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 第241話 『 夢に堕ちる。 』



   まん        



 ……紫色の煙が俺の身体から噴き出し、地下通路に充満していく。


 「……」


 アルベルトが無言でこちらを見つめる。まるで、何かを見極めているようであった。


 (……迂闊には近づいてこないか)


 ――正解。アルベルトの警戒の読みは当たっていた。


 (奴等の無敵化にだって弱点はある筈だ)


 ビィドルの無敵化は運動エネルギーのみ、ゼロの無敵化には時間制限……無敵の種類は幾つもあり、弱点も様々であった。


 (……そして、模索した先に選んだ手段が)


 ――〝万蛇羅まんだら〟。


 ……それは、万の毒蛇に相当する猛毒の霧であった。


 (毒ならロキの時間制限を削れるし、〝シェフ〟の無敵化にも通用する可能性がある)


 仲間がいる状態では使えない、まさに特攻技と呼べる代物である。


 (さて、あちらさんはどう動くかね)


 俺は毒を噴き出したまま、敵の動向を窺った。


 「どうしますか、アルベルト様」

 「私なら近づかずとも切り刻めますが」

 「……そうだね」


 二人に判断を委ねられ、アルベルトは顎に手を当て考える素振りを見せる。

 そう、素振りだ。本当に考えていたのかも怪しいぐらいにアルベルトは答えを出す。


 「恐らく有毒ガスの類いだろう。ロキは待機、〝シェフ〟は火を放て」


 「……っ!」


 やはり、アルベルトは頭が切れる。一瞬で分析し、正しい選択を導き出したのだ。


 「御意――……〝直火ロティール〟」


 〝シェフ〟が右手から火炎の塊を放つ。


 ――まずいッ!?


 〝万蛇羅まんだら〟の毒霧は高発火性のガス! 僅かな火の粉一つで




 ――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!!




 皮膚を焼く灼熱。

 網膜に刻まれる目映い閃光。

 天地を引っくり返す暴風。

 鼓膜を突き破る爆音。


 (……何で……だよっ)


 俺は灼熱の爆風に体を委ねながら怒りに震えた。


 (俺の〝忍の七つ道具〟ですら一瞬で攻略しやがったッ……!)


 ふざけんなよッ!

 俺の取って置きなんだぞッ!

 何年間準備してきたと思ってんだッ!


 (それをたった一瞬で! まるで嘲笑うように容易く!)


 そんな酷い話があるのかよ!


 「……クソったれが」


 俺は地面をバウンドしながら転がる。


 「全部掌の上だってのかよっ」


 ――アルベルト=リ=ルシファー……!


 怒りで血液が沸騰しそうになる。

 絶望の影が俺を呑み込む。


 「まだだッ! まだ、敗けていないッ!」


 俺は舞い上がる粉塵の中すぐに立ち上がる。

 ここで諦めたら何もかも終わりなんだ。大切なものを失って、クリスの死も無駄になる。


 (有り得ねェよな! そんなことッ……!)


 俺の背中の向こう側には姫がいる。離れた場所で身を潜めている姫がいる。

 そう、戦闘が始まってからずっと姫は離れた場所で避難していた。

 でなければ広範囲での毒ガス攻撃なんてする筈がなかった。


 (……まだ、アルベルト達には姫が隠れていることは気づかれていない)


 あとはここを死守するだけ――ただそれだけでいいんだ……!


 「オ"オ"ォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ……!!!」


 ……獣に似た咆哮が地下通路に響き渡る。


 (……頭脳戦じゃアルベルトには敵わない。だから、考えさせるな)


 もっと速く、

 もっと激しく、


 「――ブッ殺すッッッ……!」



     刹     那



 ――疾ッッッッッッ……! 俺は一瞬でアルベルトとの間合いを制圧する。


 「激しいね、まるで猛獣のようだ」


 赤い軌跡がアルベルトの首へ迫る。

 〝鬼紅一文字〟の側部に刃が触れる。



     オペラ     ステラ



 ――キンッ……。俺の速攻からの抜刀は意図も容易くいなされる。


 (――ま)


 だまだァッ!



