第36話 『 最後の三分 』
――ラスト三分
……俺は腰のポーチに手を回した。
(……物理的に後三分で十回もボールを奪えない)
勝機はあった。しかし、タイムオーバーであった。
(後十分早く〝心眼〟の弱点に気がつけばまだ間に合った)
……ちくしょうっ
……クソッたれ
「……」
なーんて、甘ったれたことを考えるような男じゃねェんだよ。
(最初の宣言通り100点取ってやる)
……俺は伊墨甲平だ。
型破り
破天荒
「 俺らしく行こう 」
――ボンッッッッッッッッッ……! 俺は煙玉を地面に叩きつけ、白い煙幕が部屋に立ち込めた。
「――視覚封じっ」
「正解」
……キャンディの〝奇跡〟――〝心眼〟と〝座標交換〟は見ることに依存している。
それこそが、五十分以上ずっとボールを取りに行く中で気づいたキャンディの弱点だ。
対象物を見なければ心は読めないし、対象物の正確な位置を把握しなければ座標の交換もできなかった。
だから、見せない。俺の姿など見せてやるものか。
――ボンッ! ボンッ! 俺はありったけの煙玉を使い、部屋中に煙幕を充満させた。
(キャンディと俺、姿が見えないの同じ!)
だ が !
(俺の〝耳〟なら捉えることができる……!)
……とくんっ……とくんっ
……すぅー……はぁー
(聴こえるぞ! お前の心音! 息遣い! 丸聞こえだ!)
――01:59
(――二分、切ったッッッ……!)
影 分 身 の 術
――俺は十体の影分身をつくりだした。
(行くぞ。影分身応用術――……)
胡 蝶 乱 舞
――俺と影分身は煙幕の中を縦横無尽に駆け回った。
「――っ」
煙幕で充満した部屋中に無数の足音が至る所から鳴り響く。
(混乱しろ、キャンディ。見えない今、音を頼るしかないお前にこれは効く筈だ)
キャンディが周囲に目を配らせ、俺の気配を追う。しかし、常人の〝聴力〟しか持たない彼女には俺の本体は追えない。
――01:24
(――仕掛けるなら)
今 ァ !
――ドッッッッッ……! 俺はキャンディの背後から飛び出し、ボールへ飛び掛かる。
「――っ」
キャンディは素早くボールを背中に回し、俺から遠ざける。
「逃がすかよ!」
「逃げ切るの!」
俺は切り返しと同時にキャンディに飛び掛かる。
パシンッ……。キャンディは俺の手を弾く。
「今度はこちらの番なの!」
キャンディが踵落としを俺に振り降ろす。
ガッッッッッッッッ……! 俺はそれを両腕でガードする。
(――そこだ!)
……糸が絡みつく。
残り――……。
6 0 秒 !
俺は後ろへ跳び煙幕の中に戻った。
「また煙幕の中に……!」
再び姿を眩ませる俺にキャンディが綺麗な顔を歪ませる。
――ビィンッ……。糸が張る。
「!!?」
――引ッッッ……! キャンディの足が極細ワイヤーに引っ張られる。
「――っ」
(これがラストチャンスだ……!)
――俺はボールに飛び掛かる。
――キャンディの身体が宙へ放られる。
「させないのッ……!」
キャンディがボールを背に回し、守りに入る。
「 ワイヤーは二本だ 」
――引ッッッ……! 俺はボールに巻きつかれたワイヤーを引っ張った。
「――っ!」
「貰うぜ――100点」
白いボールがキャンディの手から引き剥がされ、宙へ放られる。
「返せなの!」
「させねェよ!」
キャンディがボールを取り返そうと駆け出すも、俺はキャンディに組み付き押さえつけた。
キャンディは完全に封殺した。
……後は?
「任せたぜ、影分身」
「まさかっ!」
煙幕が晴れる。
無数の影がボールに集まる。
――十体の影分身が白いボールへ飛び掛かっていた。
「ラスト十秒だ、キャンディ=シロップ……!」
残り時間――……。
――00:10
「見届けな! これがお前が見下した俺の! 凡人の!」
――ガシッッッッッッ……! 十体の影分身が同時に白いボールをキャッチした。
「 意地だッッッ……! 」
第二試験
強奪ゲーム
受験者、伊墨甲平
総得点、
1 0 2 点




