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 第49話  『 コード.13 』



 ――タンッッッ……。


 ……荒れ果てた街並みに渇いた銃声が響き渡る。



 ――南テルー王国、ザルバ街。



 春。


 天気は雨。


 魔法国家、南テルー王国。


 軍事国家、ドラコ王国。



 ――開戦。



 「三分隊撃て! 二分隊は前へ!」


 「T.fireは〝火炎弾〟を十二時の方向へ三十秒間射出!」


 「通信班! こちら第三中隊、三小隊! 第一斥候班信号途絶! 通信班は第二斥候班との中継頼む! 送れ!」


 「T.fireに負傷者二名! 負傷者は後方へ退がりT.careの治療を受けよ!」


 充満する血と火薬の臭い。


 銃声が耳鳴りのように残響する。


 至る所から聴こえてくる断末魔が戦争の悲惨さを物語る。


 「……糞っ、ここもヤバイな」


 ……俺はビリー=ギャロン、ドラコ王国の軍人だ。

 階級は二等兵、所属は第二大隊第三中隊第一小銃小隊第一小銃分隊だ。

 現在、南テルー王国ザルバ街を占領すべく東側より前進・攻撃をしている状況である。

 はっきり言って現状はあまり芳しくはなかった。

 魔術兵と火器兵とでは火力に明確な差があった。

 何もおかしな話ではない。火器や燃料に限りはあるが、魔力にはその限りはない。

 必要な場所に必要な時に必要な火力を発揮できるのが魔術の強味であった。

 一方で火器兵には数の有利があった。限られた人間にしか使いこなせない魔術と違い、火器兵は人と武器があれば戦うことができるのだ。


 ――そう、魔術は誰にでも使える訳ではなかった。


 魔術とは、魔導具と魔力操作が合って初めて使える高等技術であった。

 そもそも魔導具の数はどこの国でも不足している……それは魔導具の製作方法上仕方がないと言えた。


 (だが、南テルー王国には沢山ある……国が魔導具の生産に加担しているのは間違いないな)


 ……まったく、吐き気がする。


 しかし、こと戦争において魔術の火力は盤上をひっくり返す力になり得た。

 圧倒的な火力の前にこちらが勝っているのは、火器と兵士の数だけであった。


 (……数が多いってのは良い様に聞こえるが、悪く言えば使い捨てできるってことだ)


 俺のような下級兵は敵の戦力を削る為の捨て駒である。


 (軍隊なんて辞めちまうか……いや、無理だよなぁ)


 スラム育ちの俺には他に就く職が無い。軍を辞めれば路頭をさ迷うことになる。


 (もう、あの時には戻りたくねェ……だから、今日も俺は戦場ここにいる)


 だから、今日も俺は引き金を引く。 


 敵を殺す。


 殺す。



 ――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺の真横に業火が走り抜けた。



 「――っぶな!」


 俺は冷や汗を垂らす。

 後、ほんの少し待機位置が違っていれば俺は消し炭になっていたのだから。


 「大丈夫か、ビリー」

 「あっ、ああ。お前も無事か」


 同じ班のブルックが俺の安否を気にしてくれた。


 「――っ、お前っ!」


 俺はブルックの姿を見て、絶句する。


 「……悪ィ、ちっとしくじったわ」


 ……ブルックの右脚の膝から下が消し飛んでいた。


 「悪ィ、じゃねェよ馬鹿っ」


 俺はすぐにブルックの救急品袋から止血帯を取り出し、ブルックの右大腿部に巻き付けた。


 「ィッ! あんまキツく結ぶんじゃねェよ!」

 「馬鹿野郎! そうでもしねェと止まんねェだろうが!」


 俺は痛みに顔をしかめるブルックを無視して強く緊縛止血する。

 血は止まるも、掌を濡らす鮮血が酷く気持ち悪かった。


 「お前は下がってろ、後は俺らがやるから」

 「……悪ィな……少し休むぜ」


 ブルックは後方の建物の陰で身を潜める。


 「分隊長っ、ブルック=ダディ二等兵、右下腿部離断、止血帯による緊縛止血を実施、ビリー=ギャロン二等兵直ちに本隊に合流しま



 ――ドンッッッッッッッッッッッッ……!!!



 ……俺の後方で巨大な火球が墜ち、周囲を吹き飛ばした。


 「ブルックッッッ……!」


 しかし、返事は返ってこない。


 「……っ」


 俺はブルックのいた場所へと駆け寄る。

 粉塵が邪魔でよく見えなかった。


 「ブルック! ブルック……!」


 それでも粉塵はやがて晴れ、視界は開ける。


 「……………………ブルック」


 ……そこには五体バラバラに弾け飛んだブルックの亡骸があった。


 手も足も顔も無造作に地面に転がる。


 千切れた腸や脳の欠片が吐き気を誘発する。


 抉れた眼球が俺の姿を映した。


 「……………………死にたく……ねェよ」


 俺は静かに口から本音を溢した。


 「……クソッ、ドッグタグもメチャクチャじゃねェか」


 本人の身分を証明する金属のプレートは、首ごと熱で熔解していた。


 「……あっ」


 代わりに鉄帽の中から少し焦げた写真が出てきた……一人の女とブルックのツーショット写真であった。


 「……そっか、お前、彼女いたんだっけな」


 俺はブルックの鉄帽から写真を取り、胸ポケットに入れる。


 「この戦いが終わったら彼女に届けてやるよ」


 俺はブルックの余った銃弾の込められた弾倉をポーチに入れ、再び前進する。



 そ ん な と き だ 。



 『 〝コード.13〟発令! 〝コード.13〟発令! 』



 ……無線から通信手の声が聴こえた。


 『時一七〇七より〝コード.13〟発動! 全隊は速やかに攻撃開始線まで後退せよ! 繰り返す――……』



 ――〝コード.13〟



 ……それは戦場に死神を呼ぶ合図であった。


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