     紅     桜



 縦横無尽に繰り出される必殺の刃。

 しかし、アルベルトは当然のように全ての斬撃を捌き切る。


 (また凌がれた!)


 これがセンドリック=オルフェウスの剣術。

 不完全とはいえ鉄壁の剣捌きは健在であった。


 「だったら――……」


 〝忍の七つ道具〟、第六番――……。



   万    蛇    羅



 ――俺は毒霧を全身から噴き出し


 「……って、アルベルトは?」


 アルベルトは既に〝万蛇羅〟の射程範囲の外へと退避していた。


 (馬鹿なッ! 何で俺が技を使う前に退避していただと!?)


 読みが早いとかいうレベルを超越していた。最早、未来すらも見透しているようであった。


 「……やっぱり、一番厄介なのはてめェだな――アルベルト」


 幾ら奇襲を仕掛けようとも、どんなに奇策を練ろうとも奴の目に全て見透かされてしまっていた。


 (……能力の強さだけでは説明できない本物の強さがアルベルトにはある)


 考えても駄目、考え無しに突っ込んでも駄目、まるで勝てる気がしなかった。


 「私に集中するのは構わないが、少しばかり周りが見えていない」

 「……何っ!」


 アルベルトは間合いの外にいる……………………あれ、他の二人は?


 「ここには強者しかいないというのに」

 「――」



 ――ロキが俺の背後から殴り掛かってきていた。



 「油断大敵やな、イ~スミくん♪」


 「――」


 ロキの一撃は硬化を貫く要注意事項である。だから、絶対に見逃してはならないのだ。

 そう、絶対に見逃してはならない……故に?



 「 見逃す訳ねェだろ 」



 ――俺は右ストレートをかわし、カウンターで頬骨に拳骨を叩き込んだ。



 「――なッッッッッッ……!?」


 ロキが吹っ飛ばされ、間髪容れずに〝シェフ〟が二本の包丁で斬り掛かる。


 「私の包丁は貴様の硬化ごときでは凌げぬぞッ……!」


 (――遠距離の斬撃では刃が通らないとみて、近づいてきたか)


 ……だったら好都合。


 「 〝転〟 」


 ――俺は烏と位置を入れ換え、烏が代わりに切り刻まれた。


 「からの――……」



   万    蛇    羅



 切り刻まれた烏が弾け、毒霧が〝シェフ〟を呑み込んだ。


 「――ッ!」


 〝シェフ〟が初めて苦痛に顔を歪める。


 「…………それか」


 ――毒。


 ……それが〝シェフ〟の無敵化の弱点のようであった。


 (――行けるか?)


 ロキの無敵化も確実に削れているし、〝シェフ〟の弱点も見つけた。

 こちらもギリギリではあるが少しずつ反撃の糸口が掴めてきていた。


 (残るは一番厄介な


 「少しばかり調子に乗りすぎてはいないかい?」



 ――神速の連続突きが襲い掛かってくる。



 「……っ、傲慢のあんたに言われちゃお仕舞いだなっ」


 俺は全ての突きを薙ぐ刃で相殺する。


 「減らず口を」


 アルベルトが一瞬で背後へ回り込み、俺の首筋目掛けて刃を振り下ろす。


 「そりゃあ、お互い様だろーがっ……!」


 俺は体を翻して斬撃を回避、その回転を生かして斬り返す。

 しかし、アルベルトも二本目の刃を抜き、俺の斬撃を弾く。



 ――俺とアルベルトの視線が交差した。



 「待っていたぜ……この瞬間をよォ……!」


 〝忍の七つ道具〟、第四番――……。


 アルベルトの追撃の刃が空を切る。

 しかし、その刃が届くよりも早く。




          げん




 「――」



 ……アルベルトは夢の中へと堕ちたのであった。


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