第58話 『 〝王下十二臣〟 』
――タンッッッ……。
「……始まったか」
……集結地にて待機する俺は、何処からか聴こえてくる銃声で開戦を知る。
「…………で、本当に俺達は行かなくてもいいんですか?」
俺と同様に待機するセシルさんに質問する。
「私達の主任務はベルゼブブ小隊が出動したときの対処です。それまでは体力を温存していてください」
そう答えるセシルさんの隣にはクリスとロキがいて、無線を傍受していた。
「それ便利そうで良いですね」
「……無線機ですか?」
「俺の国にはそんな長距離で会話する手段がありませんでしたので」
確かにこの無線機とやらがあれば、情報伝達が飛躍的に迅速に行えた。
「この無線機の中には〝共鳴石〟と呼ばれる特殊な鉱石がありまして、この〝共鳴石〟は与えられた振動を半径二十キロ圏内にある別の〝共鳴石〟に振動を共鳴させることができるんですよ」
「へえー」
……そもそも振動と音が関係していること自体知らなかった。
「……そう言えば、クロエさんとラビとファルスは別行動なんですか?」
「クロエさんとラビさんは戦場慣れしていますし、執事長は一〇〇パーセント死にませんので既に参戦されています」
「……」
……不死身のファルスは心配ないが、クロエさんとラビは強いが不死身ではない、身の安否に不安があった。
「心配は要りませんよ、甲くん」
そんな俺の気を察してか、セシルさんがにこやかに笑った。
「あの二人も〝王下十二臣〟の一人です、そう簡単には死にませんよ」
――〝王下十二臣〟
……ペルセウス王国を守護する十二人の精鋭の名であった。
ちなみに、俺が入るまでは〝王下十一臣〟だったらしい。
「特にクロエさんは、昔〝軍神〟と呼ばれていたくらい凄い人なんですよ」
……ラビもそんなことを言っていたな。
「私達〝王下十二臣〟には各々に得意分野があり、クロエさんは私達の中で最も多人数との戦闘に特化しております」
「……確かに」
少し前に見せてもらったクロエさんの〝奇跡〟――〝蜘蛛の糸〟は多対一向きの能力であった。
「……そうですね、俺も落ち着いて構えときます」
「はい、甲くんにはベルゼブブ小隊との戦闘に期待しております♡」
「任せてください」
クロエさんとラビが身の危険を覚悟して戦っているのだ。まだ、待機中の俺が弱音を吐く訳にはいかなかった。
「私の見立てでは後三十分もすればベルゼブブ小隊が参戦するもの思われます」
――出動まで三十分。その数字に俺は胆を冷やした。
「早いですね、その見立ての根拠を教えてもらってもいいですか」
「ドラコ王国は基本的にある程度不利な状態になってからでないと、ベルゼブブ小隊を出動させませんので」
「……後三十分でドラコ王国を追い込むんですか?」
……誠に信じがたい話であった。
「それを可能とするのが〝軍神〟――クロエ=マリオネットの力です」
セシルさんが誇らしげに笑んだ。
「……にしてもセシルさんは凄いですね、色々と考えていて」
俺達使用人を纏めながら、軍事にも理解があるなんて、そうそう出来ることではなかった。
「いえ、私は所詮ただのメイドです。軍事に関しては我が主から聞き齧ったことを甲くんに説明しているだけですよ」
「……我が主って、まさか」
「そのまさかです♡」
『 〝対特〟(〝対特級戦力分隊〟)、〝対特〟! こちら〝00〟、前方の状況を報告せよ! 送れ! 』
――無線機から声が聴こえた。
「〝00〟、こちら〝対特〟。前方約300、砲弾落下。送れ」
『こちら〝00〟、前方約300、砲弾落下、了解、終わり』
クリスが無線機で応答した。
「……今の声って」
「はい、甲くんの想像通りです」
俺は普段とのあまりのギャップに度胆を抜かされる。
「ただ今、無線機で話された方こそ王国の第一王女にして、この王国最大の頭脳――……」
そいつとは今まで一緒に馬鹿やったりした。
普段は頭の良い素振りなんて微塵も感じられなかった。
……だが、それはあいつの一部分に過ぎなかった。
「 ペルセウス王国代理国王にして、最高軍事指揮官――ペルシャ=ペルセウス大将なのです 」
……そう、ペルシャもこの戦場に立っていたのだ。




