第26話 『 七凶の血族 』
「 これより、昨日の襲撃について緊急会議を開きます 」
……広い一室に長テーブルが四つ、四角になるように配置され、そこにはペルセウス王宮で働く主要人物とおまけで俺がいた。
その面子は錚々(そうそう)たるものであった。
メイド長――セシル=アスモデウス
執事長――ファルス=レイヴンハート
二番隊隊長――キャンディ=シロップ
二番隊副隊長――ロキ=キリシュタイン
三番隊隊長――クロエ=マリオネット
三番隊副隊長――ラビ=グラスホッパー
騎士団長――クリス=ロイス
副騎士団長――レイド=ブレイド
忍者――俺
「本日はオルフェウス従事長が不在しておりますので、代理で私、セシル=アスモデウスが進行をさせていただきます」
セシルさんが軽い会釈をして、他のメンバーも答礼をした。
「それでは各所掌の被害状況を報告願います」
「ほな、自分から」
最初に二番隊隊長……ではなく副隊長のロキ=キリシュタインであった。
何故なら、二番隊隊長――キャンディ=シロップはチョコレートを食べるのに執心しており、話を聞いていなかったからだ。
「うちの被害者は七名で、全員死亡しとります。死亡者の詳細に付いては配った資料を確認しとってください」
ロキはお気楽というか軽薄というか、とにかく軽い感じであった。
長身と糸目が特徴的であり、どことなく胡散臭い印象を受けた。
「……(モグモグ)」
一方で、チョコレートを食べ続けるのは二番隊隊長――キャンディ=シロップである。
キャンディは西洋人形のように美しい少女であった。
少しウェーブの掛かったブロンドヘアーと大きな赤いリボンが特徴的な少女である。
(……見た目は十歳かそこらといったところだが)
……しかし、肩書きは二番隊の隊長だ。見た目とは裏腹に高い能力を持っているに違いない。
「では、次は私から」
ロキが着席すると同時にクロエさんが挙手をして、立ち上がった。
「三番隊の被害は計四名、いずれも死亡しております。死亡者はメイリン=カーネーション、トーマス=ポーラ、パトリック=カートン、メアリー=スーダンの四名です」
クロエさんが着席し、続いてクリスが立ち上がる。
「近衛騎士団内の被害はありませんでした」
「……」
……騎士団の被害は〇。刺客も意図的に力の弱い人間を狙っていたようである。
(……内通者のアリシアには随分としてやられたな)
やはり、情報は命である。死者総数――11名に被害総額も一十百千……とにかく数字がやたらと続いていた(そもそも、この世界の金の単位がわからない)。
「報告ありがとう御座います。では、ここからが本題です」
セシルさんが間を空けて、言葉を紡ぐ。
「 今回の襲撃の首謀者に心当たりのある方はいませんか? 」
『――』
……そう、今回の刺客はあくまでも雇われの者、その刺客の雇い主がいる筈であった。
『……』
「Zzzzzzzzzz……」
……皆、セシルさんの言葉に沈黙した。キャンディだけ寝ていた。
「怪しい奴ならおりますよねぇ? アスモデウスメイド長」
沈黙を破ったのはロキであった。
「 ドラコ王国 」
……以前、セシルさんから聞いたことのある名であった。
「隣国で、過去何度も姫さんとの婚約を申し込んできて追い返された、戦争好きの軍事大国……怪しいとゆーならそいつが一番ではないでしょーか?」
『……』
ロキの言葉にその場にいる全員が沈黙で肯定した。
「ご意見ありがとう御座います。他の方々で違う意見等はあれば挙手をしてください」
『……』
……沈黙。皆、同じ考えであるようである。
「皆様の意見はわかりました。しかし、問題も皆様、理解しておられると思います」
(……もっ、問題?)
……俺だけ理解していなかった。
「ドラコ王国は強い。特に〝七凶の血族〟――ベルゼブブ家が味方に付いております」
――〝七凶の血族〟
〝傲慢〟の血族――ルシファー家
〝強欲〟の血族――アモン家
〝色欲〟の血族――アスモデウス家
〝暴食〟の血族――ベルゼブブ家
〝嫉妬〟の血族――レビヤタン家
〝怠惰〟の血族――ベルフェゴール家
〝憤怒〟の血族――サタン家
……この世界に名を轟かせる、最凶の魔力を天から授かった一族である。
「……〝七凶の血族〟の各戦力は一国に留まることに非ず、最低でも三ヶ国の戦力を結集しなければまともに戦うことはできません」
……三ヶ国でトントンとは随分と大規模だな 。
「ドラコ王国はベルゼブブ家と縁の深い国だ。ドラコ王国と戦うということは〝七凶の血族〟の一角に喧嘩を売るということになるだろうな」
クリスが苦虫を潰したような顔で呟いた。
「だが、ペルセウス王国への直接侵略を成していないのも事実だね」
ファルスがいつも通りのイケメンフェイスで微笑する。
「それは第一王女を無傷で手に入れたいから、見逃されているのでは?」
レイドがファルスの楽観的な意見に突っ掛かる。
「いや、無傷で手に入れるだけなら戦争で勝って侵略すればいいと思うんだ。だが、それをしないということは、ドラコ王国もこちらの戦力を量りきれていないんじゃないかな」
「……なるほど、確かにそうですね」
レイドはファルスの言葉に納得して引き下がった。
(……もう、帰っちゃ駄目かな)
話に付いていけていない俺は帰りたくなってきた。
「……すぴー……すぴぴぴー……」
キャンディもでっかい鼻ちょうちんを作って爆睡していた。
(かーえろ!)
……俺は議論が続く会議室からしれっと外へ出た。
――会議室。
(……おや? 甲平様は帰られてしまいましたか)
……目を離した隙に甲平様は席を外していた。
(……本当に自由な方ですねー)
まあ、甲平様からすればよくわからない話だったのかもしれなかった。誘った私も少しだけ申し訳ない気持ちになった。
「一先ず、今後の方針としましては警備の強化として、番犬等の増強と減員してしまった使用人の補充をいたします」
私は一つ目の議題をまとめた。
「――それでは次の議題に移ります」
……議題はもう一つある。
「 索敵部隊――〝猟牙〟の新設。そして――…… 」
……今回は見えない敵にやられた。故に、見えない敵への対抗戦力が求められた。
「 伊墨甲平の〝猟牙〟配属及び隊長への推薦について討議いたします 」
……それが、今会議の二つ目の議題であった。




