第33話 『 走って、跳んで、奪い盗れ! 強奪ゲーム、始まる! 』
「……準備はいいの?」
「ああ、いつでもいいぜ」
……俺とキャンディは一階にあるトレーニングルームにいた。
トレーニングルームは真っ白な部屋に窓だけがあり、他には何も置いていなかった。
「ルールは簡単、キャンディからボールを奪い取れば10点、弾き落とせば2点、制限時間は一時間、一時間以内であれば何度でも挑戦してもよしなの」
「こっちは最低でも100点取らなきゃなんねェからな、助かるよ、キャンディ」
……たったの十回。たったの十回ボールを取れば昨日の減点を取り戻せる。
「これは貴方の運動能力・判断能力を見る試験なの。だから、全力でやってくれればキャンディも助かるの」
「心配いらねェよ」
俺は軽いストレッチをする。腕や脚を伸ばし、膝の屈伸運動もする。
「 端っからそのつもりだよ……! 」
――駆ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺は真正面からキャンディのボールを狙う。
(速攻で10点をもぎ取ってやる……!)
「――」
俺とキャンディの間合いは一瞬で〇になる。
俺は白いボールへ手を伸ばす。
――俺の右手が空を切った。
「 !? 」
……それだけではない。
「……何で後ろ?」
そう、つい先程まで俺の目の前にいたキャンディが俺の背後に立っていた。
(……回り込まれた? でも、そんな素振りは一ミリも無かったぞ)
俺も馬鹿正直に真正面から飛び出したとはいえ、キャンディには跳ぶ・走るといった動作の前兆すら見られなかった。
(マジで何が起こった?)
俺はキャンディの姿を観察するも、疑問は解消されなかった。
「……(ドヤァ」
キャンディが振り向き様にどや顔してくる。
「上等だ! コラッ!」
虎 法
――俺は高速で白い部屋内を駆け回った。
床を、壁を、天井を、俺は白い部屋内を縦横無尽に駆け回る。
「……」
しかし、キャンディはボールを持ったままピクリとも動かなかった。
(クソッ、全く動じないってか!)
だったら!
――俺は背後からキャンディのボールを狙う。
こっちから攻めてやるよ……!
「こっちから攻めてやるよ」
――トンッ……。俺の背後にキャンディが立っていた。
(また、後ろを取られた! それに――……)
「また、後ろを取られた。それに――……」
「「 俺の心が読めるのか 」」
……俺とキャンディの言葉が重なった。
「――ッ!」
「当たり、なの」
――ゴッッッッッッッッッッッッ……! 俺の後頭部に回し蹴りを叩き込まれた。
「――くっ!」
「隙あり」
俺は堪らず床を転がった。
それでも俺は受け身を取って、事なきを得る。
「おい、後頭部に回し蹴りはやり過ぎじゃないか」
「こちらから手を出さないとは言ってないの」
「……チッ」
衝撃のタイミングで前回転して、ダメージを緩和していたので強くは言わなかった。
(……正直、頭を蹴られたことなんかどうでもいい。問題はキャンディの他人の心を読む能力――そして、瞬間移動能力だ)
恐らく、キャンディは他人の心を読むことができる。それについては確信してもいい筈だ。
だが、問題は瞬間移動能力の方だ。こちらについては仕組みが全くわからなかった。
(……そもそも、〝奇跡〟とか言うとんでも能力は一人で何個も持てるもんなのかよ)
セシルさんの言い種からして、一人一つだけだと思っていたのだがどうやらそうでもないようであった。
「 正解、なの 」
……俺の心を読んだのか、キャンディが答えた。
「キャンディには読心術と瞬間移動の〝奇跡〟、二つの〝奇跡〟を使うことができるの」
……どうしてだよ、キャンディ。
「その名は――〝神の子〟。世界で十人と居ない、二つの〝奇跡〟を操ることのできる人間なの」
……そう語るキャンディの顔や声は少しだけ寂しげであった。




