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  第2話  『 はうはうメイドとインテリメイド 』



 「こちらがお手洗いとなっております」


 ……一応、客と認知された俺と姫は屋敷を案内されていた。我ながら不審者そのものなのによく通されたものだ。


 「こちらは浴室となっておりまして、男湯と女湯、その中でも主君の浴室と使用人の浴室に分かれております」

 「へえー」


 俺と姫はセシルさんの案内の下、ペルセウス王宮内の施設を紹介されていた。

 見ず知らずの俺達に王宮内を案内するのは、些か無用心な気もするが、俺達は大人しく彼女らの厚意に甘えることにした。


 「こちらは洗濯室です。王宮のメイド達によって、屋敷中の衣服が洗濯されます」

 「へえー、なるほど……てか、何で水回りばっかなんだろう?」


 案内されている身で文句を言うのはあれだが、怒濤の水回り連打に抑えられず突っ込んでしまう。ついでに誰のかもわからないパンツを一枚拝借した。


 「それでは続きまして――……」

 「……」


 ……俺の疑問は特に解消されなかった。


 「 メイド長ーーーっ 」


 次の場所を案内しようとしたセシルさんを違うメイドさんが呼び止めた。


 「あら、トールさん。そんなに慌ててどうされたのですか?」

 「はうっ、すみません! まさか、お客様の対応をされていたのですか!?」


 駆けつけたのは、二つのおさげがチャームポイントなメイドさんである。その様子は何だか忙しなくて危なっかしかった。


 「別に構いませんよ、それでまた何かやらかされました?」

 「またとか! やらかしたとか! 酷いですぅ!」

 「違われるのですか?」

 「違わないですけどーっ!」

 「……」


 どうやら、このトールさんという名のメイドさんは、問題児で常習犯のようであった。


 「……はあ、それで用件は?」

 「そっ、それはですね」


 トールさんがおずおずと躊躇いがちに用件を述べる。


 「厨房にゴキブリが出ました」


 「大事じゃないですか」


 突如、セシルさんがとてつもなく険しい顔をした。


 「申し訳御座いません。事を済ませましたらすぐに戻りますゆえ、少々この場を離れさせて戴きます」

 「……はあ」


 何かよくわからないが、そういうことらしい。


 「代わりに、当屋敷のメイドで最も博識なメイリンさんに案内させます――メイリンさん」


 セシルさんがそう呼ぶと、すぐに眼鏡を掛けた知的そうなメイドさんが姿を見せた。


 「どうかなされましたか、メイド長」

 「私とトールさんは〝G案件〟を片付けますので、お客様の案内をお任せします」

 「……〝G案件〟ッ」


 メイリンさんも眉根を寄せ、険しい表情になる。


 「承りました。客人の案内は私にお任せください」

 「宜しくお願いいたします――行きますよ、トールさん」


 セシルさんとトールさんは足早に厨房へと行ってしまった。


 『……』


 怒濤の展開においてけぼりを食らう俺達。


 「……えー、こほん。それでは私がメイド長と代わりまして案内役を務めさせて戴きます、メイリン=カーネーションで御座います」


 メイリンさんが丁寧にお辞儀をした。


 「えっと、よろしゃす」


 ……何だかぎこちない感じに屋敷内の案内は再開された。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「こちらがペルシャお嬢様のお部屋になります」


