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 第249話 『 甲平 ペルシャ 』



 ――AM:0547


 「……甲平くん、だよね?」


 ペルシャが不安げに確認する。


 「……ああ、そうだよ」


 そんな覇気の無い返事をした俺は心中で悩んでいた。


 (……謝るべきなのか?)


 ペルシャの家族を殺した。

 クリスを死なせてしまった。

 王宮で働く人間を沢山殺した。


 ……謝らなければならない理由は沢山あった。


 (今更、何も言えばいいんだよ)


 ペルシャと言葉を交わす資格なんて俺には無い。

 その行動は自己満足に過ぎない。


 (でも、姫も言ってたな)


 ―― 一緒にペルシャさんに謝りに行きましょう


 それが普通のこと。

 犯した者のケジメ。


 (……ケジメ、つけないとな)


 俺はペルシャと対峙して、その瞳を真っ直ぐに見つめた。



 「――ごめん」



 そして、俺はペルシャに頭を下げた。


 「お前の両親も、兄貴も、使用人も俺が殺した。クリスも死なせてしまった」


 言葉に並べるだけで本当に酷いことをしていた。死んだ方がマシなぐらいの大罪人だ。


 「沢山酷いことをして本当に済まなかった」


 ……姫。


 (……ケジメはつけたぞ)


 これで終わりだ。

 これでもういつでも死ねる。


 「……じゃあ、もう行くから」


 俺はペルシャの返事も待たずに頭を上げ、踵返して歩きだす。


 「――待ってっ……!」


 ペルシャに呼び止められ、俺は素直に歩みを止める。


 「勝手にどっか行かないで……ちゃんと説明してよっ……!」


 「……」


 正直、もう何も話したくはなかった。さっさと誰もいない場所へ消えてしまいたかった。

 しかし、それは俺が決めることではない。少なくとも当事者であるペルシャが納得していない内はまだそのときではないであろう。


 「さっき俺が言った通りだよ。俺がお前の大切な人を殺した……それじゃあ、納得してくれないか?」

 「納得できる訳ないでしょっ……何でそんなことをしたの? 誰かに操られていたんでしょ? そうだよね? ちゃんと説明してよっ!」

 「……」


 ……どうやら、全部説明するまで帰してくれないようであった。


 「お前の家族を殺したのはアルベルトの能力に操られてたから、クリスが死んだのはアルベルトとの戦闘で、使用人を殺したのは〝九尾〟の力が暴走したからだ……これで満足か?」


 隠す必要もないので全部素直に打ち明ける。


 「……じゃあ、甲平くんは何も悪くないってこと?」


 「――そんな訳無いだろっ」


 あまりに平和ボケした感想に俺はつい語気を強くして否定してしまう。


 「俺が殺した事実は変わらないっ。お前も一国の姫ならそれがどういうことかわかるだろっ……!」


 「……っ」


 どんな理由や経緯があろうと、俺が国王一族や王宮の使用人を虐殺した事実は変わらない。

 そう、俺は国家の反逆者でしかなかった。


 「お前だけは許すなよ……この王国の王になるんだろっ」


 ペルシャはこの国の王になる。国王も王妃も王子も俺が殺したからだ。


 「……」


 俺の言葉にペルシャが項垂れ、沈黙する。


 「じゃあな、ペルシャ……いい王様になれよ」


 「……」


 もう充分であろう。説明も説得もした、納得もしてくれた。これ以上この場に留まる由はなかった。

 雨は依然として止む気配を見せない。

 ペルシャも早く何処かへ雨宿りしてほしかった……風邪を引かれてはばつが悪かった。


 「……」

 「……」


 俺は無言で歩く。

 ペルシャは無言で俺の背中を見つめて立ち尽くす。


 「……………………楽しかった」


 雨が地面を叩きつける音が煩かった。


 「……この半年間、俺の人生で一番楽しい半年間だった」


 これは独り言だ。誰に聞かせるものでもない。



 「 ありがとう……幸せになれよ 」



 ……そんな俺の独り言は雨音に押し潰され、ペルシャへ届くことはなかった。


 「……」


 ペルシャに別れを告げ、少し歩くと王宮の敷地と王都の境界線が見えた。

 もう少し歩けばこの王宮の外だ。一度出れば二度と戻るつもりはなかった。


 (……思い返せば、色々なことがあったな)


 初日、ペルシャと浴場で出逢った。


 (……あと、クリスに殺されかけて、セシルさんに夜這いされたっけ?)


 ……初日から濃厚な一日だった。


 しばらくして、プロの殺し屋から襲撃を受けて、返り討ちにした。


 (……王宮で働き始めてから一週間足らずであれはビビったな)


 襲撃事件の後にはキャンディから試験を受けた。


 (……試験を通してキャンディと仲良くなれたし、皆で遊んだ海水浴やビーチバレーは楽しかったな)


 またしばらくして、ドラコ王国と戦争が始まった。


 (……戦争もきつかったが、その後の姫の奪還は何度も死にかけたな)


 王宮内人気投票とかいうふざけた行事もした。


 (……当時は苦労したが今思い返せば楽しかったな)


 クリスとフェリスの姉妹喧嘩にも巻き込まれた。


 (……クリスとの一週間の山籠りは楽しかったし、始めて弟子が出来て嬉しかったな)


 合コンや建国祭はカオスだった。


 (……来年の建国祭一緒に回るって約束守れなかったな)


 ……心残りもあったが、当の姫がいないのであれば諦める他なかった。


 セシルさんの当主継承戦にも巻き込まれた。


 (……セシルさんの意外な一面も見れて楽しかったな)


 ペルシャの誕生日パーティーをした。


 (……こんなに最高な誕生日は初めてだった。こんなに最悪な誕生日も初めてだった)


 ……思い返せば、本当に色々なことがあったんだなぁ。


 楽しいこと。

 悲しいこと。

 ふざけ合ったこと。

 ボロボロになったこと。


 ……呆れる程に濃厚な日々だった。


 (ペルシャ、クリス、セシルさん、ファルス、キャンディ、ロキ、ラビ、クロエさん……面白い人達ばかりだったな)


 ……退屈なんてする暇もなかった。


 「……」


 あと数歩で敷地の外、決別の境界線だ。

 

 「……」


 忙しない日々よ。

 騒々しい日々よ。


 「……」



  さ  よ  う  な  ら



 ……そして、俺は王都の石畳を踏み締めた。


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