第31話 『 洗い上手なセシルさん 』 《♡》
「甲平様、お背中痒い所は御座いませんかー?」
……キャンディの身体を拭いて、涼しい場所で寝かせた俺は、セシルさんに背中を洗ってもらっていた。
「あー、もう少し右、いや上」
「こちらでしょうか?」
「やっぱり左、右、左、右、上、上、下、下、A、B?」
「A? B?」
「すみません、俺もよくわかりません」
……ノリで言っただけなので。
「力加減はこのままでよろしいでしょうか?」
「はい、バッチリです」
心地好い刺激が背中を撫でる。汚れだけではなく日頃の疲れも落ちてしまいそうであった。
「背中、傷だらけですね。それに僧帽筋も凄く鍛えられています」
そう言ってセシルさんが背中をつんつんしてくる。
「……」
うむ! ムラムラするな!
しかし、俺ぐらいになれば心頭滅却することによって完全に勃起をコントロールすることができるのだ。
故に、腰に巻いているタオルが天幕を張ることはないのである。
「 ふぅー 」
――耳に息を吹き掛けられた!?
「ふふっ、悪戯しちゃいました♡」
「……」
……ペルセウス王国に新たな山が勃ち上がった。
それは降り積もる雪のように白く、タオルの生地に似た質感の山である。
その山を前にした俺は名前をつけることにした。
その山の名は――……。
ボ ッ キ マ ラ
……山を巡る少年と少女の物語が今始まる。
「……ヤバいな」
俺は頭を抱えて呟いた。
「何がヤバいのですか?」
ひょこっ、とセシルさんが後ろから顔を覗かせ
「あぁーーーーーーーーーーッ!」
……俺は咄嗟にセシルさんの顔面に泡を叩きつけた。
「キャ~~~~~~~ッ! 目がぁ~~~~~~~ッ!」
セシルさんは堪らず顔を押さえてタイルの上を転がる。
「あっ、すみません」
……やり過ぎた。
「……もうっ、酷いですよぅ」
「本当にすみません」
セシルさんは顔の泡を落として、唇を尖らせた。
(……怒っている顔も可愛いな)
伸びる、伸びる、鼻の下伸びーる。
「むぅー、ちゃんと反省してますかぁ」
「してます! してます! 超してます!」
俺は土下座で誠意を見せた。
「なーんて、もう怒っていませんよ♪ それでは続きをいたしましょうか」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
そんな訳で今度は正面を洗ってもらうことになった。
「はーい、手を挙げてくださいねー」
セシルさんは丁寧に脇の下まで洗ってくれる。
「……あの、セシルさん。一つ訊いてもいいですか?」
「……? 構いませんが」
俺には一つ気になっていたことがあった。
「どうして怒らないんですか? それに怒るどころか身体まで洗ってもらって」
「……」
正直、役得過ぎて恐いくらいである。
「うーん、そうですねー」
セシルさんは顎に人差し指を当てて言葉を選ぶ。
「 感謝の気持ち、ですわ♡ 」
「……感謝の気持ち?」
……何かしたっけ、俺? 特に思い当たる節が無かった。
「今回の襲撃、甲平様が居なければ被害はもっと大きくなっておりました。ですので、今回一番頑張った甲平様に恩返しをしようと思いまして」
「……それで身体洗いですか?」
「はい♡」
……昨日頑張って良かった~~~っ!
「ですが、俺はただ自分の仕事をしただけで、別に仕事以外のことはしていないんですけどいいんですか?」
俺の任務はペルシャと姫の護衛と二人に害為す人間の排除だ。俺は普通のことをしたまでだった。
「あら、謙虚なんですね」
「初めて言われましたよ、それ」
謙虚だなんて生まれて初めて言われた言葉である。
「まあ、結果を出したので臨時ボーナスとでも思って受け取ってください♪」
「……ボーナス?」
……知らない単語だ。
「手柄を上げた人へのご褒美って感じですかね」
「ああ、なるほど!」
それなら何となく伝わった。
「とにかく、好きでやっていますので遠慮しなくてもいいということです」
「それならば、素直に厚意に甘えさせていただきます」
そして、セシルさんの身体洗いは再開された。
腕から指先まで丹念に洗われ、首、胸、腹と体幹を泡立った垢擦りで擦ってくれた。
時折、胸や腹をつついて「凄く鍛えられていて素敵です♡」と言ってくれたり、リップサービスも徹底されていた。
まあ、結論を言えば最高の身体洗いである。
「ありがとうございました、セシルさん」
俺は素直に感謝の気持ちを伝えた。
「凄く良かったです、本当に」
「あら、それは良かったです♪」
セシルさんはいつものニコニコ笑顔で言葉を返してくれる。
「それじゃあ、後は」
流石に腰から下まで自分でやろうと、セシルさんから垢擦りを受け取ろうとした。
「――最後までしましょうか?」
――セシルさんが頬を紅潮させ、俺の内股を撫でた。
……………………。
…………。
……。
「……………………えっ?」
最後までって最後までだよな?
