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 第30話  『 正しい女湯の覗き方 』



 ……更衣室から聴こえてくるセシルさんの声。


 「一日の締めのお風呂は欠かせませんね」

 「復旧作業で汗もかきましたので尚更ですね」


 ……いや、セシルさんだけではない。この声はクロエさん! クロエさんも来ていた。

 もう間もなくして二人が風呂場に入ってくるだろう。そうなればゲームオーバーだ。

 この大浴場は広い。しかし、隠れられるような遮蔽物はほとんどなかった。


 (考えろ! 無い頭を振り絞って思考しろ! もう時間がないんだぞ!)


 俺は考える。


 ――ピコーン!


 そして、閃いた。



 ――ガラガラガラー、同時、更衣室と大浴場を区切る引き戸が開かれた。



 「……おや?」


 セシルさんが目の前の光景に首を傾げた。


 「先に入られていたのですね。キャンディさん――クリス様」


 ……俺とキャンディは湯船に浸かり、俺は変化の術でクリスに化けていた。


 「はい、セシルさんとクロエさんも復旧作業は終わられたのですか?」

 「ええ、まだ少し残っておりますが、段取りが付きましたので今日のところは締めさせていただきました」

 「……おや、ロイス騎士団長。風邪でもひかれましたか? 少し声が枯れているようですが」


 クロエさんが僅かな声の違いにも勘づく。


 「そっ、そうですね。コホッ、少し風邪気味でして」

 「そうでしたか、無理はなさらないでくださいね」


 ……何とか誤魔化せそうであった。


 二人はそのまま身体を洗い始める。


 (……よし、一先ず切り抜けたな)


 とはいえ、問題は山積みであった。


 一つは、キャンディが爆睡中であること。


 もう一つは急いで変化した為、右半身と下半身の変化が間に合わなかったこと。


 そう、今の俺の体は左の上半身だけクリスになっていたのだ。


 (……とにかく、セシルさんとクロエさんが出るまで粘るしかな――……熱くね、風呂!)


 今更ながら湯船のお湯、滅茶苦茶熱かった。


 (だが、耐えるしかない! 今、ここで動いたら敗けなんだ!)


 ……俺は一体何と戦っているのだろうか?


 (熱い、熱い、熱すぎるっ。何か気を逸らすものはないのか?)


 俺は周囲を見渡した。


 「……メイド長、また胸が大きくなられましたか?」

 「えっ、そうですかね? 確かに最近下着がキツくなってきたような気がしますね」


 ……あるじゃん、気を逸らすもの。


 俺は身体を洗うセシルさんとクロエさんの方をガン見した。


 「相変わらずのプロポーション、羨ましいです」

 「そんな、クロエさんの身体もとてもお綺麗ですわ」


 ……セシルさんの言うように、クロエさんの身体付きも魅惑的なものであった。

 セシルさん程ではないが大きく膨らんだ胸部に、引き締まった腰、お尻に関してはセシルさんよりも大きかった。



 ……エッロッ、どっちもエッロッ。



 ――つぅー……。


 (おっといかんいかん、鼻血が出てきたぞ)


 俺はバレないように鼻血を拭った。

 しかし、二人の泡だらけな裸体を見るだけで僅かに熱さが退いてきていた。エロス様様である。



 「 さてと、そろそろ浸かりますか 」



 ――セシルさんとクロエさんが身体の泡を桶のお湯で流した。


 (――来る! 大接近だ! イヤッホーーーッ!)


 二人の裸体を間近で見られる! これが興奮せずにいられるか!



 ……しかし、同時にとても危険な状況でもあった。



 (……接近するということはバレる可能性も高くなる。ここは少し間合いをとった方がいいか)


 見たいけど離れたい!


 見たいけど!


 離れたい!


 見たいけど!


 離れたい!


 見たいけど!


 見たい!


 (見たいッ!)


 ……俺は二人との距離を離さなかった。寧ろ、最初よりも若干だが近付いていた。


 「湯船、失礼しますね」


 セシルさんとクロエさんが同じ湯船に浸かった。その距離、およそ二メートル! クナイ十三本分の長さである!

