第235話 『 混血 』
「……どんな手品だ」
……それがアルベルトの剣術に対する感想であった。
「まさかオルフェウス従事長と関係があるのか?」
弟子か? 血縁者か? 全く関係ないとは考えられなかった。
「愉快な推測をしているようだが、私と彼が言葉を交わしたのはつい先程が初めてだ」
「なら、何でお前はオルフェウス従事長の剣術が使える」
僅かに切れは劣るが身のこなしは瓜二つであった。ただ言葉を交わしただけで真似できる筈がない。
「その質問に答える義務は私には無い筈だが」
……それはそうである。
「それはアルベルト様には〝嫉妬〟の一族の血が混ざっているからだよ~ん♪」
何故か答えたのは〝ピエロ〟であった。
「〝嫉妬〟の一族の血……レビヤタン家か」
クリスが〝ピエロ〟の言葉の意図を汲み取る。
「すまん、説明してくれないか」
俺は今一つ話が理解できておらず、クリスに解説を求めた。
「アルベルトはルシファー家とレビヤタン家の混血ということだ」
「……混血だって?」
〝七凶の血族〟とは何度か戦ったことがある。
ベルゼブブ家は〝大喰い〟、アスモデウス家は〝万誘引力〟。各々が強力な〝血継術〟を有していた。
「そして、ルシファー家の〝血継術〟は他者を言葉一つで操る――〝王道〟!」
「……っ」
俺を操り、ペルシャの家族を殺させた力の名に苛立ちを覚えた。しかし、続く言葉にそんな感情も吹き飛んでしまうのであった。
「レビヤタン家の〝血継術〟は能力・外見の完全 模倣――〝下位互換〟だ!」
「……コンプレックス……モンタージュ?」
俺はその名を耳にしたことがあった。
「それってロキの〝奇跡〟だったんじゃ」
「それは違う。キルシュタイン副隊長の〝奇跡〟は我々すら教えられていないんだ」
なんと、俺がずっと〝奇跡〟だと思っていたものは〝血継術〟だったのだ。
……いや待て、ロキが〝下位互換〟を使っていたということは?
「ロキは〝七凶の血族〟だったのか」
「ああ、彼は自分の姓を嫌っていたから別の姓を名乗っていたんだ」
確かに一族を離れて他国へ移住する者は初めてではない。
ロキ以外にもセシルさんだってそうであった。
――だが、問題はそこではない。
「……ならよ、クリス」
状況が呑み込めた俺はある可能性を抱き、アルベルトの方へと視線を寄せる。
「アルベルトとロキは血が繋がっているんじゃないのか?」
「……っ!」
ロキはレビヤタン家。
アルベルトはルシファー家とレビヤタン家の混血。
本当にそこには〝何も〟無いのか?
「――御明察♪ アルベルト様とロキちゃんは従兄弟……つまり母親が姉妹でぇ~す♪」
――またも答えたのは〝ピエロ〟であった。
「……従兄弟だと?」
ロキが従兄弟?
ロキはアルベルトと繋がりがある?
(じゃあ、ロキは――……)
「 やれやれ、全部話してしまうとはね 」
……アルベルトが深い溜め息を吐く。
「君のお喋りには困ったものだ」
「申し訳ありません、性分なもので♪」
全く反省の色を見せない〝ピエロ〟を無視して、アルベルトはこちらの方へ視線を戻す。
「伊墨甲平、君の推測は間違ってはいない」
「……っ」
アルベルトは謎々の答え合わせをするように言葉を紡ぐ。
「 ロキ=キルシュタインは私達の仲間だ 」
微 塵 切
――無数の斬撃が空を切り裂く。
「――甲平ッ!」
「……っ!」
俺とクリスは気配のみで全ての斬撃を斬り伏せた。
「遅かったね、二人とも」
アルベルトの視線の先には白い調理服を身に纏った男と見知った男が立っていた。
「……ゼロ?」
そこにはもう一人、ゼロ=ベルゼブブがいた。
(いや、ゼロは俺が殺した。ってことはつまり――……)
一度見た人間に姿を変えられる男を、俺は一人だけ知っていた。
そいつは王宮一のお調子者で、ふざけた関西弁を使うが、実力だけは本物である。
そいつは〝王下十二臣〟の一人で、二番隊の副隊長を務める程の実力者である。
「――ロキ、か」
「おっ、一発で見破るなんてやるやないか、自分♪」
……目の前のゼロの姿をした男はロキ=キルシュタインその人であった。
「……ロキ、お前」
「その様子やともう全部知っとるようやな」
ロキは溜め息を吐き、いつもと変わらない軽薄な笑みを浮かべる。
「改めて名乗るで、伊墨くん」
……そうか。
「神聖・ルシファー帝国皇帝親衛隊――ロキ=キルシュタイン。よろしゅうな♪」
……ロキはもう〝敵〟なんだな。
「……」
戦況は常に動き続けている。
良くなることもあれば悪くなることもある……経験上、悪くなることの方が多いが。
――適応しろ、伊墨甲平。
戦場では〝適応〟できないものから死ぬ。
有りのままを受け入れ、可能性を模索することが生き残る為の鉄則だ。
「……四対二、か」
それが受け入れるべき現状。
直ぐ様現状から可能性を模索する。
そして、俺は結論を導き出す。
「……絶望的だな、こんちくしょう」
……結論、勝ち筋なんて見当たらなかった。