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 第236話 『 限界? 』



 ――〝シェフ〟。


 ……〝四騎士アポカリプス〟が一人。白い調理服を身に纏ったクリスも認める実力者。


 ――〝ピエロ〟。


 ……〝四騎士アポカリプス〟が一人。道化師の姿をした大男で〝シェフ〟と同格だと見積もられる実力者。


 ――ロキ=キルシュタイン。


 ……元〝王下十二臣おうかじゅうにしん〟の一人にして、〝七凶ななまがつ血族けつぞく〟が一人。他者の姿・能力を模倣コピーする〝奇跡スキル〟を有し、未だに〝奇跡スキル〟を明かしていない曲者。


 (……そして)


 ――アルベルト=リ=ルシファー。


 ……神聖・ルシファー帝国皇帝にして、ルシファー家とレビヤタン家の〝血継術ディープ・ブラッド〟を有し、ロキ同様に〝奇跡スキル〟を明かしていない未知数の化け物。


 (……対するは忍者と騎士の二人だけ)



 ああ、


 勝てる気がしねェ……。



 (他の奴等は何処にいるんだよ)


 オルフェウス従事長は?


 ラビは?


 キャンディは?


 ソフィアさんは?


 レイドは?


 クロウディアは?


 バロウは?


 ……何で、ここには俺とクリスしかいねェんだよ。


 「……どうする、クリス」


 俺はこの場にいる唯一の戦友に意見を求めた。


 「――斬る」


 「……はっ?」


 クリスが即答し、抜刀の構えをする。


 「私の背中にも、貴様の背中にも傷つけてはならない者がいる。この先は絶対死守、何人たりともここは通してはならない……!」


 「――」


 「気を引き締めるぞ、伊墨ッ……!」


 「……………………ははっ」


 ――俺は馬鹿だ。


 (……いや、違うな)


 〝らしくなかった〟……と言うべきか。


 俺はもっと馬鹿だった。


 俺はもっと単純だった。


 俺はもっと楽天家だった。


 俺はもっと自信家だった。


 (……情けねェ、俺としたことが戦場の空気に呑まれちまった)


 物事は複雑化すればいいというものではない。

 時には単純化することによって〝行動パフォーマンス〟を洗練することもある。


 (状況が混乱して、護るべき者を斬って、少しばかり調子を崩しちまった)


 俺に〝不幸面シリアス〟は似合わない、もっと〝笑顔コメディアン〟に行こう。

 それが何よりも〝俺〟らしいというものである。


 「……〝馬鹿〟でいてくれてありがとな、クリス」


 「……貴様、〝馬鹿〟にしているのか?」


 そんな呑気なやり取りをする余裕も生まれていた。


 「まあ、よい……今から大事なことを説明するからよく聞け」

 「おう」


 クリスの視線はアルベルトを射ぬく。


 「アルベルトの〝王道エンペラーロード〟には気を付けろ、貴様も一度体験しただろうが一度奴に命令を下されればそれで終わりだ」


 ――〝王道エンペラーロード〟。


 ……他者を言葉一つで思うがままに操る力。


 (……あの力のせいで俺は取り返しのつかないことをしちまったんだよな)


 ペルシャの家族を殺して、姫にさえ刃を向けた……もうあんなことは二度と御免であった。


 「手段は何でもいい、奴の声を一切聴こえないようにしろ」

 「――押忍」


 俺には〝九尾‐槍型〟の〝変化〟の力がある。この力で肉体を変化させ耳の穴を塞いでしまえばよかった。


 (……仕方無いとはいえ、無音で戦うのは厳しいな)


 俺は人よりも耳が良い分、普段から聴力に頼る嫌いがあった。

 反応速度、特に死角からの攻撃への反応は大幅に鈍化するであろう。

 しかし、弱音を言っている暇はない。


 (――今はただ順応しろ)


 状況に適応し、最適解を選び続けろ……そうすれば必ず希望は生まれる筈であった。


 「行くぞ、クリス」


 「ああ、行こう」



     縮     地



     雷     哮



 ――俺とクリスは目にも止まらぬ速さで飛び出した。


 (コイツらは格上ッ! だからこそ先手必勝だッ……!) 