えっ、いいの? ありなのそれ?
俺は勿論いいんだけどね、うーん、社会的にありなのか?
いや、ありじゃね?
うん、社会的にとかは置いといてありじゃね?
「えっと、じゃあ」
よろしくお願いしまぁーーーーーー
「 う・そ♡ 」
……セシルさんが小悪魔笑みを浮かべた。
「うん、まあ、そうだよね、知ってましたよ、俺は。そもそも、そんな原始的な嘘に引っ掛かるのは子供までで俺は子供じゃないし、今話しているのも何だか言い訳っぽいけど言い訳じゃないし」
「凄い早口ですねー♪」
「……」
……悔しくなんて、悔しくなんてないんだっ。
「それでは、私はお先に上がらさせてもらいますね」
「……あっ、はい」
俺は涙を我慢して、垢擦りを握った。
しかし、思う。
俺はこのまま虚しい気持ちで身体を洗ってもいいのだろうか。
折角の風呂なのに、こんなに悲しい気持ちでいていいのだろうか。
「あのっ、セシルさん……!」
……俺は咄嗟にセシルさんを呼び止めた。
「……? どうかなされましたか?」
「えっと、別に大したことではないんですが」
そうだ、俺は昨日頑張ったのだ。
ならば、少しぐらい我が儘を言っても許される筈であろう。
「……甲平様って、呼び方固すぎませんか?」
「……?」
……ずっと、気になっていたのだ。
「あの、俺はもうお客様って訳でもありませんし、使用人としてもセシルさんの方が先輩ですので」
俺はセシルさんに「甲平様」と呼ばれることに違和感を感じていた。
「もっと、親しみのある呼び方をしてもらってもよろしいでしょうか!」
「……甲平、様」
俺からの予想外な頼み事にセシルさんが面食らっていた。
「わかりました」
しかし、セシルさんは二つ返事で頷いてくれた。
「それならばどうしますかね、甲平さんとか甲平くんがいいですかねー」
セシルさんは真剣に考え始める。
「伊墨くんは――……某執事長と被るから却下として、伊墨さんは少し他人行儀過ぎますかねー」
「……えーと」
そこまで真剣に考えられるとは思っていなかったので、俺は少し焦った。
「あっ、決まりました♪」
セシルさんが花が咲いたような笑みを浮かべた。
「 甲くん、何てどうですか? 」
……甲平から一文字取って甲くん、か。
「いいと思います」
「では、決定ですね♪」
セシルさんは最後にこちらを向いて、
「 お先に失礼しますわ、甲くん♡ 」
……と、はにかんで大浴場から出ていった。
「……甲くん……いい響きだな」
俺はタオルを取って、下半身を垢擦りで擦った。
下まで洗ったら俺も帰ろう。
……そう思っていたときだった。
――ガラガラガラー、引き戸が開かれた。
(……セシルさん、忘れ物でもしたのか
「 貴様、そこで何をしている? 」
……クリスだった。
すっぽんぽんのクリスが風呂桶を片手に立っていた。
「えーと」
俺は全裸で身体を洗っている。
クリスは額に青筋を浮かべて、見るからに憤っている。
「風呂」
「天誅ーーーーーーーーーーーッ!」
飛来する鉄拳。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……!」
……俺の悲鳴が王宮内にこだました。
当作品を拝読くださり誠にありがとうございます。
本作も約三十話が終わり話の方向性が定まってきたものと思います。
特にトラブル等も無ければ完結まで完走する所存でありますが、作者のモチベーション次第で執筆が遅くなってしまうこともあります。
ですので、読者様に一つお願いがあります。
お暇があれば、気が向いたときでいいので感想を戴けないでしょうか。
作者も人間ですので、反応が無い中で活動をするのは正直テンションが上がらないです。
好評だけではなく、批判的意見も受け入れます。
とにかく! 感想が欲しいんです!
御一考よろしくお願いします。
長文失礼しました。
PS.暇なときにアクセス数を確認するのですが、《♡》が付いているタイトルのアクセス数が他のタイトルと比べて若干ですが多かったりします。
私もノクターンで同じことをしますので少しほっこりしました。
規制と私の筆力不足もあり、読者様を満足させられないことを悔しく思います。
いつかは、規制内で読者様を満足させられるよう表現力を磨いていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。




