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 第25話  『 戦場の午後 』



 ……午後、俺達は王宮内の安全化を含めて、死体や破損物の処理をしていた。


 「こういうのは死体が腐敗する前にやるのが一番だ。腐乱死体なんて見るのも触るのも、臭いを嗅ぐのも最悪だからな」

 「……ご教授ありがとさん」


 俺はラビと共に死体処理をしていた。

 死体処理は人一人を包めるサイズの風呂敷に死体を包み、二人で焼却炉まで運んでいた。


 「慣れているようだが、よく襲撃を受けたりしているのか?」

 「いや、滅多に襲撃なんてねェよ」


 ……だが、とラビは間を空けて言葉を続けた。


 「前の職場でよくやっていたからな、嫌でも慣れたよ」

 「へえ」


 ……どんな職場だよ。とは訊かなかった。


 「……にしても、結構暴れられたな」


 俺は周りを見渡した。


 ……そこには荒れ果てた廊下が向こうの方まで続いていた。


 床は崩れ落ち、窓は割れ、壁には誰かの血がこべり着いていた。


 「これは元通りにするのに時間が掛かりそうだな」

 「案外、そうでも無いぜ」


 ラビが俺の言葉を否定する。話している間も作業の手は止めていなかった。


 「王宮の執事やメイドは結構優秀でな、全員が戦闘をできる訳ではないが後片付けは得意な奴等が多いんだ」

 「へえ、そういうものなのか」


 俺は何となく納得した。

 それから俺とラビは死体を片付けたり、床にこべりついた血を拭き取ったりした。

 俺も忍だ。人を殺したり、死体を見るのが初めてという訳ではないが、死体の処分は気分が少しだけ悪くなった。

 とはいえ、これも仕事だ。サボる訳にもいかないし、血塗れの屋敷で生活なんてしたくなかった為、真剣に取り組んだ。

 幸いと言うにはかなり不謹慎な話ではあるが、処分をした使用人の中に俺の知っている人物はいなかった。

 死んだ人間の遺族には悪いが、セシルさんやファルスの死体を処分するより、見ず知らずの死体を処分する方が気持ちが楽であった。


 「……そう言えば、アリシアはどうなったんだ?」


 俺はふと思い出し、ラビに訊ねた。


 「あー、アリシアか」


 ラビは口を動かしながらも手を止めることはなかった。



 「 あいつは死んだよ 」



 「……はっ? どういうことだよ」


 ……アリシアから情報を得る為にわざわざ捕獲したのに、殺してしまっては元も子もなかった。


 「別に俺達が手を下した訳じゃねェよ。あいつは自ら何本かの竹を突き刺し自殺したんだ」

 「……そういうことか」


 拷問される前に自殺するとは予測できなかった。

 しかし、ただの殺し屋にしては思い切りが良すぎていた。


 (情報を差し出す代わりに見逃してもらうなり、交渉しようとすらしなかったのか)


 殺し屋って奴は基本的に雇われ稼業だ。金と命さえあれば充分、雇い主のことなど二の次……そういう奴等が多い筈だ。


 (……だが、自殺した。生き残る為の努力をすることなく自殺したのだ)


 ……何か、理由があったのか?


 (任務未達成なら死よりも辛いことがあるのか? それとも、別の誰かによる意思か?)


 わからないことが多すぎた。しかし、考えたところで答えが出そうではなかった。


 「おい、向こうの死体も運ぶぞ」


 ラビに呼ばれて俺は現実に呼び戻される。


 「ああ、すぐ行くよ」


 俺には死体処理の仕事がある。今は仕事に専念するべきであった。

 俺はラビの後ろに付いていく。

 少し離れた廊下の上に血塗れの執事が横たわっていた。

 横腹を切り裂かれ、腸のようなものが床に放り出されていた。


 (……大量出血からのショック死か)


 俺は風呂敷を片手に遺体の前まで歩み寄った。


 「――」


 ……俺はその遺体を前に言葉を失った。


 そして、ほんの少し前に考えたことが脳裏を過った。



 ――セシルさんやファルスの死体を処分するより、見ず知らずの死体を処分する方が気持ちが楽であった。



 ……俺はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。


 その遺体はとても綺麗な顔をしていて、俺が今まで見た死に顔の中で一番綺麗な死に顔をしていた。

 そして、この先の人生でこれ以上に綺麗な死に顔を見ることはないと断言できた。


 「……おい……何でお前が死んでんだよ」


 俺は二度と口も利けないであろうその遺体に話し掛ける。無論、返事など返ってくる筈もなかった。



 「 ファルス 」



 ……そう、その遺体は執事長――ファルス=レイヴンハートのものであった。


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