 ……メイリンさんが最初に案内したのはペルシャの部屋であった。


 「何でわたしの部屋なのっ!?」


 「普通に案内してもつまらない確率が78パーセントでしたゆえ」


 「勝手だよ!」


 ペルシャご立腹。


 「まあまあ、そんな怒らなくてもいいんじゃないか」

 「甲平くん……って、もうタンス漁ってるっ!?」


 俺は主にペルシャの下着を探すべく、洋服タンスを漁っていた。


 「甲平、乙女の私物に漁るなんて行儀が悪いですよ」


 姫が主として叱りつける。


 「わかったよ、姫がそう言うなら止めるよ」

 「……あら? 意外に物分かりがいいんですね」


 あっさり身を退く俺に、姫が意外そうに目をぱちくりさせた。


 「なーんて、隙あり!」

 「!?」


 俺は姫の背後を取り、ペルシャの下着のようなものを姫の胸元に当てた。


 ……スカスカ


 ペルシャの下着と姫の胸の間に巨大な空白が生まれた。


 「……」

 「……」




 ――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺の顔面に鉄拳が叩き込まれた。




 メリメリィッ……! その鉄拳は鋭く重く、俺の顔面に深くめり込んだ。


 「ほんっっっっっとサイッッッテーーーーーッ!」


 姫が顔を真っ赤にして激怒した。


 「……すまん、やり過ぎた」

 「……大丈夫? 顔まだめり込んでるよ」

 「大丈夫、十センチ程めり込んでるだけだから」

 「大丈夫なの、それっ!?」

 「うん、すぐ治るから」

 「すぐ治るの!?」


 「キエェーーーーーーーーーーッ!!!」


 「急に叫び出したーーーッ!」


 ……ボコッッッ! 俺の頭が突如隆起した。


 「あっ、間違えた」

 「間違えちゃったのっ!?」


 しばらくすると俺の頭と顔は元通りになった。


 「……どんな身体の構造なの」


 ペルシャが冷や汗を垂らした。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「続きまして、メイド長の部屋となりますー」


 ……メイリンさんが次に紹介したのはセシルさんの部屋であった。


 「どうしてセシルさんの部屋に?」

 「普通に紹介したらつまらない確率

 「オケ、わかったわかった」


 ……まあ、折角セシルさんの部屋に来たので何か物色しよう。


 「すんな!」


 姫に頭を叩かれるが俺は構わずタンスを漁った。


 「やべえ! この下着エロくない!」


 俺は何か透け透けでさらさらした手触りの下着を取り出した。


 「コラ! だから、やめなさいって!」

 「……」

 「無視すんな!」


 姫の必死の制止にも構わず俺はセシルさんのベッドの下も捜索する。


 「……愛紀ちゃんも大変だねー」

 「……はあ、わかってくれますか、この苦労が」

 「いや、特にわかんないよ」

 「……」


 姫が泣いた。


 「まあ、あまり気に病むなよ、姫」

 「あんたが言うな! てか、ベッド漁りやめろ!」


 「はっ! これはっ!?」


 俺は姫を無視して、ベッドの下からある物を取り出した。


 「人参っ!?」


 ……何故か人参が出てきた。


 ……何故か人参の皮は剥かれていた。


 ……何故か形が〝アレ〟に似ていた、気がする。


 「……姫、これ?」

 「私に訊かないでください(///」


 姫は察したのか顔を紅潮させる。


 「何で人参がっ!?」


 ……ペルシャはよくわかっていなかった。


 「説明します、お嬢様。この人参は恐らくメイド長が夜な夜なご自分で慰


 「説明すんな!」


 俺は律儀に説明しようとするメイリンさんを制止した。



 そ  の  と  き  だ  。



 「 皆様、私の部屋で何をされているのですか? 」



 ……部屋の入り口にセシルさんがいた。


 「……甲平様、何を手に持って――えぇっ!?」


 俺の手にある卑猥な人参を見留めたセシルさんが声を上擦らせた。


 「ちょーーーとっ! 何やっているんですかーーーっ!」


 セシルさんが俺から人参を取り上げ、部屋にいる全員を追い出した。


 『……』


 それからしばらくの間、バッタンガッタン部屋から音がしたかと思ったら、セシルさんがひょこっと部屋から出てきた……耳まで真っ赤かであった。


 「あのー、あれは非常食でして、けっして! けーーーして! 他に用途はありませんから!」

 「あっ、はい」


 俺はセシルさんの勢いに押されて、気の抜けた返事をしてしまう。


 「……ところで、何故このような展開に?」

 「えっと、メイリンさんに案内されて」

 「ちょっ! お客様!?」


 俺は即行でメイリンさんを売って、メイリンさんは滅茶苦茶キョドった。


 「……へえー、そうでしたかー(棒」


 ……瞬間、セシルさんの瞳から光が消える。


 「メイリンさん、少し向こうの部屋に来てください」

 「はっ、はい」


 メイリンさんはセシルさんと一緒に、数ある部屋の中の一室へと二人だけで入る。


 『……』


 ……五分後。


 「お待たせしました、すぐに案内に戻らせて戴きますねー」


 笑顔のセシルさんだけが部屋から出てきた……セシルさんだけが!


 「それでは行きましょうか」

 「あっ、はい」


 そんな訳で王宮内の案内は再開された。


 「……しくしく」


 ……誰かが泣く音が聴こえた。


 俺は気になって、セシルさんが出てきた部屋を覗く。


 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ」


 ……メイリンさんが泣きながら正座していた。そして、メッチャ謝っていた。


 「ドンマイ☆」


 俺はメイリンさんに親指を立てて、扉を閉ざした。



 ……そして、俺は先行していた皆の後ろに付いていった。


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