第3話 『 女騎士の顔に雑巾を投げたのは俺です 』
「続いて庭園となります♡」
……トールさんとメイリンさんと別れた俺と姫は、セシルさんに庭園へと案内された。
「ほう、中々綺麗ですね」
「確かにこれは素晴らしいです」
青々しく綺麗に刈り揃えられた芝に、綺麗に研かれた石で造られた噴水、そして、赤と白の艶やかな薔薇園……南蛮の文化には詳しくはないが、とても美しい景色であった。
「当庭園は一流の庭師によって、常にこのような状態を維持されております」
「えへん!」
……何故かペルシャがドヤっていた。
と、綺麗な庭園に感心しているのも束の間――……。
「 貴様、屋敷で噂になっている侵入者だな……! 」
――何者かに声を掛けられた。
「……おっ、お前は!」
……俺は、目の前の女騎士の顔を見て驚愕した。
「顔見知りですか、甲平?」
そう、俺とコイツには深い因縁があった。
「話は長くなるが聞いてくれ」
――三年前。それはある晴れた昼下がり……(ほわんほわんほわーん)
「てめェなんぞ知るか、ボケーーーッ!」
「回想に入るかと思ったら雑巾投げたーーーッ!」
直撃。俺の投げた雑巾は女騎士の顔面に直撃した。
チンポンカーン♪
――今日のうんちく。
雑巾の異臭の原因はモラクセラ菌という菌のせいなんだよ。
「……貴様の国では変わった挨拶があるようだな(ゴゴゴゴゴッ」
当然のことながら女騎士は怒っていた。
「ひえーっ、すみません! すみません! この手が! この手が悪いのですーっ!」
俺は女騎士に全力土下座
「隙ありじゃ、ボケーーーッ!」
したかと見せ掛けて、女の顔面に雑巾を投げた。
「……きっ、貴様(ゴゴゴゴゴッ」
当然の如く、女騎士はキレていた。
「 私がペルセウス王国近衛騎士団、団長――クリス=ロイスと知っての狼藉か! 」
その少女は鋼の鎧を纏い、腰には大剣を携えていた。
(……騎士団、団長?)
と、言うには少女は幼く、髪は綺麗な金髪をポニーテールにしており、顔も少々気が強そうではあるがとても整っていた。
「それで団長様は俺に何の用事かな?」
俺はクリスとその後ろに並ぶ騎士達を一瞥して質問した。
「話はセシル殿から聞いたが、水浸しの姿で屋敷を徘徊し、あまつさえペルシャ様に取り入ろうとしているそうだな」
「……なっ!?」
俺は咄嗟にセシルさんを見た。
「てへ♡」
セシルさんがテヘペロした。
色々問い質そうと思ったが可愛いので許した。
「例えペルシャ様が許そうともこの私が許さん! 即刻、この屋敷を立ち退け!」
「……」
まあ、クリスの言っていることはもっともであった。
現状、俺達はただの不審者でしかなく、そんな俺達が屋敷をうろつく方が異常であったからだ。
とはいえ、右も左もわからぬ異国で外に放り出させれるのは嫌であった。
俺はともかく姫には衣食住の苦労を掛けたくなかった。
「クリスちゃん! 甲平くんと愛紀ちゃんはいいの! 二人はわたしの友達だから!」
……えっ? 俺達、友達だったの?
突然の友達判定に俺は困惑した。
「……初めでの友達っ、嬉じずぎまずっ……!」
……姫が感動して咽び泣いていた。何故なら、姫は立場もあり友と呼べる人間がいなかったのだ、悲しいことに。
(胸も無い、パンツも無い、友達もいない……お痛わしや、姫)
「心の声が漏れてますよ、甲平♡」
……俺は姫に電気アンマをされた。金玉潰れるかと思った。
「とっ、友達ィ! なりませぬ! 旦那様も納得いたしませんよ!」
「でっ、でも!」
「やめてくれ、姫! 痛いから! 金玉潰れちゃうから!」
「「ちょっと、真面目な話してるから黙ってて……!」」
俺が電気アンマされている間、口論を繰り広げていたペルシャとクリス。
「……」
そんな二人の口論を端から見て、俺は歩きだした。
「 ペルシャ、もういいよ 」
――俺はペルシャの前に出た。
「これ以上の口論は無駄だ」
「でも!」
「……金玉に響くからあまり大きな声出さないでくれる」
「……」
俺はペルシャを説得して、クリスの前に立った。
「諦めてくれたか? 聞き分けがよくて助かるな」
「いや、俺からもこの屋敷への滞在を頼みたい」
……そう、俺は諦める気など毛頭なかった。
「無論、ただで泊めろとは言わない。俺は警備や護衛ならできるし、姫もこの容姿ならペルシャの影武者になることができる」
……これはあくまでも交渉だ。姫が影武者になるなど大反対であった。
とはいえ、俺達の有用性を示せなければ交渉は成立しないだろう。
優先すべきは当分の生活の確保であった。
「下らぬな。その程度の利益、素性を知らぬ貴様ら二人を招き入れるリスクには釣り合わないな」
……しかし、クリスは受け入れてくれなかった。
「話は終わりだ。速やかにこの屋敷から立ち去
「 俺は強いぞ 」
――俺はクリスの言葉を遮った。
「はっきり言うが、俺は騎士団の中で一番強いお前より強い。俺を仲間に入れればそちらの姫様の護衛も楽になるぜ」
――ジャキッ……。クリスが抜刀し、その切っ先を俺に向けた。
「痴れ者が、口を慎め」
クリスの表情はただただ冷淡で、その顔から冗談の色は見えなかった。
「私は王国最強の騎士団の中で頂点に立つ騎士だ。貴様こどき取るには足らぬ」
「試してみるか?」
刃の切っ先を向けられても俺は一歩も退かなかった。
「……」
「……」
俺とクリスは無言で睨み合った。
「いいだろう。私に膝を付かせることができれば貴様の用件を呑んでやる!」
クリスは刃を収めて、俺に背を向けた。
「 いや 」
――ピタッ……。俺の言葉にクリスが足を止めた。
「あんたを倒す……条件はそれでいい」
「後悔するぞ」
そんなクリスの言葉に俺は。
「 させてみな 」
……真正面から引き受けた。