 打倒アルベルトの答えは先手必勝からの猛攻撃である。

 時間が経てば経つ程地力の差が浮き彫りなる。そうならない為の速攻、相手が力を出し切る前に殺す。


 俺はアルベルトの背後を取り、刃を振り下ろす。

 クリスはアルベルトの右腕側から斬り掛かる。


 神速の波状攻撃がアルベルトに襲い掛かる。


 「――ロキ、〝シェフ〟」


 呼ばれた二人が俺とクリスの前に滑り込み刃を素手で受け止める。


 「簡単にキングは取らさへんで♪」


 「王に触れたくば先ずは私を倒してからだぞっ……!」


 ……悪夢だ。


 まさか、万物切断の〝鬼紅一文字きくいちもんじ〟と〝魔王サタン〟が容易く受け止められるとは思わなかった。


 (……ロキはゼロの無敵化を使っている筈だが、まさか〝シェフ〟も似たことが出来るとはな)


 無情な現実に溜め息が出そうになる。


 「まっ、泣き言言ってる暇なんかねェよな」


 切り替えろ、伊墨甲平。敵が強いのなんて予想の範疇であった筈だ。

 今すべきことは〝絶望〟ではなく〝模索〟―― 一縷の希望を見逃すな。



 「 はい♪ ブラックア~ウト♪ 」



 挿絵(By みてみん)


 ――ッ!!?


 ……視界が真っ暗になった。


 (……何だこれは?)


 原因は何だ?


    誰が何の為に?


 クリスは?


    敵の攻撃!?


 俺はどうすればいい!!


    とにかく今は――……。



 俺は咄嗟に肉体は最大限に硬化させた――次の瞬間。



 ――斬斬斬斬斬斬ッッッ……! 無数の斬撃が俺の身体に打ち付けられた。



 (危なかった! 危うくミンチになる所だったぞ!)


 状況が不明瞭なときの回避・防御は戦いの基本であった。


 (……恐らくこの暗転は敵の攻撃だ)


 ただでさえ〝王道エンペラーロード〟を警戒しなければいけないのに、視覚まで封じられなんて堪ったものではなかった。


 (……状況は最悪だ)


 ――だが、俺は運が良かった。



 ……俺の視界には俺がアルベルト達と対峙している姿が映っていた。



 (――ガーウィンとの対戦を経験していて)


 俺は五日前に視覚を封じられた中での戦い方と〝第二セカンドアイ〟の使い方を学んでいたのだ。


 (影分身を鼠に化けさせ、瓦礫の影から戦況を見渡す……これなら戦える!)


 ――だが、それは俺だから出来る戦い方である。


 (……クリスは大丈夫なのか?)


 俺はクリスの心配をしていた。

 クリスも影分身の術を使えたがそれはあくまで基礎レベルの話である。応用的な使い方をするにはまだ経験が浅すぎていた。


 「……」


 ……クリスは目を瞑り、静かに刃を構えていた。


 「耳も目も使えなくて、これはかわしきれへんやろ……!」



     ユグド     ラシル



 無数の鋭利な蔓がクリスに襲い掛かる。


 「――〝凪〟」


 クリスは迫り来る蔓に刃を当て、受け流す。


 (そうだ! クリスにはあれがあったんだ!)


 次から次へと襲い掛かる蔓を冷静に無駄なく、全て受け流した。


 ――〝深心神威ディープブルー〟。


 ……全ての感覚を研ぎ澄まし、あらゆる戦況を掌握する〝奇跡スキル〟。


 (今のクリスは耳でも目でもなく、嗅覚・皮膚感覚でも敵を捉えることが出来る!)


 俺が心配するのも失礼な程に便りになる女であった。


 「最高だぜ! クリス!」


 迷いはない!

 気遣いも必要ない!


 火遁――……。


 「 〝火龍熱焼かりゅうねっしょう〟 」



 ――轟ッッッッッッッッッ……! 灼熱の業火がアルベルト等を呑み込んだ。



 (これなら思う存分戦える……!)


 猛々しい業火が地下通路を焼き付くす。

 熱は狭い空間に充満し、熱くて黒い煙が忽ちに立ち込める。


 (この炎はお前には〝効く〟筈だぜ――ロキ!)


 ゼロ=ベルゼブブの無敵化には時間制限がある。それはドラコ王国の戦いで把握済みであった。

 故に与えるのは渾身の一撃ではなく継続的な多撃。つまり、熱と煙による波状攻撃だ。

 この瞬間も、ロキの無敵化の発動限界タイムリミットが刻々と迫っていた。


 ――業火の中から何かが煌めいた。


 俺は直ぐ様身を屈ませる。



     閃      滅



 ――閃ッッッッッッ……! その頭上に光線が突き抜ける。


 「ほら、焦って攻めてきた♪」


 俺は不敵に笑み、今度は巻物を取り出す。


 「水遁――……」



  すい   ぐん   もう   



 ――巻物から多量の水が溢れだし、アルベルト等を呑み込んだ。


 その勢いは正に濁流の如し、目の前にある炎も瓦礫も呑み込んだ。

 これ程の量と水圧の奔流にまともに立っていられる筈もなく、奴等は流されていく。


 「 あ~んど♪ 」


 まだだッ!

