに罠に嵌まってくれでありがとう――お陰でやっと〝鬼紅一文字〟が使える」
「……小僧、がっ」
〝九尾・槍型〟を突きだした影分身が消滅する。
刹 那
――斬ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! マグネが斜め一線一刀両断された。
「……ぐっ……がっ」
「まずは一人目だな」
崩れ落ちるマグネ。
深紅の刃が鞘に収まる。
ペルセウス王国、サクラダ地区南西部の戦い。
戦闘時間、3分25秒。
勝者――……。
――伊墨甲平