 俺は半分変化できていない為、横目で二人の裸体を凝視する。


 ……ぷかぷか


 湯船に浮かぶ四つの魅惑の果実……眼福過ぎるぞーーーッ!


 「……おや、クリス様」


 セシルさんが俺に話し掛けてきた。


 「何故、先程から同じ方向を見られているのですか?」

 「……ギクリッ」


 ……半分しか分身できていないからとは言えなかった。


 「……そっ、それはー」


 何で俺はさっきまでの時間で言い訳を考えていなかったんだーッ!


 A.おっ○いに見とれてたから。


 そもそも、何でセシルさん達の接近を許したんだーッ!


 A.おっ○いを見たかったから。


 とにかく、手頃な言い訳を言わないと!


 「えーと……あっ!」


 ――天啓。まさに、圧倒的な閃き。

 


 「 寝違えました! 」



 ……糞みたいな閃きである。


 「……寝違えですか? では、身体ごとこちらへ向ければ良いのではないでしょうか?」

 「駄目なんです! 腰も寝違えて捻れないのです!」

 「……それは寝違えと言うのでしょうか?」


 A.言わない。


 「そうですか♪ 寝違えなら仕方ありませんよね♪」


 セシルさんが手を合わせて笑顔で納得した。


 (――と)



 通ったァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ……!



 ……まさに、奇跡。針の穴のような小さな穴を通ったのだ。


 (生き残った!)


 生存!

 起死回生!


 (生き残った……!)


 俺は内心でガッツポーズをした。


 「それにしても今日のお風呂は熱いですね」

 「そうですね、少し早いですが上がりましょうか?」

 「私達は先に上がらせていただきますねー♪」


 セシルさんとクロエさんは立ち上がる。


 「クリス様はまだ浸かっていますか?」

 「はっ、はい。もう少しだけ」

 「そうですか、ではお先にー♪」


 そして、セシルさんとクロエさんはそのまま更衣室に入っていった。


 「……」


 ……どうやら俺は生き残れたようである。


 「もう少ししたら俺も上がろうかね」


 他の使用人が来ないとも限らなかった。

 そういえばと、俺はキャンディの方へ目をやった。


 ……まるで茹で蛸のようにのぼせていた。


 「……」


 俺は内心で詫びを入れて、キャンディを湯船から出した。

 そろそろ更衣室も空いただろうと、俺も変化を解いて、湯船から上がった。


 (……もう大丈夫かな?)


 二人の話し声も途絶え、更衣室の扉が閉まる音も聴こえた。

 俺は安全を確信して、キャンディを抱えて出口へ



 ――ガラガラガラー、目の前の引き戸が開かれた。



 「 おやおや、もう上がられるのですかー? 」


 ……セシルさんだ。身体にタオルを巻いたセシルさんが俺の前に立ちはだかった。


 (やられたっ!?)


 理由はわからないが、セシルさんは帰った振りをしていたのだ。

 何にしても変化も解いている状態では、言い訳すらしようがなかった。


 「あのー、セシルさん」

 「クロエさんなら先に帰ってもらいましたよー♪」


 訊いてもいないのにセシルさんが教えてくれた。


 「えーと、セシルさん」


 「怒っていませんよ♪」


 またも、訊いてもいないのにセシルさんは答えた。

 しかし、これは予想外な反応である。

 普通なら怒るなり、罪を問うなりするであろう。


 「……♪(ニコニコ」


 確かにセシルさんはいつものニコニコ笑顔であった。


 「あっ、甲平様。お身体洗われましたか?」

 「……? いえ、洗ってはいませんが」


 何故、そのような質問をしたのか、セシルさんの心意は読めなかったが素直に質問に答える。


 「それは丁度良かったですわ♪」

 「……?」


 セシルさんは花が咲いたような笑みを浮かべた。



 「 でしたら、お背中流しましょうか♡ 」



 「……………………喜んで」



 ……どうやら、まだ帰られそうになかった。


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