 まだ俺の攻撃ターンは終わりではないッ!


 「雷遁――……」


 俺は新たな巻物を開き、解印を結ぶ。



 らい  じん  すい  ぐん  しょう



 ――高電圧の稲妻が巻物から飛び出し、濁流に乗り、水の中にいる者全てを蹂躙した。


 火攻め、水攻め、電気攻め……怒濤の攻撃がアルベルト等へ嵐のように降り注ぐ。


 (これで倒したなんて思わねェよ)


 大事なことは確実に〝削る〟ことである。

 無敵な人間と戦ったことはあるが、その中に無敵であり続けた人間はいなかった。

 無敵には限界がある。少なくともロキの無敵化には時間制限がある。


 「――だから、攻めろ」


 攻めて攻めて攻め続けろ……!



 ――噴ッッッッッッッッ……! 黒い炎が噴き出した。



 「……あんまチョーシ乗んなや、アホんだら」


 「……あれはゼロの」


 ――〝暴食ベルゼビュート〟。


 〝樹王ユグドラシル〟と〝暴炎バースト〟と〝黒鱗アビスメイル〟を複合させたゼロの奥の手。


 「精々調子乗せねェように気張りな、裏切り者」


 確かに強力な力だが一度は倒した相手――勝てない道理はない!


 「火遁――……」


 俺は印を結び、再び火を吐き出



     ロティー     



 ――轟ッッッッッッッッッッ……! 業火が俺を呑み込んだ。


 「忘れていたか、私の存在を」


 〝シェフ〟だ。どうやら斬撃だけでなく炎熱攻撃も出来るようであった。


 「一刀必殺――……」


 ――トンッ……。俺は既に〝シェフ〟の背後で〝鬼紅一文字〟を納刀していた。



     刹     那



 ――斬ッッッッッッッッッ……! 必殺の斬撃が〝シェフ〟に打ち込まれた。


 「忘れてねェよ、クソが」


 俺は咄嗟に肉体を硬化して、火炎を凌いでいたのである。

 しかし、それは〝シェフ〟も同様であり、傷一つ負っていなかった。


 (……無敵化能力者が二人か)


 ……どうやらこの戦い、少しばかり長引きそうであった。



 ――閃ッッッッッッッッッ……! 光線が目の前まで迫る。



 (――〝ピエロ〟から光線ッ!?)


 「ちゃーんす♪」


 まさか、〝ピエロ〟の口から光線が出るなんて予想外であった。

 俺は咄嗟に跳躍して光線を回避するも、右脚を掠めて裂傷を刻まれる。


 「――っ!」


 しかし、直撃は避けた。今度はこちらの反撃であ



 「――二刀流」



 ――アルベルトが短剣と長剣を交差させ背後から斬り掛かる。


 「……ッ!?」


 しまった!? 一手、反応が遅れた!!?


 回避もガードもコンマ三秒は足りない! 硬化で凌ぐしかないが、この剣筋は――硬化を貫く!



    ロス  の  マリア  り



 ――クリスが俺とアルベルトの間に割り込み、迫り来る剣撃を受け止めた。



 「――クリスッ!?」


 「油断するなッ! 馬鹿者ッ!」


 流石はクリス、頼りになる。


 (……強者が六人)


 敵が四人に味方が一人。


 一人一人が一騎当千。


 やや劣勢だが、辛うじて均衡を保っている。


 故に、状況が変わるとするならば最初の一人目が落ちたときであろう。


 「気を引き締めろ、伊墨」


 「ああっ、言われるまでもねェ



 ――つぅ……。鮮血が地面へと滴り落ちた。



 ……ただの鼻血。クリスから出たものだ。


 ――発動限界タイムリミット


 無敵であり続ける人間はいない。

 無敵には各々、発動限界タイムリミットが存在する。

 そして、クリスの〝深心神威ディープブルー〟にも――……。


 「……クリ……ス?」


 不意に数秒前の思考が甦る。



 ――状況が変わるとするならば最初の一人目が落ちたときであろう。



 最初の一人目?

 状況が変わる?



 ……絶望への秒針が静かに回っていた。


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