第34話 『 お悩み相談に正論はNG 』
――〝神の子〟
……その言葉の意味について、キャンディは教えてくれた。
この世界に生きる人間には一人一つだけ〝奇跡〟が備わっている。
しかし、そんな人類の中で二つの〝奇跡〟を天から与えられた人間がいた。
それこそが――〝神の子〟。多く強者がはこびるこの世界でも一握りの存在である。
その数は極めて少なく、世界に十人も居ないとされていた。
「……それがキャンディの正体なの」
キャンディは悲しげに自身の出自について語った。
「だから、どれだけ頑張ったてもキャンディからボールは奪えないの」
キャンディが悲哀の色を隠して、元の無表情に戻した。
「キャンディは三億人に一人の天才だから、凡人とは違う
そこでキャンディは気がついた。
「……ZZzzzzzzzz」
……俺が横になって爆睡していたことに。
「寝てるのっ!?」
まさかのリアクションに、キャンディは衝撃を受けた。
――その後ろに、ボールに手を伸ばす俺がいた。
「――っ!」
キャンディは咄嗟にボールを下げて、俺の腕をかわす。
「逃がすかよ!」
俺はもう片方の手でボールを狙う。
「させないのっ」
――パシンッ……。キャンディは俺の手を弾いて、後ろへ跳んだ。
「……チッ」
「危なかったの」
俺とキャンディは反対方向へ距離を取った。
「……何でなの、伊墨甲平はさっきまで寝ていた筈なのに」
「よく周りを見な」
俺に言われ、キャンディが周りをキョロキョロと見回した。
「……伊墨甲平が……二人いるの」
……そう、キャンディの言うように、俺は二人いた。
一人は横になって爆睡している伊墨甲平。
もう一人はキャンディと対峙している伊墨甲平。
「分身の術だ! 引っ掛かっただろ!」
俺が笑うと、横になって爆睡していた俺は一枚の札となって床に落ちた。
横になって爆睡していた俺は影分身であったのである。
本物の俺は隠れ身の術で白い床に隠れていたのだ。
「だが、やるな。完全に不意を突いたと思ったが反応するとは驚いたよ」
「……ムッ」
上から目線な俺の物言いに、キャンディが眉根を寄せた。
「ムカついたかよ、天才様よォ」
「――」
……俺は凡人だ。
何度も見下された。
何度も馬鹿にされた。
「見下されるのは慣れてっけどよ。やっぱ腹立つぜ――その目」
俺はキャンディの目を見た。
――悲哀に満ちた目。
俺には何となくわかる。
キャンディにはきっと過去に何かがあったのだ。
……そして、それは決していい思い出ではなかった筈だ。
(……だが、そんなことはどうだっていい)
他人の悲しい過去なんて俺には関係なかった。
「覆してやる! 見返してやる! そんで教えてやるよ……!」
俺はキャンディに拳を突きだした。
「凡人が天才様を覆すことなんてよくあることだってなァ……!」
……その宣戦布告は白い部屋に響き渡った。




