第54話 『 友情は汗と涙で塩の味 』
……場はペルセウス家御用達の女湯の更衣室。
一糸纏わぬ姿で立ち尽くすペルシャとセフィリア。
いつもの忍者装束を着て立ち尽くす俺。
……命を懸けた戦いが今、幕を開けた!
「何でノックもせずに勝手にドアを開けているのかな?」
ペルシャが胸元と股を隠しながら問い質す。
「……それは」
――瞬間! 俺の脳内に有り得ない量の血液と酸素が駆け巡る!
ここから先は失言は許されない!
生か死か!
怒濤の二者択一!
そして、開かれる運命の扉!
「はあっ! そもそも何で鍵を掛けてないんだよ! 俺じゃなくて強盗だったらどうするんだよ!」
逆ギレ!
ただの逆ギレ!
「そもそも体重計乗っただけで悲鳴あげるなんて大袈裟過ぎるんだよ! ご近所迷惑ぐらい考えやがれ!」
――ペルセウス王宮
……庭を含めて、約四キロ平方メートルの土地がある。
無論、ご近所様など存在しない!
だが、今はそれでいい!
今、必要なものは勢い!
理でなく力と速度!
「まったく付き合ってらんねェ! うんざりだ! 裸を見ただけで悪いなんてこんな世の中! うんざりだ!」
「……ごめんなさい」
「口を開けばセクハラ! 何か言えばセクハラ! こんな社会でいいのかよ! いや、駄目だろ! そんなんじゃ、全然駄目だろ!」
「……ごめんなさい」
「そもそも……………………って、あれ?」
「ごめんなさいっ……!」
……ペルシャが謝っていた。そして、号泣していた。
「甲平くんはわたしの身を案じて助けに来てくれたのに、責めるようなことを言ってごめんなさいっ……!」
「……あっ、うん」
ど う し よ う !
(泣いちゃったよ! まさか、泣くなんて思わなかったよ!)
内心、焦る俺!
泣きながら謝るペルシャ!
「 ペルちゃんを泣かせたな 」
……俺の肩に手を置く――セフィリア!
「いや、違っ! これ違っ!」
――ポンッ……。反対の肩にも手を置かれた。
「 伊墨、死ぬ覚悟はできているな? 」
……虚ろな瞳で見つめるクリスもいた。
「……」
……うん、そっか。
「結局、バッドエンドじゃねェか」
ドカッ!
バキッッッ!
ドッカーーーンッ!
穏やかな日射し差し込む春の午後。
今日も平和なペルセウス王宮。
……俺はセフィリアとクリスにボコられた。
……………………。
…………。
……。
――夕方。
……医務室のベッドで俺は目を覚ました。
「……あいつらやり過ぎだろ」
まさか意識が飛ぶまで殴られるとは……レズは恐い。
「あっ、起きたの? 甲平くん」
部屋に一人かと思ったが、ペルシャが看病してくれたようであった。
「怪我は大丈夫そう?」
「うーん、まだちょっと痛いか
「じゃあ、座薬でもしようかな!」
「もう治ったわ」
「えー、準備していたのにー」
……座薬は恥ずいので。
「ごめんね、もっと早く二人を止めれたら良かったんだけどね」
「いや、いいよ。俺も言い過ぎたし」
別にペルシャに殴られた訳ではないので責める気にはなれなかった。
「……そう言えば、何で昼間っから風呂に入ってたんだ?」
「あー、それはねー……」
ペルシャの話ではこうである。
ペルシャが手を滑らせて紅茶を溢してしまい、ドレスを汚してしまったのだ。
着替えるついでにお風呂に入ろうとペルシャが提案し、セフィリアと一緒に風呂に入ろうとしていた……ところで俺が乱入したという訳であった。
「……ふーん、でも悲鳴をあげる程太ったようには見えないんだが」
「~~~~~っ!」
俺の発言にペルシャが顔を真っ赤にして腹を隠した。
「……甲平くん、よくデリカシーが無いとか言われないかな?」
「言われるけど何か?」
「吹っ切れ過ぎっ!」
姫にはよくデリカシーが無いと言われていたから、何となく理解はしていた。
「ぐへへー、お主さては最近、お腹回りが気になるようだなー」
「デリカシー無さ過ぎにも程があるよ!」
調子に乗る俺に流石のペルシャも眉根を吊り上げる。
「そもそも全然太ってないもん!」
そう言ってペルシャは服を半分だけ捲って腹回りを見せつける。
「どう! そんなにお腹出てないでしょっ!(ぷるぷる」
「……」
「……(ぷるぷる」
「……」
……滅茶苦茶腹筋に力入れてた。
「えい」
「ひゃんっ!」
……俺が横腹をつつくとペルシャは簡単に崩れ落ちた。
「酷いよー、甲平くん」
「がっはっはっ! 俺様を欺こうとしても無駄なのだよ!」
ペルシャは恥ずかしそうに丸くなり、俺はがははと笑った。
「楽しそうだな、伊墨」
「楽しそうだね、忍者くん」
……そんな俺の背後にクリスとセフィリアがいた。
「ひいぃぃぃぃぃっ……!」
俺は咄嗟に二人から距離を取った。
「そっ、そんなに引かなくてもよいではないか」
「流石のぼくも傷つくかな」
「……あれ?」
意外なリアクションに逆に俺が面食らう。
「二人は甲平くんに謝りに来たんだよ」
「まっ、まあな。私も少しやり過ぎたと思うし」
「まさか、気絶するなんて思っていなかったよ」
……そっ、そういうことかー。またボコられるかと思った。
「すまぬ、今回ばかりは頭に血が上ってやり過ぎた」
「ぼくもごめんね、差し出がましいかもしれないけど、仲直りしてくれないかな」
クリスは頭を下げ、セフィリアは軽く会釈をして、握手を求めてきた。
「二人共――……」
――ぽつっ……。
「俺の方こそ悪かった! 俺もずっと、ずっと謝りたかったんだ!」
俺は大粒の涙を流した。
「意地を張ってごめん! 素直になれなくてごめん!」
「……伊墨」
体育会系のクリスが釣られて涙ぐむ。
「俺も二人と友達になりたいっ! なってもいいかなっ! 友達になってもいいかなっ……!」
「ああっ! いいに決まっているだろうっ!」
――ガシッッッ……! クリスが俺の手を握っイタタタタタタタタタタタタタッ! 握力強すぎんだろ、メスゴリラ。
「ありがとう、クリス! 本当にお前達は最高だ!」
「伊墨ィーーーーーっ!」
「……あの、ペルちゃん、これ」
謎の体育会系空間に戸惑うセフィリア。
「……ぐすっ、良かったね。甲平くん、クリスちゃん」
俺達の姿に涙ぐむペルシャ。
「えぇー……」
そんなペルシャを見て更に戸惑うセフィリア。
「……何この疎外感、泣きそうなんだけど」
セフィリアが疎外感のあまりに涙ぐむ。
「皆さん、お夕食の準備が出来ましたよー……って、何故か泣いてるっ!?」
……医務室に顔を出したセシルさんが、涙を流す俺達の姿を見て驚愕の声を漏らした。




